半身麻痺の夫を失った医師が語る、後悔しない“看取り”とひとり老後を“前向き”に生きるための3か条

0

2025年04月26日 09:10  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

医師・エッセイストの川村隆枝さん

 76歳になった現在も、岩手県滝沢市にある介護老人保健施設「老健たきざわ」の施設長として、また内科医、麻酔科医としても活躍する川村隆枝さん。

 医師としての豊富な経験と明るくおおらかな人柄は、現場に欠かせない存在としてスタッフにも、また入所者にも慕われている。日々笑顔で働く川村さんだが、ここ10年のうちに島根の実家に住む父と母、そして45年連れ添い介護中だった夫を亡くした。どのようにして悲しみや後悔の日々を乗り越えてきたのか、話を聞いた。

5年間介護した夫との突然の別れ

「亡くなる前夜に夫と電話でハワイ旅行の話をしていたんです。来年暖かくなったら行こうって。だからその後、夜中に入所していた介護施設から『亡くなった』と連絡がきたときは呆然としましたね」(川村さん、以下同)

 夫、圭一さんを亡くしたのは7年前。圭一さんも医師であり、同じ職場で勤務するなかで意気投合し結婚。その後、夫の故郷である岩手県へ移り住んだ。子宝には恵まれなかったものの、その分いつも一緒の仲良し夫婦だったという。

「同業ということもあり、何でも話せるパートナーでした。ただ、夫が66歳の’13年に脳梗塞で左半身麻痺となり、要介護5での介護生活がいきなり始まりました。夫の希望で当初は自宅介護をしていましたが、膀胱炎や肺炎などを起こして入退院を繰り返し、最終的に介護施設に入所しました」

 介護施設の手厚いサポート体制により生活リズムが整い、介護生活5年目を迎えて、ようやくお互いの体調や精神状態も安定してきた矢先の出来事だった。

「青天の霹靂でしたから、当時は介護施設に対して、“どうして異変に気づけなかったの?”と憤りを感じていました。でも今、介護施設の施設長をしているとわかるんです。夜間は人手が手薄になるから何かあっても気づきにくい。また、元気そうだった人が突然亡くなったり、反対に奇跡的な生還を果たされる人もいたり……。医学や人知の及ばない、命の不思議を感じる現場にも数多く出合ってきました」

 命について改めて考えたとき、一人ひとりの寿命はその人が生まれながらに持った運命ではないかという考えに思い至った。すると、夫の死も運命として徐々に受け入れられるようになったという。

笑顔で生きるのが夫への恩返し

 川村さんは夫の死を受け入れつつも、今なおさみしさや悲しみはあり、それがなくなることはないと語る。ただ、あるときから前を向いて生きていこうと決めた。

「亡き夫を思うとき、夫も空から同じように私のことを思ってくれているに違いないと思うようになりました。それなら、私が悲しんでいるより元気に過ごしていたほうが喜ぶだろうからいつまでも泣いてばかりじゃいけないと。ひとりになっても笑顔で楽しい生活を送ることが、夫への恩返しになると考えるようになったんです」

 残された人の心のケアが必要だと身をもって知った川村さんは、エッセイや講演会で家族亡きあとの悲しみの乗り越え方などについて、多くの人に伝える活動を始めた。

 講演会などでは「後悔しない看取り」について聞かれることも多いが、正解はないと言う。

「親への看取りに関しては、元気なうちからとにかく会いに行く回数を増やしてあげることだと思います。夫の看取りは、できるだけ一緒に過ごす時間を確保すること。入院などされている場合、毎日病院や施設に通うのは大変ですが、それでもあの時こうしてあげていれば……という後悔は減らせます」

孤立は避けて孤独を楽しむ!

 川村さんは孤独を楽しむことを“楽独”と呼び、ひとりの生活を謳歌している。

「孤立は人や世間とのつながりを断っている状態で、孤独死を招くおそれがあります。一方で楽独は、信頼できる友人、趣味や仕事仲間などがいる状態で、自分のためのごはん作りやひとり時間などを目いっぱい楽しむこと。ただ、ひとりになってから急に社会と関わりを持とうとしてもむずかしいので、家族がいるうちから楽独の準備を始めるのがおすすめです」

 趣味のサークルやボランティア活動は共通の目的があるので、気の合う友人がつくりやすいそう。また、専業主婦の人は夫亡きあと年金のみで暮らしていくのは心もとないというのもあり、週に1、2日のパートやアルバイトなどを夫がいるうちから始めておくのがおすすめと川村さん。給料をもらいながら、社会とのつながりを保てるので、いざというときに心の支えになるのだという。

「働いていると、少なくともその間は悲しんでいる暇はありませんから。とにかく、身近な人を亡くした直後は、ご友人と会うことでも趣味でも何でもいいので外に出て、忙しくすることが悲しみを乗り越える近道だと思います」

 また、楽独を楽しむためには身体が資本。医師である川村さんのモットーは「快眠・快食・快便」とシンプルだ。

「睡眠時間は5〜6時間はとるようにしています。さみしくて眠れないときに友人にすすめられて韓国ドラマを見始めたのですが、すっかりハマって今ではドラマを見ながら寝落ちしています(笑)。どうしても眠れないときは、かかりつけ医や薬剤師に相談しながら睡眠薬に頼っても。私も父が亡くなったときは不眠症になり、一時的に服用していました」

 快食と快便のためには、自炊をしつつ、ちょっとした心がけを続けるのが大事。

「“腹八分目”と“寝る4時間前までに食べ終わること”を実践しています。すると、体内のサイクルが整いやすく、毎日3食きちんと食べる習慣が身につき、身体の調子もよくなります。快便のためには、ヨーグルトや牛乳、サプリなどから乳酸菌をとるように。腸内環境の改善が全身の健康につながりますから」

遺品はお守り、ムリして捨てない

 川村さんは死後を見据えた終活や断捨離はしないと決めている。

「今や、人生100年時代です。60代や70代で大切なものを捨てるのは早すぎます。私は終活なんて考えたことないし、片づけはしても断捨離はしません。特に遺品は思い出があるので残しています。夫のTシャツはパジャマにしています。着ていると一緒にいるようで、お守りみたいなものですね」

 最後に、川村さんから読者へ来たるべき悲しみを迎えたときに、心に留めておきたいエールを聞いてみると……。

「最愛の人との別れはとても悲しくて苦しい出来事ですが、これだけは言えると思うのです。この広い世界で愛する人に出会い、精いっぱい愛して愛された幸せは何ものにも代えがたい宝物です。この世ではもう会えないけれど、心の中に思っていればいつでも問いかけることができます。

 つまり、いつも一緒にいることができるのです。自分がつらいときや悲しいときはきっと『がんばれ!』と言ってくれているでしょう。だから元気を出して、楽しいことを見つけて、前を向いて生きていきましょう。自分の幸せが、故人に対する何よりの供養だと思います」

ひとり老後を前向きに生きるための3か条

1. 悲しむよりも感謝。孤立せず、孤独を楽しむ。
2. 泣いている暇をつくらない。なんでもいいので忙しくする。
3. 健康な身体、安定した収入を今のうちから意識する。

<取材・文/佐藤晶子>

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定