写真「ふらいと先生」の名前で、X(旧Twitter)で小児医療や福祉の問題を発信し、フォロワー14万人を超える小児科医の今西洋介先生。
新著『小児科医「ふらいと先生」が教えるみんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)は、子どもの性被害の実態について知ることができる一冊です。
今西先生に、性加害者の行動の特徴や、性被害を受けた子どもが出すサインなどについて聞いた前回に続き、今回は、男の子の性被害の特徴や、子どもが性被害に遭った際に親が取るべき行動についてお聞きします。
<※本記事には性被害についての具体的な描写があります。ご注意ください>
◆男の子の性被害が表に出にくい理由
――男の子に対する性被害は、どんな特徴があるのでしょうか。
今西洋介先生(以下、今西先生):男の子の場合は、「小学生のとき」〜「18歳・19歳」で被害に遭った割合が、女子の同時期と比べて高い数値を出しています(内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査(令和2年度調査)」より)。
第二次性徴の前の男の子なら見た目が女の子と変わらないからターゲットにするという加害者もいるため、年齢が低いうちほど周りの大人が気をつけた方がいいのです。もちろん、第二次性徴以降の男の子を狙う性加害者はいるので、大きくなったから安心とはいえません。
――男の子に対して、特に気をつけた方がいいことはありますか?
今西先生:男の子の場合は、性被害を受けたことを人に言えないことが多いです。ふざけ合いや、いじめの中で性被害に遭うことが多いので、周りの大人がもっと敏感になって気をつけてあげるべきだと思います。
また、男児の性被害には快感や勃起、射精という身体反応を伴うことがあります。大人が覚えておきたいのは、快感があったとしても被害は被害だということです。
子どもの性教育は、子どもの性別と一致する親から受けた方がいいといわれています。
僕自身、母親から性教育について話をされたら頭に情報が入ってこないだろうなと思いますし、女の子がお父さんから性の話をされたら受け入れ難いのではないでしょうか。そのため、男の子はお父さんから性教育をしてもらうのが1番いいと思います。
◆子どもが性被害に遭ったら、何科を受診する?
――子どもが性被害に遭ったかもしれないと思ったら、親は何をするべきなのでしょうか。
今西先生:まずは子どもの安全を保護することです。例えば、性加害者が学校の先生なら学校に行かせないことです。
加害者が家庭内にいる場合は児童相談所が窓口になります。しかし、性被害が疑われる段階で同居している家族から子どもを保護することは、かなり難しいという現状があります。
――病院を受診する際は、何科に行けばいいですか?
今西先生:女の子の場合は、初経がきていなくても婦人科を受診してください。婦人科でなければ性器を診ることができないし、性病をうつされていないかチェックしなければなりません。
男の子の場合は泌尿器科を受診することになります。もし、婦人科や泌尿器科に行きにくいと感じるのでしたら、まず小児科を受診してから紹介してもらってもいいと思います。
ただ、子どもの身体は粘膜の修復能力が非常に高く、傷がすぐに治ってしまいます。そのため、被害に遭ってから受診するまでの時間は短ければ短いほどいいのです。
――そうなんですね。性加害で子どもの粘膜が傷つけられたら、簡単には治らないようなイメージがありました。
今西先生:もちろん重症ならすぐに分かります。酷いケースでは、膣や肛門が裂けてしまった子どももいます。
しかし、例えば指を挿入された場合は大きな傷にはならないので、治るのが大人よりもずっと早いんです。だから僕は医療関係者に、「傷がないからといって、性被害を否定してはいけない」と言っています。
医師の中にも、子どもの性被害に対して意識が高い人と低い人がいます。意識が低い人は、身体的な問題がなければそのまま被害者を帰してしまうことがあるので、もし医師の対応がよくなければ、他の病院を受診することをおすすめします。
◆早い段階でトラウマを治療することが重要
――心のケアのためには、どんなことをすればいいのでしょうか。
今西先生:各都道府県に最低1か所は「ワンストップ支援センター」(性暴力被害者に総合的な支援を提供する相談窓口)が設けられているので、そこから精神科につなげてもらうことが大事だと思います。
ただ、女の子の場合はワンストップ支援センターで対応しているのですが、男の子に対する支援についてはまだ手探りなところがあり、まだ課題があると思います。小児科でも、性被害にあった子どもには精神科に紹介状を書いてフォローするように声を掛け合っています。
子どもの性被害は、早い段階でトラウマを治療することが重要だと思います。最初にしっかり治療しないと、後々になって症状が出てくることがあるからです。
ある事例では、インターホンを鳴らされてドアを開けた後に性被害を受けた子どもが、何年か経ってからインターホンの音を聞くだけで震えが止まらなくなってしまったことがありました。思わぬところで症状が出ることがあるので、精神的なケアは非常に大切だと思います。
◆子どもの性被害を防ぐために、大人達がやるべきこと
――性被害を司法に訴えたい場合は、何が大切なのでしょうか。
今西先生:物的証拠が大事なので、被害を示せるような画像や動画、音声などがあるなら揃えておいた方がいいです。
加害者が家族の場合は児童相談所が窓口になりますが、学校の先生などの場合は警察に行くことになります。もし警察に相手にされなければ、弁護士に相談するのも1つの手段です。ただ、訴えるためには、子どもが自分で被害について話すことができないと難しいところがあります。
もしくは、ワンストップセンターに行ってどこにどう相談するか、または訴えればよいのか、すべて案内してもらうという手段もあります。
――子どもの性被害を防ぐために、大人がするべきことは何だと思いますか?
今西先生:まずは子どもの性被害について知ってもらうことだと思います。そもそも知らなければ、防ぐことはできないですから。特に子どもの支援や教育など、子どもに関わる機会が多い方は、実際にどういう性被害があるのか知っておくことが大事なことだと思います。
もし、知り合いの子どもが性被害が疑われるようなことを言っていたら、家族間のことなら児童相談所、それ以外だったらまずは学校に相談してみるのがいいのではないかと思います。
<文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。