AIを実装したZoomから探る AIエージェントはCX分野をどう変えるのか?

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2025年04月23日 07:21  ITmediaエンタープライズ

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ZVC JAPANの下垣典弘氏(筆者撮影)

 AIがビジネスに活用される中で、今後その効果が大きく期待されている分野が「CX」(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)だ。AIはCX分野でどのような効果をもたらすのか。ビデオ会議ツール「Zoom」でここ数年、存在感を高めてきた米Zoom Communicationsがこの分野に注力しており、その取り組みを日本で開催したイベントで紹介した。AIを実装したZoomがCXにどのような影響を及ぼすのか。それによってCXの未来はどうなるのか、考察したい。


AIを実装したZoomから探る AIエージェントはCX分野をどう変えるのか?


●エージェント型AIでZoomはどう進化した?


 「Zoomが日本でビジネスを始めて6年がたち、多くの皆さんにお使いいただいている。最近ではAIを実装し、進化を遂げつつある。AIによって『人とのつながりの新しい世界』を切り開きたい」


 Zoom Communicationsの日本法人ZVC JAPANの下垣典弘氏(代表取締役会長兼社長)は、同社が2025年4月17日に都内で開催したプライベートイベント「Zoom CX Summit Tokyo 2025」のオープニングスピーチでこう切り出した。


 同社はこれまでソリューションとして、ビデオ会議を中心とした「コミュニケーションプラットフォーム」と表現してきたが、2023年9月に生成AI機能「Zoom AI Companion」(以下、AIコンパニオン)を発表し、その後は「人とのつながりを支えるAIファーストのワークプラットフォーム」を前面に押し出している。


 下垣氏はその特徴として、「業務の効率化」や「仕事の成果を早く出す」とともに、「人間関係を深めて『EX』(エンプロイエクスペリエンス:従業員体験)とCXを向上」の3つを挙げた(図1)。


 そして、「AIファーストのワークプラットフォームでトータルな体験を提供する」として図2を示した。左側にEX領域、右側にCX領域、その全体をAIコンパニオンが包み込んでいる形を描いたこの図が、最新のZoomソリューションの全体像だ。


 その上で、同氏はこのイベントのテーマである「AI時代のCX進化」のポイントとして、「AIによる顧客対応の自動化と効率化の加速」「CXとEXの一体化」「データ活用による会話の洞察からCX向上へ」といった3つを挙げた。


 CXがテーマでありながら、ポイントの一つにEXとの一体化を挙げているところが興味深い。それは、Zoomはもともとオンライン会議を背景に社内、すなわちEX領域から普及し、CX領域へ広がった経緯があるからだ。さらにもっと重要なのは「EXあってこそのCX」という経営の考え方が広がってきたことだろう。


 その考え方にのっとったZoomのソリューションは、図3に示すように顧客を中心としてCXとEXが一体化、あるいはEXがCXを支えているようにも見て取れる。この図には、2つの領域によって顧客に提供される具体的なサービスも記されている。そして、こうしたZoomのソリューションをさらに進化させるのが、AIコンパニオンの新機能として実装されたエージェント型AIだ。


●AIを活用したデジタルツインのワークプラットフォーム


 下垣氏に続いてキーノートでスピーチしたZoom Communicationsのルーカス・キャルサーズ氏(Head of CX Sales & GTM, Asia-Pacific & Japan)は、同社のCXにおけるビジョンについて次のように説明した。


 「当社は組織の垣根を越え、AIによる自動化と人のつながりを融合させることで、1人1人に寄り添った高品質なCXを、より多くの人に届ける。また、当社は常に俊敏にイノベーションを起こし、全ての顧客接点を自動対応、有人対応を問わず、心のこもった体験に進化させる。お客さまのニーズを全ての取り組みの中心に据えながら、柔軟に変化し続ける」


 筆者が注目したのは「全ての顧客接点を自動対応、有人対応を問わず、心のこもった体験に進化させる」との表現だ。その理由は後で述べる。


 キャルサーズ氏は、同社のCXにおけるこれまでの取り組みについて図4を示した。


 この図によると、AIファーストのCXプラットフォームとして推進する2025年以降は、「バーチャルAIエージェントと人間が連携し、パーソナライズされた効率的で卓越した体験をスケールのある形で提供する」としている。


 さらに、2025年以降の最後には「CXファーストな組織へ」と記されている。これについて同氏は、CX領域で重要な役割を担うコンタクトセンターなどのオペレーターやスーパーバイザー、CXリーダーを例に挙げ、図5に示したようなそれぞれの課題について「AIコンパニオンを活用することで解消できる」と説明した。ちなみにこの図の左端に「エージェント」と表記されているが、このエージェントは「人間」を指すので、上記では「オペレーター」と表現した。


 キャルサーズ氏は、CXの未来についても「ZoomによるAIエージェント革命」と称して言及した(図6)。


 この図によると、Zoomのエージェント型AIは「人間の稼働を最小限に抑えながら、実行、仮説、自己最適化するAIによる業務支援」が実行できるようになるとしている。さらに同氏は「お客さまにとっては、より高いコストパフォーマンスで、より満足度の高い体験を得られるようになる」、それがCXの未来だと述べた。


 同氏は最後に「私がこれまでお話ししたことを、私の分身であるAIエージェントが日本語で要約してお伝えしたい」として、映像で登場した同氏の分身AIエージェントがその務めを担った。その上で同氏自身が「こうしたデジタルツインの環境が、AIエージェントによって活用されるようになるだろう」と語り、こちらもCXの未来として見せた。


●Zoomはデジタルツインのワークプラットフォームになる?


 筆者は同氏の「デジタルツイン」との発言にピンと来た。AIコンパニオンによるAIエージェントは、デジタルツインのリアルとバーチャルな空間を行き来して、業務を自律的にこなしていく。先ほど同社のCXにおけるビジョンのところで、「全ての顧客接点を自動対応、有人対応を問わず、心のこもった体験へと進化させる」との表現に注目したと述べたのは、まさしくデジタルツインを想定した話だ。


 そう考えると、これからのZoomはCX分野をはじめとして「AIを活用したデジタルツインのワークプラットフォーム」になり得るのではないか。メタバースなどのデジタル空間のアバターが、AIエージェントとして働くようになるかもしれない。


 果たしてAIエージェントは今後どうなっていくのか――。改めてそう考えたイベントだった。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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