「男女の物語」と聞くと、ついつい同世代の2人を思い浮かべてしまう。ただ、Xに投稿された『花弁抄』は年の離れた男女の“友情と恋愛の中間”を描いた作品だ。
高齢のために息を引き取った清二郎の斎場に、「そのひと、焼かないでください!」と叫びながら入ってきた一人の若い女性・由美。清二郎の友人と自称するその女性は、孫の前で生前の清二郎との交流を話し始める――。
壮大な作画と繊細な心理描写が交じり合う本作を描いたJOYさん(@joy_gowawa)に、『花弁抄』をどのように描き上げたのかなど話を聞いた。(望月悠木)
参考:【漫画】『花弁抄』を読む
◼︎クジラを見に行ったワケ
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――今回『花弁抄』を制作した経緯を教えてください。
JOY:「別離によってもたらされる、その人の知らなかった側面を描きたい」と思ったのが最初です。斎場という場所のおごそかな曖昧さ、死者のために集った場所で生命を維持するために食べる稲荷寿司のおいしさ、死と生の交差する地点、光をよく取り込む大きなガラス窓を描きたいと思いました。
――どのようにストーリーを膨らませていったのですか?
JOY:ガルシア・マルケス作の小説『百年の孤独』を読み、「どれだけ不思議なことも日常に起こりうるし、不思議な出来事は不思議な出来事として、そのままにしていてもいいのだ、いちいち疑問を持たなくてもいいのだ!」と感じ、本作の世界観に加えていきました。
――「2人でクジラを見に行く」という展開も、日常と非日常の境目のような出来事で素敵でした。
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JOY:2人のお出かけとして、いたずらっぽく、ロマンチックで、知的好奇心があるものが良いと思って選びました。また、ダイナミックな奇跡が起こりそうな舞台を用意したかったことも影響しています。
――ちなみに由美と清二郎のきっかけをInstagramにした理由は?
JOY:「由美はXをやっていなさそうだな」と思ったことが大きいです。
◼︎由美が自身の感情に気づく物語
――由美の心理描写が丁寧に描かれていました。決して「好き」「辛い」など明確な感情を出すことなく、どこか感情を押し込めている印象を受けましたが、由美の心理を描くうえで意識したことは?
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JOY:由美は突飛な子ですので、今まで生きてきて自分の痛みにも他人の痛みにも関心がなかったけれど、なんだか上手くやれてきてしまった。「自身の感情を押し込めている」というよりは、「あらゆる感情を開放しすぎて自分のものだという認識が持てなかった」というほうが相応しいかもしれません。
――なるほど、むしろ開放しすぎているからこそゆえに感情が不明確に感じたのかも…。
JOY:そうかもしれません。とはいえ、そんな彼女が本当の恋心の端っこを抱えてしまった時、その重たさに戸惑い、「面倒だ」と感じつつも受け入れようとした矢先の別離でした。「彼女は今まで本当に悲しくて泣いたことなどなかったのかもしれないな」と思いながら描きました。「その涙の重さに耐えられる強い人間であれ」と祈りながら描きました。
――由美の心理描写だけではなく、喜怒哀楽の表情も印象的でした。
JOY:彼女にとって感情は、他人が持っているのを眺めるだけのものだったのかもしれません。清二郎に出会って、それが自分にも備わっていることを知り、子供のように発見をしていったのだと思います。すべての感情が彼女にとっては目新しいものなのだということが伝わるように注意して描きました。
◼︎「コミティア」参加によって肌で感じた読者の存在
――インパクトのある作画も多く、やはりクジラが飛び跳ねるカットには驚かされました。
JOY:自分がプロットを完成させる際、頭の中で映画として一度“上映”みたいなことをします。その時にクジラのシーンはスローモーションで、ほぼほぼ時が止まっているような構造でした。ただ、風は強く巻き起こって由美の髪が持ち上がり、巨大なクジラに日光が遮られて一瞬2人の視界はとても暗くなっている感じ、それらを漏らさずに描きました。
――作画で言えば清二郎の顔がハッキリと描かれていませんでしたね。
JOY:2人でいる時の清二郎の表情は、由美だけの思い出にしてあげたかったからです。誰も触れないところに置いてあげたかったので。
――また、本作は「コミティア」でも販売したとのことですが、その時の思い出などあれば教えてください。
JOY:二次創作で私の漫画を知った人が、わざわざスペースに足を運んでもらえたのが本当に嬉しかったです。また、サンプルを見かけた人が足を止めて、一通り読んでから「これください」と言ってもらい、創作活動を続けてきて良かったと思いました。
――それは最高に嬉しい瞬間ですね。
JOY:はい。あと「コミティア」に限らず今まで参加したすべての即売会、または通販などで、制作物を手に取ってもらった一人一人に対して、こんな広い世界で探し出してもらったことに心から感謝していて、この場を借りてその感謝を伝えたいです。
――今後も即売会出展をはじめ、漫画制作を展開していく予定ですか?
JOY:そうですね。一次創作については2025年6月1日開催の「COMITIA152」に向けて、現在学園ファンタジーものを準備しています。『花弁抄』とはテイストが違うかもしれませんが、夢と魔法と葛藤の物語になるので、ご縁があったら読んでもらえると幸甚です。また、活動は即売会における紙媒体がメインですが一部電子書籍もあります。メロンブックスさんでも取り扱ってもらっているので、こちらも覗いてもらえると嬉しいです。
(文・取材=望月悠木)
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