すき家 牛丼並
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
ご存じのとおり、すき家はネズミの混入に続き、ゴキブリの混入も重なり、全店閉店するという異例の事態に追い込まれました。また、焼肉きんぐは嘔吐した顧客への対応で大炎上……。
いずれの事例もポイントとなったのは、店舗や企業の対応。今や誠心誠意を示す方法はAI任せにするという、ディストピア化する未来が近づいているのかもしれません。
◆2度目の異物混入で信頼回復に本腰
ネズミが混入したすき家は、3月27日に「すき家に関する一部報道について(第2報)」を公表し、発生当初に当社がホームぺージ等での公表を控えたことにより、不振の念を抱かせたことに対してお詫びしています。これは異物混入が発覚してから、2か月間放置したことが炎上に油を注いでしまったため。
一方、3月28日にゴキブリの一部の混入が発覚した際は、翌日に事例を発表。対応策として3月31日から4月4日までの一時閉店を決定しました。
2度目の異物混入の発覚からその対応について、非難する声はほとんど見当たりません。全国で2000にものぼる店舗を閉店して徹底した清掃を行うなどというのは異例中の異例で、運営するゼンショーが信頼回復に向けて一大決心した様子がわかります。
◆異物混入は珍しいことではない
実は飲食店や食品会社にとって、異物混入というのは珍しいことではありません。東京都保健医療局によると、2023年における食品の苦情件数は4392件。異物混入は546件で全体の1割を超えています。東京都において表面化した異物混入のクレームだけで年間500件を超えているのです。
食品を扱う事業者は、2021年からHACCP(ハサップ)という異物混入や食中毒などのリスクを取り除くための衛生管理手法を遵守することが義務付けられています。ゼンショーは売上高1兆円の外食業界のトップリーダーであり、率先して取り組みを推進しなければなりません。それでも、異物混入を完全に防ぐことは難しいのです。
そして、このHACCPは衛生管理計画の策定や従業員への周知徹底、衛生管理実施状況の記録・保存、異物混入が発覚した際の再発防止策の立案などが求められますが、顧客への適切な情報開示や対応が明確に定められているわけではありません。この部分については、事業者に任されているのです。
◆グランドオープンから間もないタイミングとはいえ…
焼肉きんぐの事例は、その場の対応の悪さが際だったものでした。隣の席で嘔吐していたにも関わらず、店舗責任者は顧客を放置状態にしたうえ、お詫びの言葉を十分に伝えずに機械的に割引の提案をしたといいます。
焼肉きんぐは吐しゃ物に関する衛生管理方法を厳格に規定していたものの、周囲の顧客の席移動が不十分であったことや責任者からの謝罪や説明が拙く、誠意ある対応ができなかったと謝罪しました。
問題が発覚した「焼肉きんぐ 名古屋上飯田店」のオープンは2025年3月3日。事案が起こったのが3月28日で、グランドオープンから間もないタイミングでした。焼肉きんぐのような人気店はタダでさえ忙しく、ましてやオープン初月は人が殺到することも少なくありません。
◆“アルバイト経験がある”だけでも店長候補に?
焼肉きんぐは急拡大中のブランドで、2007年に1号店をオープンしてから現在は300店舗以上を展開しています。運営する物語コーポレーションの求人情報を見ると店舗責任者の経験者募集を行っていますが、応募資格には「職種未経験歓迎」「ブランクOK」「シフトリーダーとして3名のメンバーをまとめていたアルバイト経験だけでもOK」などと書かれています。
つまり、熟練のマネージャーでなくても店舗責任候補者を雇入れ、一定の教育をしてから各店に送りこんでいるのでしょう。焼肉きんぐは2024年7-12月に14店舗を出店しています。月に2店舗以上、新たにオープンしている計算。どうしても、店舗責任者の対応品質にバラつきが出てしまうのではないでしょうか。
これはすき家も同じ。牛丼店は店長が複数の店舗を掛け持ちすることが珍しくありません。忙しすぎて、顧客への対応がおろそかになりがちなのです。
◆飲食店の“脱属人化”が進んだ先には…
飲食店はオペレーション負荷を下げるための取り組みが進んでいます。典型的なものが、「ディストピア容器」。食器洗いをなくすため、店内で使い捨て容器を提供するものです。
焼肉店やファミリーレストランではロボットが食事を提供するようにもなっており、モバイルオーダーも当たり前の時代になりました。
日本では“おもてなし”などと言われ、スタッフと顧客のコミュニケーションは最後の砦であり、効率化できない核心部だと見なされています。しかし、今回の事例を見る限り、その常識にも限界がきているのではないでしょうか。
焼肉きんぐの店舗責任者が、「嘔吐した場合の周囲のお客様への対応の最善策と、ふさわしい謝罪の言葉は?」と生成AIに問い合わせて対応していれば、ここまでの炎上は防げたかもしれません。これはすき家も同様です。2つの事例はSNSやGoogleマップへの投稿がきっかけで世に広まったものであり、顧客の不快感を抑えることが何より重要だからです。すき家に限っては、適切な情報開示の方法についてAIに尋ねる道もあったでしょう。
コミュニケーションをロボットに頼るというのは、いかにも逆ユートピアであるディストピアの世界観。しかし、企業にとって重要なのはリスクの最小化であり、必然的に脱属人化が図られることになります。顧客も、自らの期待値(基準値)に沿った対応をしているかどうかを見ており、そこから逸脱したものを厳しく糾弾しているように見えます。これも行きつくところは平均的な人びとの基準を見極めた対応であり、生成AIが得意とする領域です。
すき家や焼肉きんぐのような単価が低い飲食店は特に自動化が進み、人びともそれを求めるようになってきているのではないでしょうか。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界