麦茶色の尿、緑に染まるオムツ「気にしすぎ」と笑われても母は諦めず 突き止めた息子の病は「アルポート症候群」 広げたSNSの輪が患者会設立へ

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2025年04月26日 07:10  まいどなニュース

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幼少期の息子さん

「まるで、パズルのピースをひとつずつはめてきたような“これまで”でした」

【写真】体調不良時に出ていた麦茶色の尿 本物の麦茶と比較してみると…

そう話すのはアルポート症候群の息子さんを持つ、アルポート児ははさん(@Alport_202206)。ネットにもアルポート症候群の情報がたった3ページしかなかった十数年前、アルポート児ははさんは我が子の病名を突き止めるため、泣きながら奔走した。

生後2週間で我が子がRSウイルスに感染して…

慢性腎炎や難聴、白内障などの症状が見られる「アルポート症候群」は女性より男性が重症になりやすい指定難病。日本では、1200人ほどの患者がいると言われている。

アルポート症候群は家族に腎炎の患者がいる場合に発症するケースが多い遺伝性疾患だが、約10%の患者は腎炎の家族がいなくても遺伝子の突然変異によって孤発するそう。

現代の医学では根治が難しく、患者の中には末期の腎不全となり、透析や腎臓移植などが必要な人もいる。

アルポート児ははさんは、13年前に息子さんを出産。生後2週目、息子さんはRSウイルスに感染し、入院。入院中に肺炎球菌にも感染し、発熱した。

その際、尿培養検査をしたところ、MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出されたそう。MRSAとは、抗生剤が効きにくくなった黄色ブドウ球菌(健康なヒトの常在菌)。息子さんはMRSAが尿道に付着したようで、退院後も定期的に尿検査を受けることとなった。

情報を必死に集めて「アルポート症候群」と確定診断された

生後2カ月頃、息子さんのMRSAは自然に消えた。だが、一度保菌したことから次の発熱時には尿検査をすることに。

息子さんが再び発熱したのは、生後9カ月の頃だ。尿検査をすると、肉眼では見えない尿潜血(※尿に血が混じっている状態)と尿たんぱく(※尿に基準値以上のたんぱく質が排出されている状態)が偶然、見つかった。医師は、急性腎炎と診断。毎月、尿検査をしながら経過観察をしたが、症状は変わらなかった。

息子さんが1歳半になった頃、医師は「IgA腎症(※免疫の異常で起きる腎臓病)」を疑い、腎生検(腎臓の組織の一部を採取する検査)を提案。治ると思っていたアルポート児ははさんは、絶望した。

当時、息子さんは体調不良時に麦茶色や緑色の尿が出ていた。オムツ交換のたびに心を締め付けられ、家族に相談したが、事の深刻さは分かってもらえず。「気にしなきゃ治る」や「あなたが神経質だからそうなる」という言葉を受け、心はさらに傷ついた。

だが、アルポート児ははさんは強い。泣きながらもネットや図書館、書店で息子さんのためになりそうな情報を収集。その中で目に止まったのが、IgAの名医が書籍の片隅に記したアルポート症候群の情報だった。

すぐに連絡をしたところ、現在の主治医である小児医療センターの医師と繋がることができ、遺伝子解析を経てアルポート症候群であると診断された。

「結果的に息子は孤発でしたが、遺伝子解析の結果が出るまでの2カ月間は気が狂いそうでした。もし、自分が保因者だったら…と思うと申し訳なくて。遺伝子カウンセラーさんが心を支えてくれてありがたかった」

補聴器の助成や就労問題…アルポート症候群患者が悩む「日常での困難」

その後、息子さんは服薬をしながら腎機能を保持。現在は、何の制限もなく、健康な人と全く同じ日常生活を送っている。

ただ、この治療薬は脱水を引き起こしやすいため、水分は1日に1.5ℓ〜2ℓほど摂取。難聴は8歳の頃から緩やかに進行しており、現在の平均聴力は中等度難聴に相当する40dBだ。

