画像提供:マイナビニュースNTT東日本-東北は、榴ヶ岡ビルにおいて廃止となった食堂に残置された厨房設備や食器類、テーブル・イスなどを、仙台市太白区にて障害者就労継続支援B型事業所「ポッケの森」を運営する社会福祉法人ぽっけコミュニティネットワークに寄付する「榴ヶ岡ビル旧食堂不要物品寄付プロジェクト」を展開した。
榴ヶ岡ビルの食堂は利用者数の減少により2024年3月末に廃止となったが、「通常、廃止となった食堂に残置された資産・備品などは、産廃として廃棄されていました」という、NTT東日本-東北 企画総務部 総務部門 人事労務担当 担当課長の小坂佳氏。厨房機器など、まだまだ使えるものも多数あったが、「すごくもったいないという思いがありつつ、今までのやり方だと、産廃として捨てるしかなかった。かつては他の食堂に転用することもあったのですが、コロナ禍以降、食堂がどんどん減っているため、それも少し難しい」と当時の状況を振り返る。
食堂廃止後、その跡地では、障害者就労事業所として弁当・菓子・豆腐の製造・販売、レストラン事業・給食事業などを展開するぽっけコミュニティネットワークが、「みやぎの福祉的就労施設で働く障害者官民応援団」事務局(特定非営利活動法人みやぎセルプ協働受注センター)からの紹介により、弁当などの販売を行っていた。そこで、廃棄されるのを待つばかりの厨房機器などについて「せっかくだから、ちょっと見てみませんか」と声を掛けたところ、「非常にニーズが高いことがわかった」という小坂氏は、「寄付プロジェクトという形で進められれば、我々のごみを減らせるだけでなく、社会貢献にも繋がる」との考えから、今回のプロジェクトを検討しはじめたという。
「本当に宝の山に見えました」と振り返る、ぽっけコミュニティネットワーク 理事長の星野公延氏は、「現在使っている設備は経年劣化が進んでいて、そろそろ入れ替えの時期だと思っていた」というタイミングの良さもあり、「ぜひ話を進めていただきたい」と強く希望。ぽっけコミュニティネットワーク 法人事務局長の星野幸氏も「故障などではなく、今まで動いていたものがただストップしただけの状態だったので、ぜひこの機械たちに新しい息吹を吹き込みたいと思った」と当時の心境を明かした。
双方に大きなメリットのあるプロジェクトではあるものの、「前例のない取り組みだったので、寄付をするためには何が必要かを調べるところから始めた」という小坂氏。「まずはどんな資産があって、残存簿価がどれくらいで、といったところから調べる必要がありました。もちろん備品リストがなかったわけではないのですが、寄付を前提としたものではなかった」ことに加えて、「大きな機器類は問題ないのですが、消耗品に近い食器類や少額の機器については管理簿自体がないということもあり、その把握にけっこうな時間がかかりました」と当時の苦労を思い返す。
さらに、「自分たちで想像していた以上に関係者が多かった」ことも苦労した点のひとつで、「金額的に、本社の総務人事部長の決済が必要になるなど、組織の枠を超えての説明や了承、手続きなどが必要だった」という小坂氏。「実際問題、手続きや我々の負担を考えれば廃棄してしまったほうが楽なのは事実」としつつも、「地域貢献や環境負荷の低減といった観点で言えば、ぜひともプロジェクトを成立させたかった」との想いを明かす。
そして、「予想以上に大変なプロジェクトだった」としつつも、「今回のプロジェクトを進めたことによって、本社にもしっかりと取り組みの趣旨を理解してもらったので、今後、また類似の事例があった際は、同じような取り組みがよりスムーズに進められると思っていますし、その意味では、ノウハウを蓄積するための非常に良い機会だったと思っています」と今後にも繋がる意義を示した。
