
2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任し、第二次トランプ政権が始動した。それから3カ月が経過し、バイデン政権下の国際協調主義は完全に消え去り、米国第一主義が前面に押し出されているが、同盟国を重視せず、諸外国の動向に関心を寄せない孤立主義も色濃くなってきている。
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バイデン政権の国際協調主義
バイデン政権(2021年1月〜2025年1月)は、トランプ第一次政権(2017年〜2021年)の孤立主義的傾向を修正し、国際協調主義を掲げた。具体的には、パリ協定への復帰、世界保健機関(WHO)への再参加、NATOや日米豪印「クアッド」などの同盟強化を通じて、多国間主義を重視した。特に対中国政策では、経済・技術分野での競争を軸に、インド太平洋地域でのパートナー国との連携を深めた「ラティスワーク」戦略を展開した。これにより、米国は中国への対抗姿勢を明確にしつつ、国際社会との協調を維持した。2023年のG7広島サミットでは、経済安全保障やサプライチェーンの強靱化が議題となり、米国は同盟国との結束を強調した。
しかし、バイデン政権の協調主義は、国内優先の圧力も受けていた。例えば、インフレ抑制や雇用創出を目的とした「インフレ抑制法」(2022年)や半導体関連の「CHIPS法」は、米国製造業の保護を優先し、保護主義的色彩を帯びていた。対中関税もトランプ政権から引き継がれ、強化された。このように、バイデン政権は国際協調を掲げつつ、国益を重視する姿勢を併存させていた。
トランプ政権の国益第一主義と対中国政策
トランプ第二次政権は、発足直後から「アメリカ・ファースト」を明確に打ち出した。2025年1月20日の就任演説で、トランプ大統領は「貿易制度の見直し」や「国民への課税ではなく外国への関税」を強調し、国益優先を訴えた。特に注目されるのは、対中国を意識した経済・安全保障政策である。
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まず、経済分野では、トランプ政権は中国からの輸入品に対する関税強化を推進している。2025年3月、中国からの合成オピオイド流入を理由に「de minimis制度」の停止を命じる大統領令が発令された。また、中国企業をサプライチェーンから排除する政策が加速し、通信、エネルギー、医薬品分野での「クリーンネットワーク」戦略が再活性化された。これらは、バイデン政権の対中技術規制(例:半導体輸出管理)を継承しつつ、より攻撃的な姿勢を示す。2025年2月には、トランプ大統領が中国への最恵国待遇の剥奪を検討する発言を行い、米中経済のデカップリングが一層進む可能性が浮上した。
安全保障面でも、対中国を意識した動きが顕著である。国務長官に指名されたマルコ・ルビオ氏や国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツ氏は、いずれも対中強硬派として知られる。彼らは、インド太平洋での軍事プレゼンス強化や台湾への防衛支援拡大を主張している。2025年4月、トランプ政権は台湾に対し、防衛費増額と米国内での半導体生産拡大を要求する方針を示した。これは、中国への抑止力を高める一方、台湾に経済的負担を求める国益優先の姿勢を反映する。
孤立主義への傾斜
そして、トランプ政権の政策は、国益第一主義を超え、孤立主義的傾向も示している。2025年1月、トランプ大統領はパリ協定からの再離脱とWHO脱退を表明した。これらは、バイデン政権が再構築した国際協調の枠組みを否定する動きである。特にWHO脱退に関しては、米国が拠出する多額の任意資金を問題視し、「ディール」のための交渉材料とする意図が指摘されるが、国際保健分野での米国のリーダーシップ低下は避けられない。2023年にバイデン政権がUNESCOに再加盟した際、中国の影響力増大を懸念した経緯を踏まえると、トランプ政権の脱退は中国に有利な「力の真空」を生むリスクを孕む。
貿易政策でも孤立主義的色彩が強まっている。トランプ政権は、2025年3月に「相互関税」政策を導入し、輸入品に一律10%の関税を課す方針を発表した。カナダやメキシコとのUSMCA協定品目は除外されたものの、中国やEU諸国への関税は貿易摩擦を激化させた。2025年4月、中国は米国産農産物に最大15%の報復関税を発動し、米中対立は深まった。日本に対しては、日米物品貿易協定(TAG)を巡る交渉が進行中だが、自動車関税の適用除外を求める日本の立場は不透明である。これらの政策は、国際貿易の自由化を後退させ、米国の経済的孤立を招く可能性がある。
国際協調主義からの乖離
トランプ政権の三か月を振り返ると、バイデン政権の国際協調主義からの明確な乖離が見られる。バイデン政権は、対中競争を多国間連携で進める「ラティスワーク」を重視したが、トランプ政権は同盟国への負担要求や一方的関税で、協調よりも自国利益を優先している。2025年2月の日米外相会談では、米側が日本の防衛費増額を求めたが、首脳間の信頼構築は進んでいるとは言えない。第一次政権で安倍晋三元首相がトランプ氏と築いた関係とは異なり、石破茂首相との友好の度合いは限定的である。
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ただし、完全な孤立主義への移行には疑問も残る。インド太平洋戦略では、クアッドやAUKUSを通じた対中抑止が継続され、同盟国との協力は維持されている。また、関税政策もUSMCAのような既存協定に制約され、一方的な実施には限界がある。トランプ政権の対中強硬姿勢は、バイデン政権の路線を部分的に継承しており、完全な孤立ではなく、選択的関与の色彩が強い。
最後に
トランプ政権発足後の三カ月で、米国は国際協調主義から国益第一主義へと大きく舵を切った。対中国を意識した関税強化や安全保障政策は、バイデン政権の枠組みを継承しつつ、より攻撃的な形で展開されている。パリ協定離脱やWHO脱退は孤立主義的傾向を示すが、同盟国との選択的協力は維持され、完全な孤立には至っていない。国際社会は、米国の政策がもたらす不確実性に直面しており、日本を含む同盟国は、協調と国益のバランスを模索する対応が求められる。今後の米中関係や同盟国の反応が、米国の方向性をさらに明確にするだろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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