
安藤勝己選定「3歳牝馬番付」(後編)
前編◆安藤勝己の「3歳牝馬番付」 苦悩の末に選び抜いたクラシックの有力候補>>
安藤勝己氏が独自の視点で選定する「3歳牝馬番付」。大関、横綱に指名され、GI桜花賞(4月13日/阪神・芝1600m)、GIオークス(5月25日/東京・芝2400m)での活躍が見込まれるのはどの馬か?
大関:エリカエクスプレス(牝3歳)
(父エピファネイア/戦績:2戦2勝)
もともとエリカエクスプレスは、関係者の間でも「走る」と評判だった馬。それが間違いでなかったことを証明したのが、前走のGIIIフェアリーS(1月12日/中山・芝1600m)だ。
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実際、強い競馬だった。直線手前あたりから、他の馬とは行きっぷりが全然違った。馬なりのまま前をかわして抜け出すと、後続に3馬身差をつける完勝劇を披露した。
メンバーが乏しい関東の重賞ゆえの結果、という声もあるが、1分32秒8という勝ちタイムは立派。ひと昔前なら、3歳牝馬にはなかなか出せなかった時計だ。しかも、2着以下を突き放している。これは、この馬の能力がGI級ということを示していると思う。
2戦2勝と負けなし、というのもいい。しかしその反面、キャリアの浅さは気になるところ。フェアリーSでも前半で行きたがるところを見せて、その気性面が多頭数の本番で揉まれたときにどうなるのか、若干の不安が残る。
ともあれ、自分の経験から言えば、この時期の3歳馬なら精神面の不安は、素質でどうにかなるものだと思っている。底を見せていないのは何よりの魅力で、競走馬としてのスケールの大きさも感じる。能力全開となれば、大一番でも間違いなく勝ち負けできるはずだ。
横綱:アルマヴェローチェ(牝3歳)
(父ハービンジャー/戦績:3戦2勝、2着1回)
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昨年来のこの世代のレースを見て、一番レベルが高く、桜花賞本番に結びつきそうだと思ったのは、やはりGI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月8日/京都・芝1600m)。好メンバーがそろっていたうえ、上位4頭が1分33秒台で走っているように、時計も優秀だった。
その阪神JFで大外を回って伸びてきて、2着に1馬身4分の1差をつけて快勝したのが、アルマヴェローチェ。もともと走る馬だと思っていたけど、このレースを見て、自らが思っている以上に力をつけていると感じた。
世代最高レベルのレースにおいて、後続を突き放して勝った。横綱に指名するのは、この馬しかいない。桜花賞に向けても、レースで力を出しきるタイプのようだから、阪神JFからの直行ローテというのも、むしろプラスだろう。
クラシックを目指す3歳馬について、自分が最も重要視するポイントは、追ってからどれだけ伸びるか。クラシックの前哨戦やトライアルなどで、いっぱいいっぱいでなんとか粘って勝ったという馬の場合、力はあっても底が見えているような気がする。逆に、そうしたレースにおいて、追ってから凄まじい伸びを見せた馬、追えば追うほど伸びそうな馬というのは、クラシックレベルにあると思っている。
その点、阪神JFでのアルマヴェローチェは、追ってからの伸びに目を見張るものがあった。こういった馬は、奥があるというか、伸びしろも計り知れない。ただそうなると、終(しま)いの伸び方も含めて、もしかすると桜花賞よりオークス向きかもしれない。
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今年の3歳牝馬は、ずば抜けた存在はいないものの、本当にレベルが高い。とりわけ、番付に入れてもいいような小結、前頭筆頭クラスの馬が何頭もいて、どの馬にするか、かなり悩んだ。最近はトライアルをスキップしてぶっつけで本番に挑んでくる馬も多いぶん、力の比較が難しいことも頭を悩ませた理由だ。
そういう意味では、番付に名前が挙がらなかった馬のなかにも、上位に食い込んできそうな存在はたくさんいる。これまでにクリストフ・ルメール騎手が騎乗して、重賞などで勝ち星を挙げきた馬たちもその候補だ。
いずれにせよ、桜花賞は阪神・芝1600mの外回りで行なわれるようになってから、紛れが少なくなった。その結果、世代上位の力のある馬たちが戴冠を遂げ、勝ち負けを演じている。そうした傾向は今年も変わらないだろう。そして、その桜花賞の上位組がオークスでも覇権を争うことになるのではないか。
ただし、今年は全体のレベルが高いだけあって、現段階で条件クラスでも力のある馬がいる。オークスでは、そういった馬たちが台頭する可能性も十分にある。
安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。