今回のプロジェクトで、ぽっけコミュニティネットワークに寄付された物品は、業務用冷蔵庫や業務用炊飯器などの厨房機器から、テーブル・イスなどの什器、食器類など、「あくまでも帳簿上の価格で、市場価格とはまた違った数字」ではあるが、約400万円相当になるという。搬入・搬出などの作業や費用はぽっけコミュニティネットワークの負担となるが、「新しいものを整備することを考えれば、まったく問題にならない負担で、本当に助かりました」と星野理事長は感謝の意を示す。
「冷蔵庫も立体炊飯器も、本当に修理が必要な状態だったので、すごいタイミングだと思いました」というポッケの森で栄養士として働く五十嵐愛氏は、寄付された厨房機器、特に炊飯器について、「輝きが違う」と炊き上がりを絶賛する。さらに、「これまでは釜が古かったので、どうしても焦げ付きができてしまったのですが、寄付していただいた炊飯器だと焦げ付きがなくなった」とのことで、「ほんのわずかな焦げ付きでも、塵も積もればで、お弁当にすれば5個分くらいは廃棄せざるを得なかった」状況から、原価面での改善に繋がった点も高く評価する。そして、「今回、厨房の機器が入れ替わったことが、働いている利用者、そして職員のモチベーションアップに繋がった」という星野幸氏は、「皆さんの働く姿が変わってきたように感じます」と笑顔を見せ、さらに、機器が新しくなったことによる節電などの効果についても言及する。
NTT東日本の対応について、「ひとつひとつ丁寧に対応していただき、本当にありがたいとしか言いようがなかった」と、あらためて感謝の気持ちを表す星野理事長は、「間違ったことをせず、一生懸命、障害を持った利用者のために頑張っていけば、困っているときに誰かが必ず助けてくれる」という同法人の考え方を示し、東日本大震災の際に起こった出来事を思い返す。
当時、弁当厨房の改修中で、厨房機材のほとんどが仙台空港のコンテナに預けられていたが、そのコンテナが震災による津波で流されている映像を見て、「ああ、終わった」と弁当厨房の廃業を覚悟した星野理事長。しかし、1カ月後、津波に流されたコンテナは押し上げられ、ほとんど海水に浸かることなく、すべて無事な状態で戻ってくるという奇跡的な結末を迎える。「これはきっと施設の利用者のために、これからもしっかりやりなさいというメッセージだと思った」と当時の心境を振り返りながら、「道を踏み外さずに、しっかりと頑張っていれば、必ず誰かが見ていて、助けてくれる」という想いが間違っていなかったことを、今回のプロジェクトがあらためて思い出させてくれたという。
「今回、ありがたいご縁をいただいたので、これからも引き続きお弁当やお菓子を販売させていただきたいですし、催事やイベントの際などもご注文いただけるとありがたい」と今後も良好な関係を築きたいという星野理事長だが、施設の利用者に対しては「障害があるから、何でもやってもらえたり、助けてもらえたりするという感覚だけは持ってほしくない」という自身の考え方を示し、「やってもらったなら、感謝して、次は相手に対して何ができるかを考える」ことを常に求めているという。そして、「それが彼らの心や精神的な部分の自立にも繋がる」ことから、今回のプロジェクトを、そういった事柄をあらためて話す良い機会だと捉える。
一方、今回のプロジェクトを通して、「社内にもしっかりと展開することによって、ひとつのスキームとして構築していくこと」を今後の課題と見据えるNTT東日本-東北 企画総務部 総務部門 人事労務担当の磯谷雄一郎氏は、「これはうちに限った話ではないと思いますが」と前置きしつつ、「オフィス用品なども意外と簡単に捨ててしまう」という現状を明かし、「このスキームが確立すれば、今までは前例がないということで捨てるしかなかった机やイスも、寄付先を探すという方向に持っていけるのでは」との見解を示す。
そして、今回のプロジェクトで寄付された物品は、「廃棄物として換算すると約2.5トンくらいになる」とのことで、「それだけのものを廃棄せずに済んだことは、地域貢献だけでなく、環境負荷の低減にも繋がっていると思うので、今回だけで終わらせずに、今後も広く展開していきたい」との意気込みを明かした。(糸井一臣)