「マルチベンダーのAIエージェント」はオーケストレーション可能か ServiceNowの戦略から考察

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2025年04月09日 07:41  ITmediaエンタープライズ

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左からServiceNow Japanの原 智宏氏、鈴木正敏氏(筆者撮影)

 マルチベンダーの「AIエージェント」を連携してオーケストレーションすることは可能か――。これまで人間がやってきた業務を代行するAIエージェントがITベンダー各社から続々と提供される中、ユーザー企業にとって今後懸念されるのがこの点だ。


「マルチベンダーのAIエージェント」はオーケストレーション可能か ServiceNowの戦略から考察


 本連載ではこれまでもテーマについて重点的に取り上げてきたが、今回はこの懸念の解消に向けて優位な立ち位置にいると思われるServiceNowの話を聞いたので、紹介して考察する。


●「優位な立ち位置」にいるServiceNow


 「当社が提供する『Now Platform』は、デジタルワークフローからAIのプラットフォームに進化していく」


 ServiceNow Japanの鈴木正敏氏(執行役員社長)は、同社が2025年4月2日に開いた事業戦略についての記者説明会でこう強調した。会見では、同社の原 智宏氏 常務執行役員 COO《最高執行責任者》)も登壇し、「Now Platform」の最新動向について説明した。会見内容は関連記事で確認いただくとして、本稿では冒頭で述べたテーマにフォーカスする。


 鈴木氏は、IT活用の歴史から見るAI時代の企業のITについて次のように説明した(図1)。


 「1990年代から業務領域ごとにシステムが導入され、2000年代には統合基幹業務システム(ERP)が使われるようになって、経営の『見える化』や業務の標準化が図られた。その後、営業や人事などの業務のIT化ニーズも強まり、2010年頃からクラウドの活用も進んだ。しかし、そうして企業内で使う業務アプリケーションが、大手企業では数百にも膨らんでしまい、しかもそれらの連携が不十分なので、使う人が振り回される事態に陥るところが続出した。そうした背景から時代の要請を受けて、特に2020年頃からそれらの業務アプリケーションをデジタルワークフローでつないで仕事をスムーズに進められるようにしたNow Platformの採用が急速に広がった」


 さらに、こう続けた。


 「2020年までは“経営基盤の強化”がシステム導入の目的だったが、2020年以降は“従業員やお客さま体験の向上”にも注力されるようになった。そしてこれからは、生成AIおよびAIエージェントが業務の隅々に入り込む“AIブレークスルー”の時代に入る。Now PlatformはそのAIプラットフォームを担いたい」


 その上で、同氏は「経営基盤の強化と従業員やお客さま体験の向上にAIを組み合わせる。すなわちデータや業務プロセス、AIを単一のプラットフォームでカバーする。それが、次世代のAIプラットフォームのあるべき姿だと確信している」と力を込めた(図2)。


 改めて、Now Platformの特徴として挙げたいのは、ServiceNowだけでなく他社のさまざまな業務アプリケーションと連携させて、社内の業務システムとして横断的なデジタルワークフローを構築できることだ。デジタルワークフローで横串を刺すこの仕組みが、業務を自動化し、新たなサービスを創出するプラットフォームとして機能するわけだ。さらに生成AIとして「Now Assist」、AIエージェントとして「ServiceNow AI Agents」をNow Platformから利用できるようにして、業務の生産性を大幅に向上させる構えだ。


 とりわけ業務を代行するAIエージェントにとって、デジタルワークフローは活躍の場そのものになる可能性が高い。冒頭で同社を「優位な立ち位置にいると思われる」と述べたのは、それが理由である。


●マルチベンダーによる「AIエージェント提携」へ


 今回、Now Platformの最新版ではAIエージェントが本格的に使えるようになった。原氏はその動作について、図3を示しながら次のように説明した。


 「当社では業務をリクエストするユーザーを『リクエスター』を呼ぶ。このリクエスターが何らかの業務をリクエストすると、ワークフローが動き出す。従来は人がそのリクエストを受け取って各業務へと振り分けていたが、これからはその役目を『AI Agentオーケストレーター』と呼ぶAIエージェントが担う。AI Agentオーケストレーターはリクエスターに対する窓口にとどまらず、実行計画を立てて業務ごとのAI Agentを指揮して各ユースケースに対応する重要な役目を担う。一方で、AI Agentオーケストレーターが誤った判断や暴走をしないように、人であるライブエージェントが適切にチェックしながら業務を推進していく。こういった流れを実現したい」


 ここで出てきた「AI Agentオーケストレーター」がミソだ。本稿のテーマからすると、要はこのAI AgentオーケストレーターがServiceNowだけでなく、他社のさまざまな業務アプリケーションのAIエージェントともオーケストレーションできるようになるのかどうかが気になる。


 会見の質疑応答で聞いてみたところ、鈴木氏と原氏はそれぞれ次のように答えた。


 「当社のデジタルワークフローのプラットフォームは、さまざまなベンダーのAIエージェントを連携してオーケストレーションする環境としても適しており、お客さまの多様なニーズにお応えできると確信している」(鈴木氏)


 「技術的な観点で言うと、マルチベンダーによるAIエージェント間の接続についてはさまざまに検証されつつあるが、標準的な仕様はまだ業界として確立しておらず、どういう形になるか見えていない状況だ。従って当社としては今後、個別に接続性を検証してNow Platformでオーケストレーションできる他社のAIエージェントを認定する形を当面はとる。その内容についてはいずれ発表したい」(原氏)


●業界標準の仕様は策定されるか?


 原氏が言うように、IT業界として標準的な仕様が策定されるのかどうかは今のところ見通せないが、マルチベンダーのAIエージェントのオーケストレーションプラットフォームについては有力な業務アプリケーションベンダーやハイパースケーラー、大手ITサービスベンダーがこぞって主導権争いに参入するだろう。


 そして、大手同士では相互のプラットフォームで動作する「AIエージェント提携」のニュースが飛び交うことになるだろう。それらは基本的に、ユーザーニーズの大きさがもたらす動きとなるが、ベンダー側としては新たな勢力争いの構図が出来上がるのではないか。


 そうした中で、ServiceNowがデジタルワークフローによるプラットフォームの優位性を存分に生かせるかどうか、それをユーザーにどう訴求していくかどうか、注目していきたい。



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