2025年4月1日、KDDIの高橋誠氏から代表取締役社長のバトンを受け継いだ松田浩路氏。KDDIのサービスは、今後、どうなっていくのだろうか。就任から9日後の10日、都内で開催した記者会見で、松田氏自身が詳細に語った。あわせて、auのスマートフォンと衛星通信の直接通信サービスの開始も発表した。
●53歳の松田氏、テクノロジーに魅了された原点は「つくば万博」
松田氏は、1996年に国際電信電話(当時KDD)へ入社して以来、通信事業のエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた。2000年10月、KDD、第二電電(DDI)、日本移動通信(IDO)の3社が合併し、KDDIが発足して以降は、商品企画や事業戦略にも携わり、2025年現在に至る。
年齢は53歳。技術畑を歩んできた松田氏は、自らを「テクノロジー好き」と表し、自身につながる大きな出来事に1985年に行われた「国際科学技術博覧会」(つくば万博)を挙げる。「中学生当時、地元の山口県から寝台特急(ブルートレイン)に乗って、つくば万博を訪れた」
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日本の大手企業による最先端サイエンス展示を目にした松田氏は、「待ち時間を苦にならず、すっかり夢中になっていた」と当時の記憶をたどる。「新しいテクノロジーこそが未来を作るんだ、と確信したことを今でも覚えている」と明言し、いわばテクノロジーに魅了された原点であるとの考えを示した。
●これからの時代は、通信とAIの融合がカギ
松田氏は「通信という仕事にも夢中だった」とも振り返り、これまでの30年間、いかにして高い通信品質を実現するかに力を注いできたと語る。その通信品質については、「多くの人が『基地局の数で決まり、つながりやすさはどの通信会社(キャリア)も大きく変わらないだろう』と考えるが、実際には各社のテクノロジーによって品質は大きく異なる」と指摘する。
KDDIは、世界的な通信評価機関である英Opensignalから“つながる体感”で世界一の評価を獲得しているが、松田氏は「まだまだ」とし、今後も「ずっともっと、つなぐぞ」を合言葉とし、品質改善への努力を怠らずに継続していく姿勢を見せた。
ただし、KDDIが重視する「つなぐチカラ」は、単なる通信インフラの品質では終わらない。松田氏は「命を、暮らしを、心をつなぐ」ことこそが本質であり、それによって人々の思いを実現する社会を作ることが、2030年に向けたKDDIグループのありたい姿「KDDI VISION 2030」だと説明。
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そのカギを握るのがAIだという。とりわけ「通信とAIの融合により、通信は次のステージへと進化」し、KDDIにとってAIは単なる流行語やツールではなく、「通信によって生まれる膨大なデジタルデータとAIをつなぎ、そこから価値を生み出していく」(松田氏)ためのものと位置付けている。
会見の6日前となる4日、KDDIはAIデータセンターの構築に向けて、シャープとシャープ堺工場(大阪府堺市)の土地や建物などを取得することについて売買契約を締結したと発表していた。生成AIの開発に加え、その他のAI関連事業などに活用し、「AI普及のための土台を強化」(松田氏)していくとしている。
さらに、このAIデータセンターには、「Googleのマルチモーダル生成AIモデルである『Gemini』を組み込み」、Google Cloudとの連携を深める方針で、AIをより身近で使いやすいものへと進化させたい狙いがある。その先に実現することとしては、AIによる着回し提案の「クローゼット」や、音楽・テキスト生成などのサービスがあるそうだ。
KDDIは2024年4月19日に、経済安全保障推進法にもとづく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画について、経済産業省から認定を受け、生成AI開発のための大規模計算基盤の整備を開始し、今後4年間で1000億円規模の投資を行うと発表していた。松田氏は、投資のスタンスは「(発表当時から)変わらない」としつつも、「さらなる投資のタイミングがあれば、しっかりと反応していきたい」と述べた。
●好きな言葉に「準備万端」「先手必勝」 KDDIが掲げる3つの目標も明言
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会見の中盤以降、松田氏は自身の好きな言葉に「準備万端」「先手必勝」を挙げ、未来を見据えて備える姿勢、そして一歩先を行く意志が、今のKDDIを形成している、との考えを述べた。テクノロジーへの情熱を社員にも広げ、「夢中になれる」仲間が集まる会社づくりが、進化の原動力であるとも。
松田氏は、未来の社会に向け、KDDIとして3つの目標を掲げていることも説明した。
