34歳・独身女性のひなが、帰省した実家で過ごす正月を描いた『チュウチュウのお正月』がSNSに投稿された。
主人公・ひなが訪れたのは穏やかな時間が流れるカフェ。ひなは店員さんと時間を重ねるなか、正月に抱いたモヤモヤとしたことを話しはじめる。親戚が顔をそろえ、お祭りムードで盛り上がる正月に、居心地の悪さを感じる人に読んでほしい作品だ。
本作を創作したきっかけ、正月に抱いた心情、本作で描いた思いなど……。作者・ペップルさん(@bird_0000001422)に話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
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ペップル:友だちが実家から離れて、一人暮らしをすることになって。「1人だけポーンっと外に出されて嫌じゃなかったのかな」とか「孤独感はあるのかな」と思いながら、本作を描きました。
ただ、その子は正社員で働いていて、活発な性格であり、ひなや私とは正反対なタイプです。
ーー友だちのことを漫画として描いた理由は?
ペップル:一人暮らしをはじめたことをどんなふうに思ってるのかなと想像して漫画を描き、その作品を読んだ友だちがどう反応するか試したいと思ったからです。
実際に本作を友だちに読んでもらったときには、泣くほど共感してくれて驚きました。元気で明るい子なので、本作で描いたようなことはあまり考えていないかと思い……。友だちが作品に共感してくれて嬉しかったです。
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ーー主人公・ひなとともにカフェの店員さんにもモデルはいる?
ペップル:店員さんにもモデルとなった人物がいます。人を見下したりせず、いつでも話を聞いてくれて、受け入れてくれる……。一緒に居て、居心地の良い存在です。
「頼っていいんだ」と店員さんに思ってもらえるように、とくに表情を意識しながら店員さんを描きました。
ーー「ひとりになりたくて/ここにきたんです」と話しつつ、店員さんとは話したいと思う、一見すると相反するひなの心情はリアルだと感じました。
ペップル:正月は家族・親戚と一緒にいなきゃいけないと億劫に思いつつ、実際に正月を家族と過ごさないとなると、親に甘えていた幼いころの自分ではなくなってしまうような気がしたり……。それがなんか、悲しかったんです。
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昔は家族と自然に話していたはずなのに、自分からわざわざ家族と離れて。すると自分が家族から嫌われてないかなと思ったりーー。
作中で描いたカフェのような場所があることで「家族との逃げ道をつくってもいいんだよ」「家族と過ごさない正月でもいいんだよ」ということを描けたのかなと思います。
ーー終盤でひなと妹が幼かった頃の回想シーンを描いた背景は?
ペップル:今は家族とうまくコミュニケーションをとれていないけれど、昔は仲の良い感じだったし、その過去は今も変わらない。そんなことを回想シーンを通して描きたかったのです。
ーー本作を描くなかで印象に残っていることは?
ペップル:作中でパンを描きましたが、モデルは私がつくったパンなんです。本作を描くためにパンのレシピを調べて、実際に焼き、コーヒーを淹れるところまで行いました。
もともと料理は好きでしたが、パンを焼いたのははじめてでした。そのあとパンづくりにハマり、具材を変えたりしながら何回かつくりました。
ーー実際にパンを焼くほど、本作においてカフェの存在は大きかった?
ペップル:そうですね。東京や埼玉で一人暮らしをしていたときにはカフェへ行くことが多かったです。そのカフェでは店員さんがたくさん話しかけてくれて。それがうれしかったです。
ーー本作はひなにとっての「チュウチュウの巣」のような、現実から少しだけ逃避し、心を落ち着かせられるような作品だと感じました。
ペップル:以前「親の老いていく姿を見たくないから、実家に帰りたくない」といった主人公の漫画を描き、漫画新人賞に選ばれたことがありました。そのときに描いた「向き合いたくないものと向き合う」物語に対して、本作は1つのアンサーとして描くことができたと感じています。
向き合いたくないのなら、離れるという選択をしてもいい。離れるという選択をポジティブに捉えてほしいーー。過去に描いた主人公の解決策を本作では提示できたのかなと思っています。
離れることでわかることもあるし、大切にしようと思うことが見つかるかもしれません。
(文・取材=あんどうまこと)
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