
レアル・マドリードはチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝でアーセナルに通算スコア1−5で敗れ、大会2連覇を逃した。CLの32年の歴史のなかで、レアル・マドリードは3連覇という偉業を達成しているが、それ以外、どこも連覇することができていない。今回は、CLで連覇を果たすことの難しさを、あらためて痛感させられた敗退劇だった。
レアル・マドリードはディフェンディングチャンピオンを意識したのか、アーセナルに対して受けて立ってしまった印象がある。アーセナルに対してだけではない。受けて立つ"癖"がついていたように見える。
対戦相手にはレアル・マドリードが横綱のように映ったはずだ。昨季の欧州チャンピオンが、キリアン・エムバペを獲得したのである。欧州で1、2を争う、バロンドールに最も近いといわれる選手だ。反則と言いたくなる大型補強を敢行した。打倒レアル・マドリード。今季の欧州にはそうしたムードが流れていた。
絶対に負けられない立場に身を置くことになったレアル・マドリードだが、肝心のエムバペがチームにきれいに収まることができなかった。アーセナルに敗れ、連覇を逃した一番の要因である。スペインリーグで現在、バルセロナに勝ち点4差で先行を許す原因と言ってもいい。
加入する前からわかっていたことでもある。エムバペの適性は左だ。パリ・サンジェルマン(PSG)時代、そしてフランス代表でもそうなのだが、中央、右もこなすとはいえ、最も気持ちよさそうにプレーするのは左だ。これを「右利きの左ウイング」とカテゴライズするならば、ヴィニシウス・ジュニオールと一致する。
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試合を重ねるうちにポジションはうまくすみ分けられ、問題は解消する方向に進んでいるかに見えた。ヴィニシウス、エムバペ、右のロドリゴ、さらには4−2−3−1になるとトップ下に収まるジュード・ベリンガムを加えた4人組は、欧州一のアタッカー集団と評判になった。
プレーオフで一昨季の覇者マンチェスター・シティを下すと評価は急上昇。決勝トーナメントは抽選の結果、厳しいほうの山に入ったため、ブックメーカー各社はレアル・マドリードではなく反対の山に回ったバルサを優勝候補の本命に推したが、アーセナル、PSGに対しては優勢と予想した。
【行き止まりの道を無理に進むような攻撃】
決勝トーナメント1回戦のアトレティコ・マドリード戦も、いま振り返れば怪しい兆候が見え隠れしていたが、なんとか競り勝ち、迎えた準々決勝アーセナル戦だった。
蓋を開けてみると力関係はほぼ互角。ファーストレグではアーセナルがホームの利を活かし、試合をやや優位に展開した。レアル・マドリードは焦った。4人のなかで最も頼りになるヴィニシウスにボールを集めるも、デキはイマイチで、攻撃に拠りどころがなくなった。アタッカー陣4人の関係はバラバラになっていた。
トップにボールが収まらないサッカー。ひと言で言えばそうなる。
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エムバペが中央寄りに構えても、基本的にはドリブラーだ。自慢のスピードを活かした推進力が、同じくドリブラーである左右のウイング(ヴィニシウス、ロドリゴ)と重なった。3人が3人とも槍タイプなので、真ん中でボールを受ける選手がいなかった。バルサで言うところのロベルト・レバンドフキがいなかった。
アーセナルとの第1戦は、そうこうしているうちにデクラン・ライスにFKを2点決められる。まさかのゴールにレアル・マドリードはさらに慌てた。その結果、エムバペは左に寄る。左右のバランスはいっそう崩れた。最後はミケル・メリーノにも一発を浴び、0−3でセカンドレグに臨むことになった。
そのセカンドレグ、初戦との違いはヴィニシウスが好調だったことだ。しかし、それだけに左右のバランスはいっそう乱れた。エムバペが左に加勢すると、攻撃は8割がた、左に偏った。攻撃のルートは相手にミエミエだ。行き止まりの道をゴリゴリと無理に進もうとしている感じになる。
前の4人を後方から操る交通整理役も不在だった。トニ・クロースは引退し、ルカ・モドリッチに全盛期ほどの存在感はない。舵取り役がいないので、展開がコントロールされていない。バルサと比較すればレバンドフスキに加え、フレンキー・デ・ヨング、ペドリ、ガビがいないことになる。中盤不在。攻撃はスター選手の個人技まかせ。前の4人が操縦不能の暴れるようなサッカーになっていた。ご承知のようにセカンドレグの結果は1−2。合計スコア1−5の完敗だった。
【3連覇を達成した「BBC」との違い】
ファーストレグでライスの2本のFK弾が決まっていなかったら、結果はどうなっていたか定かではないが、仮に今回勝利していても、準決勝、決勝と進むなかで、問題は露呈したと思われる。CLで連覇を達成するチームのサッカーではなかった。
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レアル・マドリードの前の4人は「ファンタスティック4」と呼ばれているようだが、その手の異名で想起するのは「BBC」だ。ガレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド。2015−16シーズンから始まったCL3連覇を語る時、この3人の名前は外せない。
この3人は「ファンタスティック4」とは異なり、きれいに並んでいた。ロナウドとベイルは推進力を活かすタイプで、ベンゼマは真ん中でボールを収めるタイプ。さらにベンゼマは、最大のスター、ロナウドが内に入れば左に開くポジションワークを見せ、バランスを見事に保った。また、中盤はクロース、モドリッチ、カゼミーロがコントロール。「ファンタスティック4」のように頭(前方)の重たいサッカーに陥ることはなかった。
3連覇を飾ったかつてのチームと比較すると、今回のチームの問題点は鮮明になる。サッカーはバランスのスポーツ。アーセナルからもこの点について学ぶことがあった。
アーセナルもCFは不在だった。左右にガブリエル・マルティネッリとブカヨ・サカの両ウイングを従え1トップを張ったのはミケル・メリーノだった。典型的なCFではまったくない、本来は中盤の選手だ。それでも適性がサイドではなく真ん中である彼を、ミケル・アルテタ監督は0トップ的な1トップに据えた。レアル・マドリードで言えばベリンガムをトップに据えるようなものだ。これで左右のバランスは保たれた。
だからと言って、レアル・マドリードの場合、ベリンガムを1トップに据えることは難しそうだ。ロドリゴを先発から外し、左にヴィニシウス、右にエムバペに配す3トップは築きにくい。エムバペの適性は左。ヴィニシウスも左。両者ともに右ウイングはできない。
ヴィニシウスとエムバペという似たもの同士という表現がしっくりくるスター選手を、どう並べるか。そしてカルロ・アンチェロッティが続投するのか、はたまた新監督を迎えるのかは不明だが、バランスを考えると難題である。そしてこれは、冒頭でも述べたように、エムバペにレアル・マドリード行きの話が出た瞬間から予想できた問題だ。
CLでベスト4入りを決め、国内リーグでも首位を行くバルサが、あまりにもバランスのいいサッカーをしているだけに、ライバルチームのアンバランスは余計に目立つ。解決方法に目を凝らしたい。