「息子の場合は人の声の音域だけが聞こえにくく、補聴器が必要です。でも、軽度・中等度の難聴児に対する補聴器の助成制度は十分とは言いがたくて…」

実は、難聴者が障害者手帳を取得するには70㏈の壁がある。障害手帳を持てない難聴者は、福祉からこぼれ落ちているのだ。

なお、アルポート児ははさんの居住区では18歳未満の場合には補聴器の購入時に3分の2を補助してもらえるが、基準額があり、息子さんに合う機能の補聴器を選ぶことは難しかった。

「成人は自費なので、経済的に補聴器の購入が難しい当事者もいると聞きます」

当事者ならではの苦悩は、他にもある。息子さんは片道2時間半かけて専門医がいる病院へ通院しなければならず、交通費だけで年間10万円以上の負担がのしかかっているのだ。

加えて、アルポート児ははさんは就労の問題に苦しんできた。障害児や難病児の親は我が子の通院などで会社を休まざるを得ない時があるが、企業側の理解を得るのが難しい。アルポート児ははさんも入社前に息子さんの病気のことは伝えていたが、実際に働き出すと休暇後に職場の人たちから冷たい言葉を言われることもあった。

「我が子に障害があるお母さんは、みんな似たような状況なのだろうと思います。自分の人生も考えるし、治療費のために働かなければならないけれど、働きたい気持ちを優しく受け入れてもらうのが、今の社会では難しいことが多いです」

なお、アルポート症候群は孤発するという情報が見落とされやすく、生まれた子がアルポート症候群であると、母親は家族や身内から差別的な発言をされることもあるという。

「遺伝子疾患への偏見や差別をなくすには当事者が持病を正しく理解し、多くの人にこの病気について知ってもらう必要があります。病気は誰のせいでも、誰かのせいでもない。当事者が病気を隠す必要のない社会になってほしいです」

願い続けた「アルポート症候群の患者会」の設立が実現

ただ、アルポート症候群を取り巻く現状は今、大きく変わろうとしている。2025年3月に熊本大学が当事者や臨床医、研究者、製薬企業が参加できる「遺伝性腎臓病(アルポート症候群)国際ワークショップ」を開催したことを機に、患者会が設立されることになったのだ。

そこには、アルポート児ははさんの努力も大きく関係している。実はアルポート児ははさん、SNSで当事者や親御さんに声をかけ、LINEのオープンチャット「アルポート症候群の会」のメンバーを増やしてきた。

それは、医師や研究者と繋がりたいと切に願い続けた“あの頃の自分”のような人たちの力になりたいと思ったからだ。

そうした強い想いが詰まっていたからだろう。「アルポート症候群の会」は神戸大学の医師や熊本大学の研究者のバックアップのもと、日本の患者会の中心になっていくことが決まった。

日本は先進国の中で唯一、アルポート症候群の患者会がない国であったため、当事者にとってこの一歩は非常に大きい。

また、アルポート児ははさんは、軽度・中等度難聴児が聾学校で通級支援を受けられることを知ってほしいと思っている。現に息子さんは聾学校で通級支援を受けながら、大学の研究者や補聴器メーカーの軽度・中等度難聴時の補聴器装用に関する研究に協力しているという。

「日本ではアルポート症候群の人たちの生活に関する情報が、ほとんどない。でも、そういう情報こそが当事者が人生を送る上で重要になってくると思うんです」

今後、願うのは腎臓病と耳の医師・研究者が連携することでアルポート症候群患者の未来が、より明るく快適になることだ。

「我が子に障害がある可能性は誰にだってある。私は、そういう人たちを支えられる仕組みを考えてこそ社会だと思う。多数派の意見が尊重される世の中ですが、もう少しだけ弱き者に寄り添った社会であってほしい」

たくさんの想いを乗せ、設立されるアルポート症候群の患者会。そこに集まる、届かなかった叫びの受け止め方を考えていきたい。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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  • だから児相は親と子供との面会謝絶。子供の様子にすぐ気付き、他人には親の虐待の後遺症といえば、精神薬の副作用も納得される。
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