
アメリカの短大、強豪校を経て2023年にシカゴ・ホワイトソックスから、日本人史上5人目となるMLBドラフト指名を受けた西田陸浮(りくう)。現在はマイナーリーグ2Aのバーミンガム・バロンズで奮闘しているが、宮城県・東北高校を卒業後、渡米した理由には、野球以外に経営者になることも含まれていた。
実際、西田はプロとしてプレーする傍ら、すでに自身の会社を立ち上げ経営に携わっている。業務内容は、自身と同じようにアメリカ留学を目指す日本の若人へのサポートをメインに多岐にわたるが、西田にとって、プロ野球選手と経営者という「二足のわらじ」を履くことの意味とは?
後編:ホワイトソックス2A・西田陸浮インタビュー
【プロ野球選手になると同時に会社設立】
もともとの渡米の目的が、野球を続けることと並び、経営者になることだった西田陸浮は、プロ入りと同時に株式会社「ワンハネ」を設立。留学をサポートすることを目的に作った会社だが、その後もアイディアが次々と浮かび、社員を増やして自らのもうひとつの本業「プロ野球選手」に支障をきたさない範囲で事業を広げている。
自身が留学を経験していることで、アメリカに挑戦したい若者の気持ちを理解し、手続き上留意すべきポイントをアドバイスできるのが利点。「(挑戦したい人の力に)なりたいですね。なりたいし、たぶん僕が一番なれるから。やれるならやってあげたほうがいいんじゃないかなって」と事業への思いを説明する。
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前編で記したように、西田は野球を頑張ろうと進学した短大で思いもよらない野球環境に出くわした。
西田の親友で、カリフォルニア州の短大から全米大学体育協会(NCAA1部)のカリフォルニア大アーバイン校に編入し、活躍した大山盛一郎(沖縄・興南高出身、現在は米独立リーグ、オタワ・タイタンズ所属)は、スカウトが集まる"ショーケース"で大学から勧誘を受け、大学のコーチを通して米サマーボールで6番目にレベルが高いと言われるウェストコーストリーグ(WCL)に参加。4年生を前にメジャーリーガーの卵が集う米屈指のサマーボール"ケープコッドリーグ"に参加した時も、すでにロスター枠が約束され、大学の期末試験があったため、チームへの合流が遅れても問題はなかった。
だが大山と同じくWCLとケープコッドリーグでプレーした西田の場合は、WCLは一番低いレベルからスタートして一番上のレベルまで這い上がり、ケープコッドリーグも10日間契約とロスター枠が約束されていない立場から始まり、最後まで生き残った。
そういった自らの経験があるだけに、日本から挑戦する選手がよりスムーズにサマーボールに参加できる道を拓きたいと思っている。また短大の時のように自らトレーニングに困った時期があったことでトレーニングのプログラムを思いついた。
小学校6年〜中学1年の時の職業体験では保育園を希望。「子ども好きなんですよ。みんな消防士とかするんですけど、僕は保育園に行きました。子どもに野球を教えるのも好きだし、自分でも教えるのが、うまいなと思って(笑)」。オフシーズンに日本で行なっている子どもたちの野球教室は、本人も楽しみながらやっている。
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【マイナーリーグのバス移動中に会社の業務をこなす】
ちなみにケープコッドリーグでは、現在ロサンゼルス・エンゼルスで先発出場しているノーラン・シャニュエルとチームメイトだった。西田と同じ2023年のドラフトでエンゼルスから1巡指名を受け、それから40日でメジャー昇格。デビュー戦から10試合連続安打という球団記録を成し遂げた。その後シャニュエルが目のトレーニングを西田から教わったというニュースが出たが、それについて西田に聞くと、「ノーランは三振が多くて、僕は少なかったので聞かれて、目のウォーミングアップを教えたんです」。
西田にとって目のウォーミングアップは毎日の習慣となっている。
「シーズンを通してずっと試合に出るうえで継続的な打率とか残していかないといけない。それでどうしようかなと思った時に、ウォーミングアップをちゃんとしようと思い、それでウォーミングアップをやったあと、『目をやってないな』と思い、目のウォーミングアップをやりだしたら、『いけるな』と思いました」。野球選手として結果を出すために細かなことも実践している。
プロ野球選手との両立で、特にシーズン中は多忙を極める。だが、西田は「シーズン中は12時に球場入りだったんすけど、日本の人と朝4時からZoomミーティングをやったりしていました。でも僕からしたら、それがすごくいい息抜きになりました」とあっさり言う。
マイナーリーグ生活の厳しさのひとつにバスでの長距離移動が挙げられるが、西田にとってはこのバス移動が好都合で、「移動の時にできる仕事がいっぱいあるので、ずっとやっていました。だからそんなに苦ではありませんでした。逆にアウェーゲームのほうが時間は空くので、僕はよかったです」。
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また、毎日のように学生らと会話をすることで、自らのモチベーションになっていると言う。
「全然ストレスにはならないですし、選手も頑張っているから、僕もそれ以上の結果出さないと彼らに言えないなと思っています。場所やレベルは違いますが、自分が抱えている選手たちには負けられないという思いもあるので、そういう面では頑張れます。今後もいいところは残して改善できたらいい」と気持ちを新たにした。
昨季、シーズンを通してマイナーリーグの3つの階層で戦った西田は、最初にプレーした1Aのカナポリス・キャノンボーラーズでは、チームの前半戦の地区優勝に貢献。これにより、カナポリスは早くもプレーオフ進出を決めた。また最後に所属した2Aのバーミンガムでは、リーグ優勝に貢献した。
一方、トップのホワイトソックスは昨季、メジャーワースト記録となる121敗(41勝)。ただ「ホワイトソックスの下部組織はいい選手がたくさんいます。あと何年後か、2年後には強くなるんじゃないですかね?」。その時には、チームの一員として存在していたい気持ちも「もちろんあります」と力を込めた。
「ホワイトソックス内での競争に勝たないと、ほかのチームに勝てないので、まずはそこですね」
そのためにも、メジャーリーグで重視される選手のパフォーマンスすべてを細かく評価する「指標」の向上を引き続き、目指す。特に本人が「指標」において「最悪に弱い。改善しないとダメ」と自覚するパワーアップについては力を入れている。キャンプ終盤の時点では、「体もすごく大きくなって10キロぐらい(体重が)増えた。打球とかも全然違うと思います。スピードも上がったし、総合的に向上したと思います」と充実感を漂わせていた。
「二足のわらじ」を履いていることを強みに、西田は今後もまい進していく構えだ。