アップルやエヌビディアも…世界的に成功する企業はマイクロマネジメント?

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2025年04月21日 12:50  Business Journal

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エヌビディアの公式Xアカウントより

●この記事のポイント
・テスラやエヌビディア、アップルなど、世界的に成功している企業のなかにはマイクロマネジメントを導入しているところも少なくないといわれている。
・上司が部下に対して細かく管理をする過干渉型のマネジメントスタイル
・能力が平均以下の部下が多い職場でも、平均的ないしはそれ以上の成果を上げることができる


 フレックスタイム制やリモートワークなど自由な労働形態が当たり前になった現在、イーロン・マスクが率いる米テスラやジェンスン・フアンが率いる米NVIDIA(エヌビディア)、故スティーブ・ジョブズが創業した米アップルなど、世界的に成功している企業のなかには、社員の行動を細かく管理するマイクロマネジメントを導入しているところも少なくないといわれている。成功する企業は、大なり小なり経営にマイクロマネジメントの要素を導入しているものなのか。また、マイクロマネジメントのメリットとデメリットとは何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。


●目次



マイクロマネジメントの最大のメリット
教科書通りのマイクロマネジメントとは違う
普通以下の企業においては現実的なマネジメント手法

「マイクロマネジメントとは、上司が部下に対して細かく管理をする過干渉型のマネジメントスタイルを指します。典型的なやり方として、業務の進捗について細かく報告を求める、作成した書類について細かく修正点を指摘する、ミスが発生した場合に原因や背景などを細かく確認するといったやり方になります。これは、マネジメントとしては一定の成果が出せる一方で、パワハラにつながるなど批判的な評価も多いマネジメント手法です。


 これに対比されるかたちで、マクロマネジメントという手法があります。部下に対して大きな方向性を示したうえで、そこにどう到達するかは部下の自主性に任せます。部下のモチベーションを高めることにつながり、より大きな成果が出せるという評価があります。流行としては、マイクロマネジメントからマクロマネジメントへと経営スタイルの変化が起きているといわれています」


マイクロマネジメントの最大のメリット

 こう説明するのは、経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏だ。マイクロマネジメントのメリット、デメリットとは何か。


「まず、経営スタイルとして世の中の評価が高いマクロマネジメントにも欠点があります。マクロマネジメントが成立するためには、部下の能力が高く、かつモチベーションも高いという理想的な環境でのみうまくいくという、現実的には成立条件が限られたマネジメント手法なのです。これに対してマイクロマネジメントは、能力が平均以下の部下が多い職場でも、平均的ないしはそれ以上の成果を上げることができることが最大のメリットです。要するに普通の職場で有能な上司が成果を上げようとする場合、マイクロマネジメントのスタイルをとったほうが業績は上がります。


 その際、周囲から見てパワハラだと思われたり、部下が萎縮したり、心的な傷を負って長期職場を離脱する社員が出てしまうのがリスクでありデメリットです。実際にはマイクロマネジメントで成果を上げている企業の多くの職場では、パワハラに苦しむ部下が存在する状況になっているようです。例外的にマイクロマネジメントと部下のモチベーション向上を両立させている人もいます。そういった上司は、このリスクをうまく回避するかたちでのコミュニケーションを得意としています。コミュニケーションを密にしながら、それぞれの部下たちがどう活動をしているのかを正確に把握し、部下のモチベーションを下げないような話し方で行動の変化を促すやり方です。ただし、こういった技を持った上司がたくさんいる企業はそれほど多くはありません」


教科書通りのマイクロマネジメントとは違う

 では、前述の3人の経営者をはじめ成功する経営者は、共通してマイクロマネジメント志向なのか。


「これら3人のマネジメントスタイルをマイクロマネジメントだと批判する声があるのは事実です。しかし、イーロン・マスク自身がその批判を否定しています。実際に彼ら3人の経営スタイルは、従来の教科書通りのマイクロマネジメントとは違うものです。


 伝記を読む限り、マスクとジョブズのマネジメントスタイルは非常に似ています。それは本当に重要な細部についてだけ徹底的に介入してマネジメントしようとする点です。テスラでは『シュラバ』と呼ばれる『ここで失敗したら会社そのものがなくなる』という局面においては常にマスクが現場介入して、細かい点に徹底的にこだわるマネジメントを行います。『半年以内に工場の生産性を倍増させないと投資家からの資金が潰えてしまう』とか『次回の投資家ミーティングの場で自動運転技術ができることを示さないと企業価値が維持できない』といった場合です。そのようなシュラバでは、マスクは打ち手がゴールに到達できるかを重視し、ゴールから外れる妥協は許しません。より現実的な解を提案する幹部のクビを即座にはねて、別の人間を据えるようなことまで行います。


 ジョブズも同じで、iPhoneが誕生するにあたって『キーボードを設置しないこと』『裏面が鏡面のようなステンレスケースで高級感を保つこと』など、まだスマホが世に出る前の段階で彼が大切だと考えるスペックについては、開発メンバーに対して絶対に妥協を許しませんでした。


 このような2人のやり方を、細部にうるさいことからマイクロマネジメントだと批判する声があります。しかし経営学的には彼らのやり方はマクロマネジメントを発展させたもののように見えます。要するに、テスラにしてもアップルにしても、企業全体では非常に優秀な従業員を採用したうえで権限を与え、かなりの仕事を任せるマネジメントをしています。会社が目指す方向、今開発している重要商品の意味など大きな方向性を共有したうえで、かなりの部分は幹部の自主性に任せないと、あれほどのスピードでのイノベーションは起こせないのです。


 一方で会社全体がイノベーションを目指している以上、どうしても譲れない細部が存在します。そこはマスクやジョブズにとっては細部ではなく、最も重要な方向性だという位置づけです。ですから、そこに自分の資源を集中して、徹底的に細部に関与するのが彼らのやり方です。これは従来のマクロマネジメントを改良して、最重要ポイントだけマイクロマネジメントする経営手法だと捉えるとわかりやすいかもしれません」(鈴木氏)


 エヌビディアのフアンCEOは、これとは少し違った経営スタイルをとっているという。


「エヌビディアは従来の大企業のような階層を排して、CEO直下に60人の幹部社員を配置しています。通常の大企業はCEOの下に執行役員が10人ほど配置され、CEOはそれらの執行役員に対してマクロマネジメントのスタイルをとることが定石でした。しかし、そのやり方では大組織でのイノベーションのスピードが遅くなるため、フアンはその6倍の数の部下たちを自分が直接マネジメントする体制に変えたのです。このやり方だと、フアンにはものすごく大きな負荷がかかります。スーパーCEOだからこそ採用できた特別な経営スタイルだと捉えるべきでしょう」(鈴木氏)


普通以下の企業においては現実的なマネジメント手法

 やはりマイクロマネジメントは経営には欠かせないのか。


「マイクロマネジメントは批判も多いのですが、普通以下の企業においては現実的なマネジメント手法です。実は私自身、コンサルタントとして非常に組織力が高いことで知られるある大企業で、成果を出している営業所と出せていない営業所を比較研究するプロジェクトに関わったことがあります。結果としては、成果が出せている営業所の所長は大概の場合、マイクロマネジメントを得意としていることが明らかになりました。大きな方向性だけを示してあとは部下の自主性を尊重するというマクロマネジメントのスタイルは、評判がいいことは確かです。しかし実際に組織としての成果を上げる際には、普通の組織であればマイクロマネジメントを、GAFAM級のイノベーションを行う企業ではどちらでもない新しいマネジメントスタイルを採用すべきなのではないでしょうか」


(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表)



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