Perfumeの“振動”が伝わった NTTが万博で見せた、感覚を共有する通信

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2025年04月25日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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まるで近未来ドラマの世界? NTTパビリオンがスゴい

 大阪・関西万博が夢洲で開幕し、各パビリオンが最新の技術や体験を提供する中、NTTは「PARALLEL TRAVEL ーパラレル トラベルー」というテーマで展開している。メインは、2030年の社会実装を目指す次世代情報通信基盤の「IOWN」(アイオン)だ。


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 パビリオンでは、映像や音声だけでなく、空間そのものや離れた場所の感覚を共有する未来型のコミュニケーション体験を提供している。


 NTTパビリオンの展示は、テーマごとに3つのゾーンに分かれており、すべてを体験すると約20分のツアーとなる。


 「Zone1」では、「コミュニケーションの進化と普遍」をテーマに、手紙、電報、電話からインターネットに至るまでの通信手段の変遷を展示し、それらと連動する映像を壁面に設置した巨大LEDスクリーンで流している。


 映像では、通信技術の進化とともに、「誰かとつながりたい」「誰かと理解し合いたい」という普遍的な人間の欲求、そして最新技術を駆使しても、なお満たされない何かがあるという問いを投げかけている。


●世界で初となる「空間転送コミュニケーション」


 メインの「Zone2」では、視覚・聴覚に触覚も加えた「未来のコミュニケーション」体験を提供している。「より相手の存在を感じる」ことを実現し、ビデオ会議などの2D画面越しの交流を超え、「空間そのものをデジタル化して伝送・再現する」新しい通信形態の確立を目指す。


 NTTは4月2日、パビリオンと万博記念公園(大阪府吹田市)を結び、3人組ユニット「Perfume」のパフォーマンスを実施。ステージに設置されたカメラやセンサーでパフォーマーの動きを立体的に捉え、床の振動までデータ化した。これらをIOWNネットワークで伝送し、世界初の空間転送に成功した。


 来場者は4月2日の「世界初の空間転送」を追体験できる。3Dグラスを通じた立体映像と床から伝わる振動を筆者も体験したが、ライブ会場にいるような臨場感を味わった。パフォーマンスを立体的に捉え、空間全体をデジタル化することで、高い没入感を実現している。


 この技術が社会実装されれば、遠隔でありながら実際にその場にいるような体験が可能になり、コミュニケーションのあり方が根本から変わる可能性を示す。


●「感情をまとう建築」とIOWN光コンピューティング


 「Zone3」では、NTTが「アナザーミー(Another Me)」と呼ぶデジタル世界での新たな自分との出会いを提供する。来場者一人ひとりを撮影し、デジタルヒューマンを生成。その分身が表情を動かし、最終的には声を発するまでの体験を実現した。撮影したデータは、演出終了後に削除するとしている。


 これは、IOWNが実現する未来の社会で、現実と仮想空間がひとつになる様子を体験できる展示だ。自分自身の可能性が拡張され、新たな「私」と出会い、そして新たな「私たち」が出会うことで生まれる未来社会の姿を提示している。


 NTTパビリオンは、「感情をまとう建築」というコンセプトで設計している。パビリオンを覆う膜状の構造物は、来場者の感情に反応して動く仕掛けが施されている。


 Zone2に設置したカメラが来場者の笑顔を捉え、その映像データをIOWNでNTT西日本の本社(大阪市)に送信。そこで「IOWN光コンピューティング」による分析結果がパビリオンに送られると、建物を覆う膜が動き出す仕組みだ。


 この技術の背景には、増大するデータ量と消費電力問題の解決という社会課題がある。AIの発展により電力消費が急増する中、IOWNのキーテクノロジーである「光電融合デバイス」により、従来のネットワークやサーバーで行われていた「光から電気へ」の変換を「光から光へ」直接つなぐことで消費電力の削減を目指している。


 今回の実装では、従来比で消費電力を8分の1に抑えた。2030年代には消費電力を100分の1にする目標を掲げており、テクノロジーの発展と持続可能な社会の両立という、IOWNの本質的な価値を体現した展示となっている。


●パビリオン外も「未来体験」の場に


 会場を出たあとも、「パーソナル体験ゾーン」を用意している。Zone1に対応する「せかいがきこえる伝話」では、遠距離恋愛の会話や受験合格の報告など、さまざまな時代のコミュニケーションを追体験できる。


 Zone2に対応する「いのちふれあう伝話」は、IOWNネットワークを通じてシグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」と接続し、映像と音声だけでなく心拍の鼓動まで触覚で共有できる仕組みだ。この技術はNTTドコモが開発した触覚伝送技術「FEEL TECH」をベースにしており、将来的には、医療やスポーツ観戦など幅広い分野で社会実装を目指している。


 NTTは100年以上にわたり、人々のコミュニケーションをつなぐ技術を提供してきた。今回のパビリオンは、その歴史を振り返るとともに、IOWNという革新的な技術が実現する未来社会を描いている。


 人類の発展と持続可能性を両立させながら、より豊かなコミュニケーションの世界を築く挑戦を、パビリオンの体験を通じて訴求している。


(カワブチカズキ)



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