
サッカーJ1ファジアーノ岡山は4月6日、FC東京をホームで破り、J2時代の昨年9月から続くホーム公式戦無敗記録(プレーオフを含む)を「11」に伸ばした。試合と同じく注目を集めたのが、FC東京サポーター(東京サポ)の食べっぷり。スタジアムフーズ・ファジフーズが過去最高売上を記録しただけでなく、「#蝗活」(いなかつ)というハッシュタグを付けた投稿がX(旧ツイッター)にあふれ、質、量ともにファジアーノサポーター(ファジサポ)のみならず、自治体トップをも驚かせた。
食を求めて縦横無尽
「最高の朝ごはん 正直腹パン #蝗活」−。試合前日の5日、Xである投稿が話題になった。岡山市のJFE晴れの国スタジアムから北に約50キロ、車で1時間ほどかかる岡山県美咲町の「食堂かめっち。」で名物卵かけごはんを食べたという東京サポの報告だ。川崎フロンターレ戦(3月16日)、横浜F・マリノス戦(同29日)でも、それぞれのサポーターが関東地方から大勢訪れたが、岡山、倉敷、津山市や、カキおこで知られる備前市からの投稿がほとんど。それだけに、美咲町発の「#蝗活」にファジサポらは「東京サポまじか…… 美咲町だぞ……」「FC東京サポさんの #蝗活 を甘く見ていました…。まさか、まさかですよ。県民だってなかなか足を運ばない美咲町まで行くと思わないじゃないですか」などと驚嘆の声が広がった。
美咲町の青野高陽町長は、Xで話題になっていることを副町長に知らされた。東京サポの投稿を引用し「ファジアーノとの対戦を見に東京から来られたFC東京のサポーターが、食堂かめっち。に。27万人に見られ、話題になっている。感謝。ファジアーノ戦は遠い岡山の話かと思っていたけど、J1効果、おそるべし」と返信。山陽新聞社の取材に「一報を聞いた際は『東京から美咲へ?本当に?』というのが本音だった。考えたこともないファジ効果で、ただただありがたい。『食堂かめっち。』の卵かけごはんは550円で食べ放題なことをはじめ、美しい棚田がある町の見どころや食についてこれまで以上に情報発信し、新たなお客様もお迎えする工夫をしていきたい」と話した。
また青野町長は10日、「岡山県知事に蝗活のことを話したらとても喜んでいました」と岡山県の伊原木隆太知事にも「#蝗活」の経済波及効果について説明したと投稿。蝗活の実態は岡山県行政トップにも届いているようだ。
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「蝗活」の「蝗」はイナゴのこと。Jリーグ公式ホームページでも「いなごのごとく、アウェイのグルメを食べつくしてしまうことからFC東京サポーターの間で使われるようになった『#蝗活』」と紹介されるほど、東京サポはよく食べることで有名。今回は東京サポに岡山のグルメを満喫してもらおうと、ファジサポにより「#東京サポを岡山から空腹で帰すな」のハッシュタグも提案された。
「#蝗活」の付いた岡山関係の投稿をさかのぼると、食べ物の写真とともに投稿されたのは300店・箇所を超えた。併用された「#東京サポを岡山から空腹で帰すな」の投稿も含めると計測不能。「#蝗活」タグで東京サポが訪れた店をネット上の地図に落とし込む作業を行う東京サポ有志も「間違いなく過去最高件数だと思います」「(作業終了の)先が見えない」と音を上げる始末だ。
早朝から“試合開始”
さらにファジサポらを驚かせたのは試合当日。早朝からX上では東京サポらの投稿が相次いだ。
「2時間近く並んで遂に辿り着いた、牛すじとホルモンのあいがけカレー」
「散々悩んだ末に岡山牛すじカレー 穴子天 フランクフルト 長谷部商店の魚ロッケとホタテ天 みかんジュース 虫明の牡蠣をいただきました」
「スタグル(スタジアムグルメ)早朝部門みたいな形で利用した」
「デザートの焼き鳥食って朝市離脱」
「締めは牛すじカレー」
岡山市中心部の旭川河川敷で月1回開かれる「京橋朝市」だった。東京サポはキックオフの約9時間前、日の出とともに“試合開始”。「青と赤の服の人たちがいっぱい」「体感的に1割弱が東京サポ」といった朝市会場の状況報告もあった。
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記録は商業施設でも
「過去最高売り上げ」はファジフーズだけではない。JR岡山駅構内の商業施設「さんすて岡山」で、宮下酒造(岡山市中区西川原)の直営店「角打ち」が、6日のビール消費量が記録更新だったとXで公表。和菓子製造販売の廣榮堂(同区藤原)も、さんすて岡山店の売り上げが急拡大し、“ある商品”が過去最高となる見込みという。主力の「きびだんご」でなく、ふんわりとした求肥(ぎゅうひ)を香ばしいカステラ生地の薄皮で巻いた「調布」だ。2月に新設した調布の実演販売には試合後、長い列ができ、土産用の箱物も飛ぶように売れ、調布の売り上げは通常の週末の2.6倍に達した。
なぜ「調布」なのか。FC東京は東京都調布市が本拠地で、「#蝗活」では「調布市民が調布を食らう」「新幹線でてすぐ駆けつけ調布を焼いてもらう」「実家のような安心感のある名前に釣られて買ってしまった笑」などと、ネーミングによる思わぬ相乗効果がうかがえた。
廣榮堂の取締役営業部長の頓宮義記さんは「J1効果を実感している。ホーム戦があった時は売り上げがとても良く、これまでにはなかった光景がある。特に6日はFC東京サポーターさまによってすごいことになった。今後とも来岡されたサポーターの皆さまには、食を通じて岡山の良い思い出をつくって帰っていただきたい」と話している。
ファジアーノ岡山は引き続き、鹿島アントラーズ、東京ヴェルディと、関東本拠のクラブをホームに迎える。浦和レッズは11月30日と試合が半年以上先なのに、早くも岡山市内のホテルが予約で埋まりつつあり、次の記録更新を予想する向きもある。それでも、東京サポのX投稿を見ると「中華そばとニラそば!美味しい… また、岡山これますように…」「どうか来年もアウェー岡山が第一日曜(京橋朝市開催日)でありますように!」「来年は調布を箱買いするぞ!!!」などと、岡山グルメへの興味は尽きないもよう。東京サポが岡山で巻き起こしたグルメ旋風は、まだまだ続きそうだ。
(まいどなニュース/山陽新聞)
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