写真 文章や画像、動画の生成。さらには、ビジネスプランの設計から話し相手まで務めてくれるなど、万能な役割を果たす生成AI。しかし、その存在を知りながらも、うまく使いこなせている人はまだ数少ないはずです。
そこで、ChatGPTをはじめとする生成AIの使い方について、生成AIのエキスパートで、『猫でもわかる生成AI ―落合陽一に100のプロンプトを入力してみた―』を出版された筑波大学図書館情報メディア系准教授・落合陽一氏に教えてもらいました。
(本記事は、『猫でもわかる生成AI ―落合陽一に100のプロンプトを入力してみた―』より一部を抜粋し、再編集しています)
◆生成AIとはどんなもの?
そもそもAIとはどんなものなのか。そんな疑問を抱く人も少なくないはず。そこで、まずは、落合さんに「AIとは何か」というストレートな問いをぶつけてみました。
「まず、AIとはある条件を最適化する計算手法のことです。たとえば、『「私はロボットです」を英語に訳す』『「1+1を50回足して」などの日本語をプログラミング言語で表現する』といった問題に対して、最も効率的な回答を探してくれるのが、AIの活用例のひとつです」
数々のAIのなかでも、いま最も注目を浴びているのが「生成AI」です。
「『生成AI(Generative AI)』は、大量のデータをもとに新しいコンテンツを作り出す技術です。この技術を支えるのが、機械学習です。この機械学習は、AIがデータを使ってパターンを学び、そのパターンをもとに将来の結果を予測したり判断したりすることができます」
◆人間より優秀? 生成AIの頭のよさ
昨今、AIは万能と言われますが、はたしてどのくらいの精度を持っているのでしょうか?
「たとえば、生成AIとして有名なChatGPT。これはOpenAIというアメリカのIT会社が発表したAIソフトのひとつです。たとえば、「ChatGPT」のo1-previewは、MENSAのテストでIQ130に相当する知能を持っていることがわかっています。人間の知能の平均はIQ100前後と言われているので、現代のAIは人間の平均を上回る知能を持っていることがわかります」
でも、だからといって、すべての面においてAIが人間よりも賢いわけではありません。
「人間とAIでは賢さの種類は違います。あくまでAIはたくさんのデータを一瞬で処理して、新しいものを作り出すのが得意。人間には、そのデータの意味を感じたり、そこから深堀りして考えていったりする力があります。それは、AIには真似できないことですよね」
◆AIの歴史を大きく変えた、ニューラルネットワーク
現代では欠かせない技術となりつつあるAIですが、実はその原型は1960年代から存在していました。
「初めてAIという言葉が生まれたのは、1956年のアメリカにあるダートマス大学だと言われています。でも、当時はAIに学習させるデータが足りなかったし、コンピュータの性能も今ほどよくなかったので、当時のAIは今のような高い性能を持ってはいなかったのです」
60年近くも前に登場していたAIは、アイデアとしては非常に優れていたものの、データ処理やマシンの性能の問題から、実は使いものにならない時期も長かったようです。しかし、そんなAIの性能を飛躍的に高めたのが、1980年代に登場したニューラルネットワークの存在です。
「ニューラルネットワークは、簡単にいえば、神経回路のしくみをヒントにして作ったAIの学習方法のこと。人間や動物の脳には『情報を伝える仕事』をする、ニューロンという特別な細胞があります。ニューラルネットワークは、その動きを真似て作られたもので、大規模なデータを扱う際に活躍するシステムです。このシステムのおかげで、AIはただ与えられた情報を覚えるだけではなく、いろんなことを同時に『学ぶ』ことができるようになったのです」
◆AIがますます進化するであろう二つの理由
今後、ますますAIが進化していくであろうと予言する落合さん。そのひとつの理由として、指摘するのは、AIがより身近なデバイスで使えるようになったこと。
「以前からAIの技術自体は存在していましたが、あくまで専門的なプログラムとしてしか使うことができませんでした。でも、近年は、一般の人がスマホやパソコンで簡単にAIを使えるようになりました。AIをより手軽に使える時代が来たことで、この技術が社会に一気に浸透しつつあります」
また、もう一つの理由として落合さんが挙げるのが、AIがよりクリエイティブな存在になったことです。
「以前は、AIは分析や計算に使われることが多かったのですが、2022年に画像生成AIの『Stable Diffusion』『Midjourney』や、文章を作るチャットAI『ChatGPT』がリリースされ、生成AIのクリエイティビティが注目されるようになりました。よりクリエイティブな用途が増えたことで、もっと多くの人が生成AIを使いこなすようになるはず。今後、ますますその需要は広がっていくでしょう」
【落合陽一】
筑波大学でメディア芸術を学び、2015年東京大学大学院学際情報学府にて博士(学際情報学)取得。現在、メディアアーティスト・筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター・センター長/ 図書館情報メディア系准教授・ピクシーダストテクノロジーズ(株)CEO。応用物理、計算機科学を専門とし、研究論文は難関国際会議SIGGRAPHなどに複数採択される。令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰、若手科学者賞、「『現代用語の基礎知識』選2023 ユーキャン新語・流行語大賞」(生成A I)を受賞。内閣府、厚労省、経産省の委員、2025 年大阪・関西万博のプロデューサーとして活躍中。 計算機と自然の融合を目指すデジタルネイチャー(計算機自然)を提唱し、コンピュータと非コンピュータリソースが親和することで再構築される新しい自然環境の実現や社会実装に向けた技術開発などに貢献することを目指す