「工場型」のアスベスト被害を巡る17日の大阪高裁判決は、被害者の救済範囲を狭めた国の対応を厳しく批判した。今回と同様に、国側が「除斥期間」の起算点を早める主張をしている訴訟は他にもあるといい、高裁判決は影響を与えそうだ。
17日午後、大阪市内で開かれた判決後の記者会見。大阪アスベスト弁護団の奥村昌裕弁護士は「極めて正当な判決。やっと正常に戻った」と切り出し、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
石綿訴訟では、国が敗訴した「泉南石綿訴訟」の最高裁判決を受けて、国は一定の条件を満たした被害者との和解に応じている。今回の訴訟の原告の男性も和解基準を満たしていたとみられたことから、弁護団は容易に和解に至るとみていた。
ところが協議は一向に進まない。提訴から約2年後、国が書面を出し、「原告の請求権は消失している」と主張し始めた。国に説明を求めたところ、2019年に和解の基準をひそかに変更し、賠償請求権が消滅する除斥期間(20年)の起算点を早めたと明らかにしたという。
理由として、国は、同じ石綿被害訴訟の福岡高裁判決(19年)を持ち出した。この訴訟で、賠償金の支払いが遅れたことに伴って支払われる利息「遅延損害金」の起算点が国側の主張よりさかのぼって認定されたため、除斥期間の起算点も併せて早めたとの理屈だった。この結果、男性は秘密裏の基準変更があった日から、わずか4日のうちに提訴しなければ請求権が消滅することになっていた。
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弁護団は国の和解基準の見直しの決定プロセスを調べるため、何度も情報公開請求をかけたが、大半が黒塗り文書ばかりだったという。
国は被害者に基準変更を周知しないまま、石綿健康被害の和解手続きについて被害者向けのリーフレットを配り、「(和解条件を満たしているかは)法律の専門家に確認を」と記載していた。今回の訴訟を起こした原告の遺族は「リーフレット通り弁護士に相談したので国は和解するものだと考えていたが、争いとなり、ひどいと思った」と振り返る。
石綿被害を巡っては裁判所によって国の対応が違法とされた。言わば国は「加害者の立場」にある。弁護団は「多くの被害者が闘って勝ち取ってきた基準を勝手に変更するのは、国による意図的な被害者の切り捨てで、救済に背を向けている」と国の対応を批判した。【岩崎歩】
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