借金してまでホストに通う女性の多くが抱える“共通点”。「生活できなくなる」と考えられないワケを医師が解説

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2025年04月20日 16:00  女子SPA!

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医療法人社団 祐和会「大石クリニック」院長・大石雅之先生
 つい最近まで普通に暮らしていたはずなのに、いつの間にか借金まみれ――。

 近年、自身や家族がホストにハマる“ホス狂い”や自分を犠牲にして恋愛対象者を最優先してしまう恋愛依存症などに陥り、日常生活が破綻してしまう人たちについてメディアでも多く取り上げられています。それは、つい最近まで普通に暮らしていたはずの人たち。

 どうしてそのようなことになるのか、そのメカニズムについて、依存症治療に30年以上携わる医療法人社団 祐和会「大石クリニック」院長・大石雅之先生に話を聞きました。

 大石先生は多くのメディアでホスト依存などの取材に応えるほか、本人・家族からの相談に日々耳を傾け、運営する4か所のグループホーム(回復施設)も活用しながら患者それぞれが治療に専念できる環境を提供しています。

◆どこからが依存症?

――誰にでも、何かにハマってしまう経験はあると思います。“依存症”と診断されるにはどこからがボーダーラインで、具体的にはどのような症状が出るのでしょうか?

大石先生:実は、“依存症”というのは病名ではありません。医学的定義では、アルコールや薬物など特定の物質、ギャンブルやパートナーへのめり込むなどの行動に対して自分をコントロールできない状態に陥ってしまうことを依存症といいます。

――「やめたほうがいい」とわかっているのにやめられない、学校や仕事などの日常生活がそっちのけになったり借金を重ねたりしてでも恋愛対象者などを最優先してしまう。メディアなどでもよく報じられている印象そのままですね。

大石先生:そうそう、「ダメだ」「よくない」とわかっていても自分で自分を抑えられない状態。そういう状態を依存症といいますが、ホストに入れ込む“ホス狂い”や自分を犠牲にしてまで恋愛対象を最優先してしまう“恋愛依存症”は、ギャンブルやアルコールの依存とは大きく異なります。

◆ホス狂いや恋愛依存症に潜む病気

――同じ依存症といわれるものなのに、大きな違いがあるのですか?

大石先生:ギャンブルやアルコールは、偶然的です。パチンコ店へ行ってたまたま勝ったり、お酒を飲んだら自分にすごく合っている感じがしたりしてハマってしまう。でも、ホス狂いや恋愛依存症によって借金や売春までして貢ぐ深刻な状況に陥る人たちのほとんどは、疾患を抱えています。これが、ほかの依存症との大きな違いです。

――ホストや恋愛対象者に依存してしまう原因には、疾患があるということですか?

大石先生:もともと抱えている疾患が問題を大きくしています。その疾患というのが、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害、痴漢・盗撮などの性犯罪を繰り返したり社会的に問題につながる行為をしたり、性交渉や風俗の利用回数が極端に多くなったりする性嗜好障害や強迫的性行動症などです。こういった疾患がない場合、最初に何万という金額をホストに提示された時点で「毎回これだけかかるなら、生活できなくなる」などと考え、冷静になります。

――なるほど。でも、無理やり風俗を紹介されたり売春を強要されたりしてまでお金をむしり取られたといった報道も多いように感じます。

大石先生:そういうケースもなかにはあるかもしれませんが、いくらホストや恋愛対象者が「風俗行け」「体を売ってこい」と言っても、無理やりそういうことを本人にさせるというのは現実的には難しいものです。

◆“普通の人”に潜む疾患を利用する人たち

――これまでの診察経験からも、風俗での労働や売春をして貢ぐ行為は本人たちが自らの意思でやっているというケースが多いということですね……。その背景には、疾患がある?

大石先生:発達障害や性嗜好障害・強迫的性行動症を持っている人には、理解・判断・論理などの知的機能“認知”のゆがみ、簡単にいうと“ものの捉え方”のゆがみが大きいために孤独や寂しさを抱えている人が多いです。ホストに依存している場合だと、「担当(ホスト)だけが私のすべてを受け入れてくれる・理解してくれる・幸せな時間を過ごさせてくれる」という感じ。ホストがお金を使ってもらうためにそういう環境を提供していることに気づきにくい傾向があります。

そのため普通に暮らしているつもりでも、「どこか馴染めない」「自分だけが浮いている」など本人たちが漠然と感じていることもありますし、認知のゆがみからホストや恋愛対象者とのやり取りをキッカケにのめり込んでしまうこともあるのです。

――ホストや恋愛対象者と知り合うキッカケとしては、どういったものが多いですか?

