<柔道:皇后杯全日本女子選手権>◇20日◇横浜武道館
女子48キロ級のパリ五輪金メダリスト角田夏実(32=SBC湘南美容クリニック)が、自己最多の2勝で柔道の神髄を示した。体重無差別で日本一を決める大会に最軽量級から挑戦し、異次元の3回戦進出。減量なしの53キロで1回戦から37キロ差と23キロ差の相手を連破。最後は17キロ差の全日本強化選手に屈したが、代名詞のともえ投げを武器に渡り合った。78キロ級の田中伶奈(25=大阪府警)が初優勝。決勝で57キロ級の白金未桜(筑波大2年)を相手に大外刈りで一本勝ちを収めた。
◇ ◇ ◇
53キロが76キロを、宙に舞わせた。2回戦、開始2分40秒。角田が23キロ重い70キロ級の橋高と、にらみ合う。両腕の動きを封じると、左足を相手の左足付け根に突き刺した。右足を添え、後方に回転させる。右肩から畳に落とし、有効を奪った。自己最多の2勝目。「48キロ級とは違った緊張感。五輪より緊張するかも、と思った瞬間もあった。柔道というものを全部、楽しめた」と大舞台で感慨に浸った。
体重無差別。減量せず普段より5キロ増とはいえ、最軽量級から参加は珍しい。今月5日の全日本選抜体重別(福岡)に本来の階級で出て、世界選手権を目指す選択肢もあったが、世界一より、伝統大会を選んだ。「小さい選手が大きい選手と戦うのは格好いい」。あえて厳しい道を選択した。
|
|
過去2回は1勝が最高だった。20年は初戦敗退、翌21年は初戦の2回戦突破。この日は1回戦で最重量78キロ超級の、自身より37キロ重い高校生に旗判定で3−0完勝した。2回戦は「野獣」松本薫の後輩、橋高に優勢勝ち。初の2勝は代償も大きかった。「普通の試合とは全然違う。海で遊び切った後みたいな、だるさがあった」。3回戦は70キロ級の日本代表に0−3の判定で惜敗した。「勝って当たり前じゃない」と挑戦者に徹したが「負けたことがすごく悔しい」。ポイントを取られなかったことが、五輪王者のプライドだった。
昨夏は、ともえ投げを武器に念願の五輪で金メダルを獲得した。大会後は痛めていた両肩の治療に専念。今年2月の復帰戦グランドスラム・バクー大会で優勝したが「少しずれていた。調子が悪かった」。不安を拭えずにいたが、大柄な相手にも通用する切れ味を見せた。最多9度の優勝を誇る女子代表の塚田監督からは「柔よく剛を制す、に期待した。戦略的な柔道はマニアでも知らない人でも楽しませた」と絶賛された。
畳を降りて、再確認できた。「私って柔道が好きなんだな」。負けても笑顔。進退は保留しているが「柔道で追い込んでいる時が一番楽しい。このキツさ、充実感は引退したら味わえないと思うと寂しい。もうちょっと自問自答したい」。異例の挑戦が悩める胸中を複雑にした。【飯岡大暉】
◆48キロ級の皇后杯 最軽量級からの出場は異例だが、前年の五輪メダリストは推薦出場できる。22年大会では東京五輪銀の渡名喜風南が挑戦。51キロまで増やしたが、初戦で81キロも重い132キロの蓮尾と対戦。開始51秒、大外刈りからの寝技で合わせ技一本負け。「素直に怖かった。もう終わりでいいです」と苦笑いした。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Nikkan Sports News. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。