1つ目は「未来をつくる仲間とつながる」ことで、社内(内製化)にこだわらず外部のパートナーと力を合わせて新たな挑戦を加速していくとしている。本社移転先となった「TAKANAWA GATEWAY CITY」も、パートナーなどとの新たな交流やイノベーションを重視してのことだという。
2つ目は「つなぐ力を世界に広める」という視点から、日本の技術を起点に世界の社会課題解決へ貢献しようという姿勢。「AIやディープテック分野における日本起点のスタートアップをより成長させるべく、複数の海外ベンチャーファンドに300億円規模の出資を行う予定で、日本のスタートアップと共に世界へ出る挑戦を行っていく」としている。
そして3つ目は「生活を支える会社から、人生を支える会社へと成長する」というビジョンのもと、地域に根ざした新しい形の社会貢献にも挑戦していくことを掲げる。「auショップのない場所へKDDIが出向く営業ショップカー(au SHOP CAR)やローソンとのパートナーシップから生まれる新しいコンビニ」が社会貢献に当たる。これらは「地域の見守りや防災の拠点、新しい移動のための拠点、ラストワンマイルをつなぐ配送拠点」にもなり、新しい形の地域貢献や地域活性につながるという。
●ついに「au Starlink Direct」開始 国土面積のカバー率は60%、衛星で残り40%(ほぼ全土)をauエリアに
松田新社長の会見と同時に、auのスマートフォンと衛星を直接つなぐサービス「au Starlink Direct」も発表し、同日に開始した。これまで圏外だった場所でも、空が見える場所であれば通信を行える。松田氏は、「国土面積のカバー率は60%にとどまっており、残り40%を何とかしたいという思いで、衛星通信を使った方法を模索し検討を進めてきた」という。
地下や高層ビル(住宅内やオフィス)などでも電波が届かずに通信ができないエリアは存在しているが、au Starlink Directは山間部や沿岸部などのへき地での利用を想定したサービスとなる。同様のサービスは、米大手通信キャリアのT-Mobileが既にβ版として提供しているが、日本の提供は今回が初めてとなる。
対応機種の数は、iPhone 16シリーズやAndroid(Google Pixel、Galaxy、Xperia、AQUOS、Xiaomiなど)を含む50機種、台数にして約600万台。松田氏は、利用料について「当面の間は無料」と話した。
サービス開始当初は画像/動画のやりとりはできず、基本的にはテキストでのやりとりが可能だ。絵文字は使えるが、スタンプの送受信はできない。Gemini(の実行はAndroidのみ)を含むメッセージの送受信は、ほんの数秒で実行できる。データ通信については、2025年夏以降に対応する予定だが、音声通話の具体的な対応時期は不明だ。
地上から340kmの距離にある基地局とスマートフォンが直接つながることで実現しており、Starlinkを手掛けるスペースXの衛星600機を用いている。送受信に利用するのは、4G LTEのうちBand 1(2GHz帯)のみ。auの通信サービスにおいて、既に使用されている帯域のため、他の多くのユーザーがこの帯域に一斉にアクセスしすぎないように、接続を分散させるなどのチューニングを実施しているという。
UQ mobileとpovoへの提供については、「今後、検討していく」(松田氏)との回答にとどめた。
●通信料金の値上げについて、松田氏の考えは?
質疑応答では、料金プランの値上げに関する発言があった。
日本の携帯電話市場を見ると、政府の意向をくみ取る形で2021年頃から、大手キャリアはサブブランドを相次いで投入したことなどにより、ARPU(1利用者あたり平均収入)が減少したが、2023年頃から決済サービスとの連動によりポイント還元を手厚くした料金プランがヒットしたことなどを背景にARPUは上昇した。
一方、2024年頃から決算会見の場で、キャリアトップによる値上げを示唆するような発言が目立つようになった。例えば、ソフトバンクの代表取締役社長の宮川潤一氏は、2月10日の決算説明会で「常に値下げの先の一辺倒の議論だけでは、(従業員さんの給料などを支える)構造にならない」などと話していた。
松田氏は、「日本の通信品質は世界を見てもかなり高いし、料金も先進国の中では低廉な水準になってきている。各社が切磋琢磨して通信品質に磨きをかけている」としつつも、「われわれ(KDDI)でいえば、建設会社や販売代理店のパートナーの労務費、基地局の電気代が上がってきているのも事実」と述べた。
値上げの示唆につながる発言はなかったが、松田氏は「お客さんによりいいものをお届けしながら、その対価としてどのようなものをいただけるのか――この循環の中で新しいサービスとなるのも、提供開始に至ったau Starlink Directだ」との持論を示した。
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