大石先生:ホストの場合、大学入学後に「ちょっとホスト行ってみない?」と友だちに声をかけられて行ってみたというケース。ちょっとした好奇心や興味本位からハマってしまったということも多いです。

――どのようにのめり込んでいくのか、具体的に教えてください。

大石先生:普段は周囲に馴染めなかったり、否定や疎外されていると感じていたりする自分をすべて受け入れ、「かわいい」「ステキ」などと褒めてくれる。すると嬉しくなるし、自分の居場所ができたような気持ちになります。恋愛や人とのコミュニケーションに長けている人なら、簡単にこういった状況を創り出すことができる。赤子の手をひねるようなものです。

◆疾患があるかないかで“その後”が変わる

――誰かに褒められたり自分の居場所ができたりすることは、疾患を抱えていない人でも嬉しいことのように思います。疾患があるかないかでは、どのように変わるのでしょう?

大石先生:疾患を抱えている人は興味や活動が偏る傾向があり、視野狭窄に陥りやすい。先ほども少し触れましたが、疾患を抱えていない人は、ホストから何万という金額を提示された時点で「毎回これだけかかるなら、生活できなくなる」などと考え、冷静になります。でも疾患を抱えている人は、目の前にある楽しいひとときがすべてになってしまうのです。

――そのひとときの楽しさのために、借金を重ねたり日常生活を犠牲にしたりする?

大石先生:そうそう。そして、親の財布からお金を盗んだり、いままで勤めていた仕事を辞めて売春や割のいい風俗店で働いたりしてまで、ホストや恋愛対象者にお金を渡すようになってしまう。

――聞いているとすごく怖いですし、いままでは普通に暮らしていて、自身が疾患を抱えているとは想像していない人も多そうです。

大石先生:実際、風俗店で働いたり売春をしたりしても借金が払い切れなくなり、当院に相談に来てはじめて疾患が発覚したという人も少なくありません。

◆疾患に気づきにくい理由と気づきポイント

――どうして、対処しきれないトラブルに直面するまで自分の疾患に気づきにくいものなのですか?

大石先生:絶対というわけではありませんが、疾患を抱える子の親は、同じように疾患を抱えている可能性が高いことがわかっています。その場合、同じような思考だったり行動を取ったりすることも多い。するとどうしても、周囲との違いに気づきにくくなってしまいます。

――なるほど……。

大石先生:周囲から「ちょっと変わってる」「天然」「KY(空気が読めない)」などと言われてもそれが問題になるようなこともなく、まわりも自分自身も、まさか疾患を抱えているとは考えず大人になるまで過ごすケースも多いです。

――幼少期に気づくとすれば、通っている保育園や小学校などで先生から診察を勧められたときぐらいでしょうか?

大石先生:そうですね。ただ、親が疾患を抱えているとアドバイスを受け入れられないなど、診察に足が向かないケースもあります。

◆疾患を生かせば武器にもなる

――社会人になるまでに何度か疾患に気づくポイントがあるとはいえ、なかなかハードルが高そうです。疾患を知らずに生活を続けることは難しいでしょうか?

大石先生:世の中には、気づいていないだけで発達障害などの疾患を抱えていると考えられる人もたくさんいます。そして問題にならないどころか、その道を極めて称賛される人だっているわけです。たとえば、好きだからと毎日同じものを1日3回食べ続けられる人や同じことをずっとやり続けられる人。そういった人が必ず疾患を抱えているわけではないので誤解しないでほしいのですが、興味や活動の偏りといった特徴が当てはまります。

――「どういったことに興味を示すか」「どういった活動をするか」、ということがカギになってきそうですね。……ということはやはり、自分の疾患について知っておくことは大事?

大石先生:疾患があるとわかれば、視野の狭さや認知のゆがみを治療によって改善することもできます。そうすることで視野が広くなって選択肢が増え、自分の興味や行動が将来にどのような影響を与えるのかを冷静に判断しやすくなります。「まわりに馴染めていない気がする」「いつも孤独に感じる」など気になることがあれば、まずは相談してほしいです。

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 自分自身や家族など身近な人が何らかの疾患を抱えているかもしれないと考えると、不安に感じる人のほうが多いのではないでしょうか。ただ、治療することで視野が広がり、ポジティブな思考や行動につなげられるなら、いまよりも毎日が生きやすくなるかもしれません。

【大石雅之】
厚生労働省より「依存症専門指定医療機関」や「通院医療機関」として指定を受けているほか、神奈川県警察より「ストーカー加害者の精神医学的治療等指定医」としての委嘱も受けている医療機関、医療法人社団 祐和会「大石クリニック」の院長。依存症治療に30年以上携わり、多くの依存症患者と向き合う日々を送っている。

<取材・文/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意。

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