Kindle売れ筋ランキング1位 漫画『VTuber草村しげみ』配信者とリスナーの理想的な関係とVTuberのリアルな魅力

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2025年04月26日 13:00  リアルサウンド

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『VTuber草村しげみ〜遠くに行ってしまった気がした推しが全然遠くに行ってくれない話〜』(スクウェア・エニックス)

 「ガンガンpixiv」等で配信中のラブコメ漫画『VTuber草村しげみ〜遠くに行ってしまった気がした推しが全然遠くに行ってくれない話〜』(さかめがね)の第1巻が4月22日に発売され、AmazonのKindle売れ筋ランキングで1位になるなど話題を呼んでいる。


参考:【漫画】厳格な父の形見が“萌え系VTuberのアカウント”だったら……SNSで話題の創作漫画が笑えて泣ける


『VTuber草村しげみ』は「次にくるマンガ大賞 2024」のWebマンガ部門3位を受賞した注目作。配信チャンネルの登録者数が130万人を超える人気VTuber「草村しげみ」と、その最古参ファンである「ナナシノ」の“推し合い”が微笑ましく、殺伐としがちな側面もある配信カルチャーのひとつの理想像と言えるような、平和な内容が魅力的だ。同時に、現実のシーンと重ねてリアリティを感じる描写が多いのも、読者を惹きつける要因だろう。リアルとバーチャルを行き来する「VTuber」というモチーフをうまく使い、現代的なコミュニケーションや推し文化の捻れた面白さを伝えている。


◼︎VTuber草村しげみの“リアル”な魅力


 草村しげみはネットを超えて雑誌やテレビに登場することも珍しくなく、ライブをすれば会場は即満員、配信を始めれば同時視聴者数は1万人を超えるというトップVTuberだ。


 もともと歌が上手だったわけでも、配信映えする高いゲームスキルを持っていたわけでもない。そんな彼女の人気ぶりに説得力があるのは、推したくなる「人間性」がきちんと感じられるからだ。VTuber界隈で「中の人(魂)」の話をするのは基本的に重大なマナー違反だが、いくらビジュアルや声が魅力的でも“中身”がともなっていなければ人は集まらない。その意味で、草村しげみにはVTuberとしての「設定」に収まらない純粋さと妄想力があり、他のリスナーそっちのけで最古参ファンのナナシノに執着し続ける自由さがいい味を出していて、多くの人を惹きつけるに足る人間的な面白さがあるのだ。


 VTuberには他の惑星から来たお姫様もいれば、悪魔や吸血鬼もいる。この文化に親しんでいない人は、彼らの活動はそれぞれのキャラクター設定に則ったロールプレイであり、俳優がある役柄を演じるように、人間性はさほど関係ないのではないかーーと思うかもしれない。しかし、VTuberが主戦場にしているのは時に長時間に及ぶ日々のライブ配信だ。毎日のように何時間もリスナーと触れ合い、配信中の寝落ちも珍しくないような状況で、「演技」を貫徹するのは至難の業。アニメのキャラクターのように厳密にブランディングされているように見えて、実は生身の人間性が人気につながっている面は大きく、一見際立った取り柄がなさそうな草村しげみが多くのリスナーに愛されていることは、現実に置き換えてもリアリティがある。


 本作が「ニコニコ漫画」で配信された際のコメントは、「作品」に対する感想というより「草村しげみの配信」を盛り上げようとする内容のものが目立ち、実在するVTuberのファンになった気分で楽しんでいる読者も多いようだ。こういう遊びが成立するのは、現実とバーチャルを横断するVTuberというモチーフの強みかもしれない。


◼︎オタクの鑑? 最古参ファン・ナナシノのスタンス


 さて、そんなトップVTuberの草村しげみから熱烈な愛を向けられているのが、視聴者が彼一人しかいない「同接1」の時代から応援してきた最古参ファン・ナナシノだ。


 しげみの魅力に世間が気づいたことによろこびを感じながら、「遠くに行ってしまった」と一抹の寂しさも覚える日々。面白いのは、彼が「勘違いファンにだけはならんようにしないと」と自制し、自分のコメントに歓喜するしげみを「視聴者個人を構うのはよくないんじゃない?」と諌めるなど、各方面に配慮しながら熱心な応援を続けていることだ。


 ファンは推しに認知されたいし、認知されればより特別な関係になりたいと思うものだが、ナナシノは常に適切な距離感を取ろうと考えており、他の視聴者から疎まれるどころか、しげみの配信を盛り上げる重要なピースとして尊重されている。


 実際の配信界隈でも“名物リスナー”は存在するが、VTuberがビジュアルだけで人気を広げることがないように、スーパーチャットの金額だけでその地位を獲得できるわけではない。やはりコメントから透けて見える人間性や発想の面白さが重要で、ナナシノの場合、何気ないコメントから醸し出される「配慮」や「純粋な応援」の感情が、特別扱いに嫉妬を生まない要因にもなっている。


◼︎二人の関係を見守るリスナーたち=読者の存在


 本作は草村しげみとナナシノという、お互いに本当に顔も知らないネットの付き合いでありながら、人間味を感じる二人が主役だが、見逃せないのはPCモニターに流れるコメントとして登場する、名もなきリスナーたちの存在だ。


 上述の通り、しげみの関心を独占するナナシノに悪感情を持つリスナーは目立たず、むしろ二人にもっと関係性を深めてほしいと考える「ナナ草くっつけ派」も存在するほど。これはそのまま読者が抱く感覚で、共感を生む仕掛けになっている。


 VTuberとリスナーという捻れた関係の恋はどこへ向かうのか。いち読者&リスナーとして、物語の続きを楽しみにしたい。


(文=橋川良寛)



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