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●この記事のポイント
・退職代行モームリには、入社式の4月1日に新卒社員から依頼も
・企業は時代に合わせて人事戦略を描かないと、良い人材を採用できない
・近年は空前の人手不足で若手人材は売り手市場。社員が簡単に辞める決断ができる環境にある
●目次
近年、利用者が急増している退職代行サービス。労働者本人が会社に退職の意思を伝えるのが難しい場合に、本人に代わって会社に伝えるサービスだ。とくに20代の若者を中心に利用が広がっている。最近、同サービス大手「退職代行モームリ」を使って退職した人が、元の会社に復職するケースも出ているというSNSへの投稿が話題になっている。実際にそんなことはあるのだろうか。退職代行モームリを運営するアルバトロス(東京・品川区)の谷本慎二社長に聞いたところ、「ネットの書き込みは、おそらくギャグではないか」と笑って答えた。ただ、「やや似たようなケースはある」(谷本社長)という。谷本社長に詳しく聞いた。
「当社から利用者の退職の意向を連絡したときに、部署を変えるから戻ってきて欲しいと会社側からオファーされたことはある。利用者が職場の人間関係でうまくいってなかったケースで会社側が非を認めた。ただ、当社ではこれまで退職代行を約3万件扱っているが、そういうことは10件あるかないか。それに、それを本人に伝えても、退職代行を使ってまで辞める決意をしている方なので、それでも辞めたいという人がほとんど」
もちろん、同社が関与していないところで、会社側から利用者への引き止めがあったケースも容易に想像できるというが、同社ではそこまで追跡調査はしていない。
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4月1日、今年も多くの会社で入社式が行われた。退職代行モームリのXには「1日現在4名の2025年度新卒社員の依頼がきています」とある。
取材した3月下旬、谷本社長は「3月末から4月にかけて新卒の方からかなりの依頼があるかもしれない。2月と3月に新卒の内定辞退で28件対応した」と話していた。入社式当日に4人だから、ゴールデンウィークにかけてまだまだ増えるのは間違いない。
昨年の新卒・入社式後の退職理由例としては、次のようなものがあった。
・会社説明会で聞いていたことと全く違い、細かい説明もなしに身だしなみを制限され、入社式にも出させてもらえなかった
・社訓をひたすら叫んだり、何回もテストをされ指摘される合宿をさせられた
・仕事が分からず聞こうとしたら自分で考えろと言われ、今度は自分なりに考えていたら仕事が分からないなら聞けと言われた
近年は空前の人手不足で若手人材は売り手市場だ。簡単に辞める決断ができる環境にある。さらに、谷本社長はこう指摘する。
「転職しようと思ったら、スマホで簡単に登録・アクセスできるのも理由の1つ。企業はそういうものだと思って、時代に合わせて人事戦略を描かないと良い人材を採用できない。企業側がとくにわかっていないのは、Z世代の考え方やライフスタイル。昔ながらの接し方だから離職率が下がらない。管理職は40代以上が多いが、例えば、プライベートを重視したいと言う若者を、甘えだと切り捨ててしまう」
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40〜50代といえば、いわゆる氷河期世代。就職活動が思うようにいかず、やっと入った会社なのだろう。会社にしがみつきたくなるのかもしれないが、Z世代との溝は大きい。
同社では「退職代行モームリ」以外に、自分で退職を確定させるサポートをする「セルフ退職ムリサポ!」というサービスも行っている。「退職代行は使わず自分自身で退職を伝えたい、でも1人では退職するのが難しい」という人に向けたサービスだ。例えば、会社側はさまざまな言い方で引き止めてくることも多いが、そのときの対応方法などを伝授する。開始1年ちょっとで相談者数4000人を超え、累計契約者数は150人超となっている。
このサービスの利用者の特徴として、もっとも多かったのは「上司から退職を止められている」というケースで、全体の約5割を占めた。一方、モームリの利用者のほうは3割未満となっている。
また、40代以上のモームリ利用者は約1割だが、ムリサポでは40代以上が3割となっており、年齢層が高いのも特徴だ。やはり、40代以上だと「お世話になった会社だから…」とか「退職は自分で伝えるべき」という伝統的な考え方になるのかもしれない。
「どの世代でも弱者や気の弱い方、自分の意見を言えない方はいる」と谷本社長は言う。そんな当たり前のことが理解されなかった日本社会だからこそ、退職代行もセルフ退職サポートも生まれたと考えるべきだ。
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(文=横山渉/ジャーナリスト)
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