●この記事のポイント
・イオンのネット専用スーパー、配達員がメーカー試供品を“お客さまに手渡し”するサービス提供
・お客さまの反応を分析してメーカーにデータなどを報告し、収益を得るビジネスモデル
・精緻な費用対効果分析、購買行動などのデータ分析が可能
イオンは23年7月からネット専用スーパー「Green Beans」を展開している。ECで注文を受け、千葉県の大型物流拠点である顧客フルフィルメントセンターから首都圏に配送するサービスだ。そんなGreen Beansでは昨年6月からGreen Beansでご注文頂いたお客さまに注文品をお届けする際に配達員(デリバリークルー)がメーカー試供品を“お客さまに手渡し”し、商品を認知・体験してもらうサンプリングサービスを開始した。これまでのECにおける代表的な広告サービスは、EC広告に出稿するメーカーが商品検索結果に自社商品を入札などで上位表示させる商品検索広告(“デジタルシェルフ=EC棚取り”)などが一般的だが、なぜアナログな試供品手渡しの広告サービスを始めたのだろうか。試供品を受け取ったお客さまの反応を分析してメーカー(広告主)に試供品体験アンケート、試供品受取り後の試供品実購買データなどを報告し、商品を売り込みたいメーカーから収益を得るビジネスモデルだという。Green Beansを運営するイオンネクスト株式会社のメディアビジネス推進 担当部長、藤田泰寛氏に取材し、試供品を手渡しするサンプリングサービスについて聞いた。
●目次
国内のネットスーパーは2010年代から普及し始め、現在は発展期にある。ネットスーパーはスマホやPCで商品を注文、配達員が届けるサービスであり、商品構成は主に食品スーパーと同じだが、Green Beansは食品から日用品、ベビー、医薬品など30,000品目以上の豊富な品揃えによるワンストップショッピングが可能だ。イオンは以前より各店舗から発送する店舗発送型のネットスーパーを展開してきた。Green Beansでは現在、東京23区と千葉・神奈川県の一部を対象に商品を配送する。お届けまで途切れないコールドチェーンによって、野菜や肉、魚の鮮度を1週間保証する「鮮度+」を展開している。朝7時から夜23時まで1時間単位で配送時間を選べるのも会員数が拡大している理由でもある。
Green Beansでは昨年6月より試供品を手渡しする「サンプリング」を開始した。配達時に、注文した商品と併せて試供品を提供する。広告業の一環であり、顧客の反応を分析して広告主にデータを報告する。商品を売り込みたいメーカーから収益を得るビジネスモデルだ。
|
|
「試供品の手渡し完了個数に応じて、広告主であるメーカー様から収益を得るビジネスモデルです。メーカーからはまとまった数の試供品を提供してもらい、概ね1週間以内で配り終えます。なお、ご注文頂いたお客さまに試供品を手渡しするのは同時に複数の試供品をお渡しせず1度に1個の試供品のみをお渡しします」(藤田氏)
メーカー側は認知度の向上を目的としており、新商品の発売やテレビCMの放映等に合わせてサンプリングを依頼することがあるという。使ったことがない商品を買うのは消費者にとって心理的ハードルが高い。商品価格と購買に至る心理的ハードルは比例する。サンプリングは商品体験をきっかけに消費者が商品を認知・体験し、評価と購買意欲醸成のきっかけ作りになるようだ。
代表的な試供品サンプリング手法には、商業施設内での配布のほか、街中で配る方法などがある。配達時のサンプリングでは個数が限られそうだが、メーカーにはどういったメリットがあるのだろうか。
「これまでサンプリングでは試供品を渡すだけでメーカー側は試供品受取り後の購買動向などを追跡することができません。これではサンプリングを実施するメーカー側はサンプリングに対する費用対効果を評価できません。試供品を受け取った人が、実際に購買につながったかなどの費用対効果分析、購買分析、試供品を受け取った人が誰なの?などマーケティングに必要な施策結果の評価ができません。一方で、弊社の『試供品手渡しサンプリング』ではそれらの課題全てを解決し精緻な費用対効果分析、購買行動などのデータ分析が可能です」(同)
Green Beansは注文から配送をエンドトゥエンドで対応している。つまり顧客ID単位で注文から配送までを管理している。試供品手渡しサンプリングはお客さま宅に配送する際に配送員(デイバリークルー)が手渡しで試供品を渡すため、顧客ID単位で誰に試供品を渡したのか、その後実購買に至ったのか顧客ID単位で分析が可能なのだ。顧客ID単位で誰が試供品をサンプリング後にGreen Beans内で同じ商品を注文したかどうか、つまり、試供品を気に入ったかどうか把握できる仕組みになっている。どの属性に商品が気に入られたか、メーカーが把握できるという訳だ。また、試供品にはQRコードが同封してあり、消費者はQRコードを通じて専用サイトに入り、試供品の評価を入力できる仕様となっている。入力された評価内容はメーカーに共有される。
|
|
つまり、手渡し自体はアナログだが、デジタルを活用した広告サービスなのである。サンプリング後にGreen Beans内での売上が5倍に伸びたり、レビュー数が増えたりする効果も見られたという。
余談だが、コストコで試供品提供を行う販売員は、その接客スキルが消費者の間で一定の評価を受けている。サンプリングは単に渡すだけでなく、一定の接客スキルも求められる。ドライバーの人手不足も謳われる昨今、物流と接客のスキルは両立できるのだろうか。
「配達はイオンネクストデリバリーが担っており、デリバリークルーは全員自社グループの社員です。ネットスーパーにおける顧客との唯一の接点は配達する瞬間なので、弊社では接客スキルも重視しています。デリバリークルーには『接客業』であることを認識してもらうよう、研修を行っております」(同)
業界全体でドライバー業務を行う女性比率はわずか2〜3%程度しかいないと言われるが、イオンネクストデリバリーでは配達員の10%強が女性だ。物流業に限らず、接客業経験者も採用している。全員が接客スキルを持っているため、サンプリングにも対応できると藤田氏は話す。
消費者が普段、購入しづらい高単価商品や、認知度の低い地方商品の依頼もあるという。
|
|
「冷凍食品を配れることも強みの一つです。冷凍食品は近年、需要が高まっており、市場が拡大しています。また、夏場に溶けやすくて配るのが大変なアイスやチョコレート類も、Green Beansのサンプリングでは対応できます」(同)
現在、サンプリングを行っているのは主に食品だが、Green Beansでは文房具やコスメ用品、トイレタリー商品なども販売している。非食品メーカーからの引き合いも多く、今後は食品以外のサンプリングにも注力する。
イオンはEC上での「デジタル棚取り」を含めたリテールメディア事業を成長させ、5年後までに年150億円稼ぐ事業とする目標を立てている。サンプリングも同事業の重要な収入源の一つであり、今後も規模を拡大する方針だ。Green Beansのエリア拡大も予定している。手渡し広告はネットスーパー界の新たな広告手段として定着するか、今後の動向に注目したい。
(文=山口伸/ライター)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 Business Journal All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。