天井が抜け落ちてしまった現場 特殊清掃業務をしていると、“一歩間違えたら死んでいただろうな”と思ってしまうような体験をすることがあるという。
「ゴミ屋敷の床に包丁やノコギリ、カッター、注射器などの刃物が落ちていて怪我をしたこともありますし、作業中に天井が落ちてきて“走馬灯”が見えたこともあります」
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに死にかけた現場について詳しい話を聞いた。
◆天井が抜けてしまって1階に落下
築年数が古い家屋だと、思わぬ危険が待ち構えていることがある。
「ゴミ屋敷での特殊清掃業務で危険な現場がありました。築年数の古い一軒家で、2階の寝室で結構ひどい状態で亡くなられていて。体液が広がってしまっており、床を解体して清掃しなきゃ匂いが取れなかったんです」
床は全て取り外され、匂いは完璧に取れたが、根太(ねだ)という足場だけの状態になっていたという。
「最悪足を踏み外しても下に1階の天井部分があるので、落ちないから大丈夫だろうなと、高を括っていました。防護服を着ているので視界は悪かったのですが、根太の上をすいすい歩きながら進んでいったら足を踏み外してしまい、天井部分に思いっきり踏み込んでしまったんです」
どうやら天井が劣化していたようで踏み抜いてしまい、鈴木さんはそのまま1階へ落下してしまった。
◆大怪我を覚悟
「これは大怪我するぞ、と覚悟を決めたのですが、幸いなことに落ちたところにたまたまソファーがあったんです。かなり良い素材のソファーで『ぽよん』と上手く座ったような形で着地できました。一歩間違えていたら頭を打ったり骨折したりして大惨事になっていたと思います」
鈴木さんが少し仕事に慣れてきた頃で、現場の危険性を軽視していた部分があったという。
「怪我がなかったからよかったですが、もし鋭い尖ったものの上に落下していたら大変なことになっていたと思います。僕はそのころ体重が86キロくらいあったんですが、なぜか落ちても床は抜けないと思ってしまっていました」
結果、踏み抜いた部分は別の内装業者を呼んで直してもらったが、その修理費は赤字になってしまった。
「当時は過失に対応する保険に入っていなかったんですよね。でもその事件があってから色々保険を調べたり見直したりするようになりました。依頼主にも何を言われるかとひやひやしたんですが、きちんと元通りになればいいですよと言ってもらえて、穏便に済ませていただきました」
◆ゴミ屋敷の床に危険な刃物が散乱
古い家屋以外にも危険なゴミ屋敷はまだまだある。
「一見普通のゴミ屋敷という感じの部屋なんですけど、積み上がっているゴミ袋とかをどかすと家の中なのに料理包丁やノコギリ、チェーンソーや割れたガラス片などが雑に落ちていました。住人はDIYが好きな方らしく、色々な日曜大工道具がありました。でも全然うまく片付けられていません。亡くなられた方は糖尿病を患っていたらしくインシュリンの注射器なんかも落ちていて掃除をすればするほど刃物などが顔を出すような現場でした。ゴミを片付けている間にいつ刃物が飛び出してくるかわからない状況でしたね」
防護服は薄手なため、少し刃物が触れただけでも切れてしまう。
「しゃがんで作業している状態の時、足元に刃が飛び出たカッターが落ちていて、足を切ってしまいました。特殊清掃現場は衛生環境的に病原菌がうようよしてることも多く、ちょっとした傷口から菌がはいって破傷風になったりするので気をつけなきゃいけないんです」
◆多数の猫が一斉に襲ってきて…
実際、破傷風ではなかったが傷口から菌が入り高熱が出たことはあったようだ。
「猫を多頭飼いしている家の清掃を頼まれたことがありました。依頼主は猫の飼い主で、ご自身は猫がいる家とは違う家に住んでいる方でした。1日に一回餌をあげにくるらしいですが、清掃が手に負えなくなったので、全て片付けてくれとのことでした」
中に入ると猫が50匹くらいいて、清掃員たちを敵視しはじめたようだ。
「床一面が猫の糞で埋め尽くされていて、防護マスクをしていても臭いがひどく吐きそうになりました。他の従業員も耐えられないといって外に出て行ってしまう始末です。清掃を始めると、猫たちにシャーと威嚇をされたのですが、気にせず掃除をしていたところ同時に何匹も飛びかかってきました。危害を加えられるのを恐れたのか、俺たちの縄張りを荒らすなってことなのか。噛みつかれて引っ掻かれて血が出てもう仕事にならなかったです」
このままでは仕事にならないと、依頼主に連絡をして猫を全てゲージにいれて外に出してくれとお願いしたようだ。
「薬品を撒いたりするので猫の健康にも悪いと思いますし、なんとか説得しました。当初は1週間を見込んでいた作業ですが、予想以上に大変で、これは3週間くらいかかるぞって。掃除は後日に行うということになりました。しかし次の日、僕を含めた猫に襲われたスタッフが体調不良を起こしました。僕も熱をだしてしまって。病院に行ったら破傷風ではなかったのですが、何か菌が体に入ってしまったんだと思います」
◆「“走馬灯”が見えた」出来事
さらに本当に死を覚悟し、走馬灯が見えた現場もあった。
「火災現場の清掃だったんですが、全焼じゃないから解体せずに掃除だけしてまた住めるようにしたいとの依頼でした。ススだらけなので研磨をかけたりして綺麗にしていくんですけど、家全体に振動を与えてしまったんです。
すると、天井がドーンって落ちてきました。ほんとに天井が落ちてくる間、時間がものすごくゆっくりに感じて、昔の懐かしい記憶が頭の中にぐるぐる回りはじめたんです。本当に走馬灯のように見えるんだって驚きました。でも自分の頭スレスレで運良く天井が止まりました。あのまま頭に激突してたら死んでただろうなって。その家は、このまま住むのは危なすぎるので、依頼主には解体をすすめました」
特殊清掃の仕事は常に危険と隣り合わせだ。
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