米UCバークレーと米ワシントン大学に所属する研究者らは発表した論文「Novel color via stimulation of individual photoreceptors at population scale」は、人間が通常見ることのできない新しい色を生み出す技術を開発した研究報告だ。
研究チームは「Oz」と呼ばれる新しい原理を用い、網膜上の光受容体(視細胞)を一つ一つ個別に制御することに成功。通常の色表示技術とは異なり、Oz技術は特殊なレーザーを使って各視細胞に直接光を照射し、脳への視覚信号を精密に操作する。
従来の人間の色覚では、M型錐体(緑に感じる視細胞)だけを選択的に刺激することは不可能だった。これはM型錐体の分光感度が、L型(赤)とS型(青)の間に位置し、完全に重なっているためである。しかし、Oz技術ではM型錐体だけを標的にしてレーザーを照射でき「olo」と名付けられた新しい色の知覚に成功した。
研究では、特殊な適応光学技術を用いて参加者の網膜上の約1000個の視細胞をスペクトル型ごとに分類。60Hzのフレームレートで微小な目の動きを追跡しながら、1秒間に10万回のレーザー照射を各視細胞に届けた。
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色合わせ実験では、参加者はoloを「前例のない彩度の青緑色」と表現し、この色が人間の自然な色域を超えていることを確認できた。さらに、研究者らはOz技術を用いて、赤い線や回転する赤い点をolo背景上に表示する実験も実施。参加者がこれらの画像や動画を明確に認識できることを示した。
対照実験では、レーザーの照射位置を意図的にずらすと、知覚される色はレーザー本来の色に「崩壊」し、参加者は異なる色を区別できなくなった。これはOz技術が高精度な目の動き追跡と低遅延の刺激提供を同時に実現していることを証明している。
Source and Image Credits: James Fong et al. ,Novel color via stimulation of individual photoreceptors at population scale.Sci. Adv.11,eadu1052(2025).DOI:10.1126/sciadv.adu1052
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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「スクショ」商標登録されていた(写真:ITmedia NEWS)93
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