限定公開( 2 )
穏やかな七尾湾と能登島を望む北陸有数の温泉地、石川県七尾市の和倉温泉で4月12日、温泉旅館「金波荘(きんぱそう)」が名前を変え、リニューアルオープンした。「TAOYA和倉」(101室)だ。
「何としても今年中に再開したかった。それが和倉温泉の復興になる」
1年4カ月ぶりの宿泊客らを迎えた竹内一雄支配人は、ほっとした表情を見せた。
温泉街は、群馬県草津町の草津温泉を手本に復興への第一歩を踏み出した。
地震で21億円の損失
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温泉街にはこれまで毎年、80万〜90万人ほどの観光客が訪れていた。
それが、2020年に始まった新型コロナウイルス禍の影響をまともに受けた。
市によると、21年の観光客は約36万人にまで減ったという。新型コロナ禍の時、客室の稼働率は平均5割を切っていた。
金波荘などの宿泊施設は国や県の支援策を活用するなどして、この苦境を何とか乗り切ろうとしていた。
23年の観光客は約62万人に回復していた。その直後の24年元日、市内では最大で震度6強の揺れを観測した地震に襲われた。
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金波荘を含めて21カ所ある宿泊施設全てが被災した。新型コロナ禍による痛手に追い打ちを掛けるように、休業を迫られた。
この年の1〜3月にあった予約件数およそ8万人分は、全てキャンセルに。経済損失は約21億円に上った。
「コロナ禍以上の打撃だった」
和倉温泉旅館協同組合の宮西直樹事務局長はそう振り返る。
金波荘では建物が傾くなどし、七尾湾に面する自慢の露天風呂は護岸が崩れ、海に沈んだ。
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災害をチャンスに
運営会社では、閉鎖の選択肢も話題になった。
「地震の被害はすさまじかった。本当に再開できるのか……」
竹内支配人も、先行きが見通せなかった。
金波荘の運営会社は24年4月、東京・中央区に本社を置き、温泉旅館「TAOYA」を展開する「大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ」と経営統合することになった。
竹内支配人は、運営会社の社員らと今後の方向性について検討を重ねた。その結果、金波荘は「TAOYA」に装いを変えることが決まった。
本格的な復旧工事が始まったのは、地震から半年余りがたった昨夏から。3棟あった客室棟のうち1棟は解体せざるを得なかったが、2棟を修復した。
工事が進み、温泉街では災害をチャンスに捉える動きが出ている。
地震の前は宿泊客は貸し切りバスで訪れる団体ツアーが多く、観光が旅館で過ごすだけにとどまり、街全体の活性化につながっていなかった。
そこで、旅館協同組合が注目したのが、日本三名泉の一つとされる草津温泉だ。
草津では街歩きの魅力を打ち出し、24年度に約400万人と過去最高の観光客数を記録した。
宮西事務局長は、新たな和倉温泉の姿を示すことが重要だと感じている。
「温泉街を楽しみたいという観光客のニーズを意識し、街全体で満足度向上に取り組むべきだ」
回遊性をいかに高めるか
地震後に旅館の若手経営者らがまとめた復興プランでは、宿泊客が温泉街の見どころを見て回る「回遊性」を高めることを、取り組むべきテーマの一つに掲げた。
その中で、旅館によっては個人客にも来てもらおうと個人客向けのサービスを手厚くしたり、夕食の提供はせず、街中の飲食店の利用を促すプランを設けたりするなど、温泉街全体の底上げを狙っている。
5月の大型連休を控え、温泉街にはまだ工事関係者らの姿が多いが、少しずつ観光客も戻り始めている。
4月23日の時点で観光客向けの営業を再開できた宿泊施設は、21カ所のうち5カ所。TAOYA和倉など全面営業にこぎ着けた宿もあるが、修復工事をしながら営業している所もある。
宮西事務局長は意気込みを見せる。
「にぎわいをつくれれば、街づくりの後押しになる。連休に観光客を呼び込み、復興につなげたい」
TAOYA和倉は再開後、客足が戻り慌ただしい日々が続く。連休中の予約はほぼ満室だという。【島袋太輔】
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