久保建英の才能を引き出したソシエダ指揮官の「仕組み」 退任発表は来季の去就に影響か

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2025年04月25日 18:10  webスポルティーバ

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 久保建英が最も恩恵を受けた監督は誰か?

 それは間違いなく、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督だろう。

 アルグアシル監督は、選手のマイナス面よりもプラス面を見ることができる異能を持っている。アジア人だからといって、不必要なフィルターもない。選手の特徴や性格を見抜き、俊敏で技術が高く、コンビネーションに優れる久保を適応させた。ボールを大事に、相手陣内に運ぶためのプレーモデルを築き上げて運用。やるべきことが整理されているから、選手も迷いがないのだ。

 4月24日、アラベスに敗れたあとだった。そのアルグアシルが、ラ・レアルの監督を今シーズン限りで退任することを発表した。

 久保の成功は、「アルグアシルの仕組みのなかに迎えられたから」と説明できる。

 2018−19シーズンからスペイン、ラ・リーガのマジョルカでプレーすることになった久保は、当時18歳で、1年目から"優秀新人賞"に値する活躍だった。大袈裟でなく、現地ファンの度肝を抜いた。結果、ラ・リーガで上位のビジャレアルに移籍することになった。

 しかし、ビジャレアルでは戦術的に選手を強く縛るウナイ・エメリ監督とソリが合わなかった。そしてシーズン中にヘタフェに移籍するも、再びホセ・ボルダラス監督のフィジカル色の強い守備的サッカーに辟易した。翌シーズンはマジョルカに戻ったが、最後はハビエル・アギーレの戦闘色の強いサッカーと合わずに失速している。

 少なくとも、当時の久保は「仕組み」を必要としていた。

 アルグアシル監督は、ラ・レアルでダビド・シルバというレフティの天才を中心にした"左利き天国"を作り出していた。単純に左利きは右利きより数が少なく、意外性を持っているし、彼らにしかないリズムがある。その特性を徹底的に絞り出し、他にもミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、アレクサンダー・セルロートなどスタメンの半数以上が左利きだった。

 久保の変身は、ダビド・シルバに触発されたことが大きいが、それもアルグアシルの「仕組み」のおかげだった。

【本人も自覚していた「サイクルの終焉」】

 アルグアシル監督は、ラ・レアルにとっての"中興の祖"とも言える成果を挙げてきた。現役時代はラ・レアルの右サイドバックとして活躍した後、チームのテクニカルスタッフとして働き、下部組織スビエタの中心人物で、Bチームである通称「サンセ」を率いていた。降格の危機にあったチームを救ったあと、翌シーズンも再び降格圏から救い、そのあとはトップでの監督を続けてきた。

「根っからの育成畑の人物で、本当はトップをやりたいわけではない」

 クラブ関係者はそう言っていたが、監督の資質に恵まれていたのだろう。ラ・レアルで5シーズン連続の欧州カップ戦出場という安定した戦いは、過去のどの監督もできなかった。2020年には34年ぶりのタイトル、スペイン国王杯優勝も飾っている。

 今回、契約更新オファーはあっただけに、アルグアシルがサインをすることはできた。しかし、本人が「サイクルの終焉」を一番自覚していた。アレックス・ファーガソンやディエゴ・シメオネのような特例もあるが、たいていは5シーズンも指揮をとれば、どんな名将もアップデートに苦しみ、"仕組みの焦げつき"を感じるものだ。そして周りからの圧力は、自らの心奥深くまで蝕むのだ。

 日本でも、久保がベンチになったり、早々と交代させられたりするたび、ネットでは監督への罵詈雑言が飛び交った。それを面白おかしく報じるようなメディアまであった。そんな瑣末なことが指揮官本人の耳に届いていたはずはないが、それらの悪意や憎しみは実体のない噂のように漂って、呪いとして監督に覆いかぶさるという。

 第32節のビジャレアル戦、ラ・レアルの戦いは明らかに行き詰まっていた。ケガ人が多かったことはあるだろうが、後半からは5−4−1にして自陣まで引き、能動的なサッカーを捨てた。この試合は2−2で引き分け、貴重な勝ち点1を得たが、その代償は大きかった。サッカーの仕組みで、姿勢で、背を向けた。

 アラベスに負けたあとの辞任のアナウンスだが、すでに命運は尽きていたのである。そのなかで、自ら退任を決めたアルグアシルの潔さを、日本人も讃えるべきだろう。

 久保という日本の至宝が、アルグアシルの仕組みのおかげで、その才能を引き出された。それは控えめに言っても、運命的だった。久保はピッチに立ち続けることで、逞しい戦いを見せるようになった。おかげで「体が小さくて非力」「守備ができない」などと適当なことを言う人は少なくなった。本人も自信をみなぎらせ、その強気が有り余って、周囲がたしなめるほどになった。

 これから、久保の将来はいかに、という話になるだろう。移籍をするなら、アルグアシルの「仕組み」に近いチームであることはベターだろう。たとえば、ラ・レアルにいたミケル・アルテタのアーセナル、同じく、今季末でレバークーゼンを退団すると言われるシャビ・アロンソが率いるチーム。ラ・レアル残留の可能性もあるが、今後についてはシーズン終わりの動向を見守るべきだ。

 残り5試合で、ラ・レアルは6シーズン連続の欧州カップ戦出場を狙う。それがアルグアシルの最後の仕事となる。

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