【国別フィギュア】鍵山優真は大技導入も転倒「落ち込みすぎてやばかったんですが......」 日本チームの「みんなが明るくしてくれた」

1

2025年04月18日 12:31  webスポルティーバ

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

【王者を意識して4回転フリップを導入】

 4月17日、東京体育館。今シーズンを締めくくるフィギュアスケートの世界国別対抗戦が開幕。アイスダンスのあと、男子のショートプログラム(SP)が始まっていた。

 キス・アンド・クライに座った鍵山優真(21歳/オリエンタルバイオ・中京大学)は、やや硬い表情だった。しかし、隣に寄り添う父・鍵山正和コーチに「よくまとめた」と励まされ、さらにうしろに陣取った坂本花織を中心にした日本チームの明るい声で支えられると、気持ちを切り替えられたのだろう。最後は朗らかな顔つきになった。

「氷から上がった時は、落ち込みすぎてやばかったんですが。みんなが明るくしてくれたので......今日のチャレンジは意味があるものだったと思います」

 演技後、鍵山は毅然として言った。

 3月の世界選手権で銅メダルを獲ったあと、鍵山は2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けて進化する道を選んでいる。端的に言えば、SPにこれまでの4回転サルコウではなく、4回転フリップを入れることを決めた。より高難度のジャンプで、得点も多く稼げる。世界王者イリア・マリニンが"生物学的進化"を見せるなか、現状維持では太刀打ちできない。

「(ジャンプの構成変更は)イリア選手を意識して近づきたいっていうのはありますね。だから、ここでうまくまとめても意味がない。挑戦するからこそ、来季にもつながると思っていました」

 6分間練習からフリップには苦戦していたが、鍵山は少しもひるまずに挑んでいる。

「ゆまち!」。坂本花織だろうか、応援ブースから声援が飛んだ。ペアの木原龍一が日の丸の旗を振った。「がんば!」と観客席からも激励が届いていた。

【大技は転倒も意味あるチャレンジ】

 静寂の会場に『The Sound of Silence』が立ち上るように流れ出し、演技が始まった。

 冒頭、鍵山は4回転トーループ+3回転トーループを完璧に決め、GOE(出来ばえ点)も含めて17.36点とハイスコアを叩き出している。結局、4回転フリップはうまく軸が取れず、派手に転倒した。しかし、トリプルアクセルはまるで氷に吸い込まれるように静謐に降り、GOE含めて11.43点を出し、アクセル単体ではマリニンを上回った。

 終盤、曲にボーカルが入って盛り上がりを見せるなか、鍵山はハイレベルなスケーティングで観客のボルテージを高めた。スピン、ステップはすべて最高評価のレベル4だった。一つひとつの動きに無駄がなく、エレメンツごとに余韻を感じさせた。ジャンプが1本失敗だったことを考えれば、93.73点での4位は、ポテンシャルの高さを示したとも言えるだろう。

「どう捉えられるかわからないですが、フリップ以外で頑張ろうとは思っていました。ミスしているフリップに意識が持っていかれて、ほかがおろそかになるよりは......」

 鍵山は冷静に振り返った。

「トゥーループ、アクセルはこれまででも一番の出来でした。ステップも最後の表現まで、感情を込められたと思います。だからこそ、スタンディングオーベーションをしてもらったはずですし、そこは自信を持ってもいいところなのかな、と」

 彼は進化を遂げる過程での失敗を恐れなかった。フィギュアスケートという競技は日進月歩で、立ち止まることができない。チャレンジは宿命なのだ。

「五輪シーズンだからまとめるじゃなくて、どんなシーズンでも新しい挑戦をしないといけない。今シーズン、これ以上ないくらいのショートをしながらも、自己ベスト更新に至りませんでした。だからこそ、フリップ挑戦は意味があると思っています。ただ、曲のなかに入れるのには、もう少し自信も必要で。ショートは3本のジャンプで、絶対に決めないといけないから」

 変身を遂げる痛みが、己を鍛えることも知っているのだろう。実際、もがくなかで全体的にクオリティが上がりつつある。フリーでも新たに4回転ルッツを入れる構成を考えているという。一日の練習のなかで、何本かは降りることができているそうだ。

「ただ、4回転ジャンプを入れれば入れるだけいいわけではなくて。一本一本の質も大事になります。スピン、ステップも大切なエレメンツで、(基礎点が低くても)GOEで稼ぐのも大事だと思っています」

【背中を押したチームジャパンの声援】

 鍵山は、日本代表としての気持ちも口にした。

「チームジャパンはみんな仲がよくて、目の前で応援してくれるので。成功した時も、ミスした時も声援が聞こえて、すごく励まされました。だから、自分も応援する時は気合い入れてやりたいと思います!」

 彼は生真面目に言う。しかし向き合っている挑戦を乗り越えることこそ、日本のフィギュアスケート界全体を牽引するはずだ。

「今シーズンは悔しい思いもたくさんしてきましたが、最後までしっかり頑張りたいです。来季に向けて全力で戦えるように」

 4月18日、鍵山はフリーを滑る。今シーズンの終章を飾り、来シーズンの序章へ。終わりは始まりの合図だ。

世界国別対抗戦2025記事>>

    ニュース設定