限定公開( 2 )
5時間待ち――。1970年の大阪万博で話題になった「月の石」を見るために、多くの人が米国館に押し寄せた。
「なんとなく記憶に残っているよ」「その話聞いたことがあるなあ」といった人も多いかもしれないが、4月13日に開幕した大阪・関西万博では、反響はどうなのか。
いまのところ「最長2時間待ち」だそうだが、ゴールデンウィークや夏休みなどに向けて、盛り上がりが広がれば、3時間、4時間……いや、ひょっとしたら5時間待ちの日も出てくるかもしれない。
というのも、大阪万博で目玉のひとつだった「月の石」が、55年ぶりに大阪に帰ってきたからである。「いやいやいや、今回の万博では目玉にならないでしょ。時代が違いすぎる」といった声が飛んできそうだが、今回のコラムは「月の石」にスポットを当てたいと思う。
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……と、その前に、米国のパビリオンがどんなところなのか、簡単に紹介しよう。外観は三角形の建物2棟と、立方体の建物が浮かぶように配置されている。2棟の側面には、大型のLEDスクリーンがどーんと設置されていて、米国の名所などが映し出されている。
パビリオンの中に入ると、星形のマスコット「スパーク」が出迎えてくれる。5つの展示ゾーンを30分ほどかけてめぐるわけだが、ちょっとだけネタばらしをすると、メジャーリーグの大谷翔平も登場する。とはいっても、もちろん映像のみで、55年前の万博を経験した人からは「まさか、今回の米国館で、日本人が活躍する姿を見られるなんて」と感慨にふけるかもしれない。
パビリオンの中で最もびっくりしたのは、高さ9メートルのスクリーンである。NASAのロケット打ち上げの映像が大型LEDに映し出されると、床が「ガタガタガタ」と揺れ、大音響が響き渡る。そして、ロケットは打ち上げられて、宇宙に飛んでいく。あまりの迫力に、隣にいたメディア関係者も、思わず「うわっ」と声を上げるほどだった。
●アルミニウム製ケースに白羽の矢
さて、話がちょっと長くなってしまったが、「月の石」である。パビリオンのラストに展示されているわけだが、この石は人類が最後に月面に降り立った際に採取されたモノだという(1972年のアポロ17号)。
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筆者が取材したメディアデー(4月9日)のときも、多くの報道陣が「月の石」にカメラのレンズを向けていて、何枚もパシャパシャと撮影していた。時間をかけて撮影する人が多く、そのたびに係の人が「はい、終わりです。次の人、どうぞ」と声をかけていた。
今回の万博では、日本館で「火星の石」を展示しているので、米国館の「月の石」は第2の目玉になるかもしれないが、筆者が気になったのは「どうやって運んできたのか」である。
「そりゃあ、米国から飛行機か船で運び、運送会社が会場まで届けたはず」などと思われたかもしれないが、そうではない。宇宙飛行士が月で採取した石や砂などを、どのようにして地球に持ち帰ったのか、という点である。
アポロ11号(1969年)が月面着陸した際、石や砂などを地球に持ち帰るために、当時のNASAは「カバン」を探していたそうだ。宇宙では温度変化が激しいし、地球に帰還するときには激しい衝撃がある。過酷な状況の中でも耐えられるカバンはないか。
そこで、白羽の矢が立ったのが、当時、米国に拠点を構えていたゼロハリバートン社(現在は日本のエース社がブランドを所有)のアルミニウム製ケースだったのだ。ちょっとびっくりしたのは、NASAが採用したのは特注品ではなく、当時、百貨店などの店頭に並んでいたモノだったそうで。内装だけを特別に改良して、ロケットに積み込んだそうだ。
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そのケースの名称は「月面採取格納器」。三重密封構造のアルミシェルが月面と同じ真空状態を保ち、湿気や微細な汚染物の侵入を防いだという。結果、21.5キロほどの石と砂を地球に持ち帰ることに成功したのだ。
●地球と月をつなぐカバン
ちなみに、ゼロハリバートンのアルミケースは、映画でもたびたび使われている。無機質で頑丈そうなデザインであることから、「重要なモノが入っていそう」「中身が気になる」といった演出にぴったりなのかもしれない。トム・クルーズが演じる映画『ミッション:インポッシブル』や『007(ジェームズ・ボンド)』シリーズでも、たびたび使われている。
ゼロハリバートンのアルミケースは、有名な“映画小道具”であるが、宇宙では「地球と月をつなぐカバン」だったわけだ。半世紀後、大阪で再び話題になるなんて、宇宙飛行士も想像していなかったはずである。
(土肥義則)
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