
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが3月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第483話 最終戦闘(バトル)モードの洗礼!!の巻(3月3日更新分)
第484話 天に打ち上がる拳!!の巻(3月10日更新分)
第485話 真スクリュー・ドライバーが貫く先!!の巻(3月17日更新分)
第486話 倍プッシュの大博打‼の巻(3月31日更新分)
<あらすじ>
ソ連のパトムスキー・クレーターのウォーズマンvs時間超人五大刻(ごたいこく)・ぺシミマン。狼の部屋の所長の操作で、ウォーズマンがエクストリームバトルモードを発動。鋲(びょう)をまとった全身凶器となったウォーズマンにぺシミマンも苦戦するが、"ロボ超人"として生きてきたお互いの生き方を見つめ直し、語り合うように。しかし、決着の時は確実に近づく。
爪切男(以下、爪) この対談、先月の『キン肉マン』の連載を読んで語り合うというルールだから、2025年3月の、第483話から第486話までの話で終わるべきなんですが、今回は特別に第487話(4月7日更新、「ロボ超人たちのキボウ!?の巻」)まで入れていい、とのことです。
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燃え殻(以下、燃) ああ、それはありがたい! 第487話で、ウォーズマンとペシミマンの闘いの決着がついてしまったから。
爪 ウォーズマンが完全KOで敗れてしまった。クルシフィクション・ベア・クローなんていう、エグすぎる技まで出したのに。
燃 あれエグいよね。長く伸びた両手のベア・クローを、ペシミマンの後頭部に突き刺して、石のリングの床に叩きつける。
爪 現実のプロレスとか総合格闘技の試合だったら、「そこまでやる?」って、お客がドン引きするやつですよね。ウォーズマンが最初に出てきた時のキャラ設定を思い出すような。
燃 ああ、そうだね。最初は残虐超人だった。
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爪 そもそもはこういうことを平気でやるキャラクターだったから。で、今は、自分はそんなことしたくないんだけど、エクストリームバトルモードが発動しているから、やってしまう。やっぱり、そういう悲しさを背負ったキャラクターだなあと。強さを追求して生きてきたけど、今のこの強さは人に仕組まれたもので、自分の意志ではないという。
燃 ほんとにそうだよね。でも、前回も言ったけど、この全身鋲だらけのコスチュームって......40年前の読者からの投稿を忘れてなかった、っていうのも含めて、いかにも子供が考えそうじゃない? ウォーズマンをトゲトゲにしようっていうのは。で、どう考えても描きづらい、こんな全身トゲトゲなのは。
爪 中井先生は「えーっ!?」と思ったかもしれないですね(笑)。
燃 いや、思ったんじゃない? 描くの、大変すぎるもん。
爪 それに、正直言って、カッコよくないからなあ(笑)。
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燃 所長に設定されたモードだから、このセンスは所長なんだろうね。そこもウォーズマンに感情移入できるポイントだよね。仮面が外れたら機械の顔で、エクストリームバトルモードが発動したらこんな姿になって。ツラすぎる、ウォーズマンの人生。『キン肉マン』に出てくるキャラの中でも、いちばん悲哀がある。
爪 でもペシミマンは、そんなウォーズマンを全部受け止めているのがカッコいい。またペシミマンのことが好きになったな。なんか深読みしちゃいますよね。ペシミマンもロボ超人だから、ウォーズマンが好きでこの姿になったんじゃないという気持ちがわかるんだろうな、とか。
燃 うん。それで第484話では、ペシミマンが自分の全身をコーティングして、ウォーズマンが攻撃するたびに鋲(びょう)が折れていく。
爪 背中から体当りして背中の鋲を折られ、ハイキックしたら足の鋲も折られ。
燃 すごいシンプルな闘いだよね。ロボ超人同士の闘いで「トゲ!」対「硬い!」っていう。で、これまであんまりロボ超人っぽく見えなかったペシミマンが、コーティング完了してコートを脱ぎ捨てた画を見ると、すっごいロボ超人っぽくなったよね。
爪 そう、カッコいい。フィギュアがほしくなるような。
燃 「どんな色なんだろう?」って興味が湧くルックスになったよね。アニメに出てきた時、どうなるんだろう?
爪 ああ、そうか。88巻の表紙では、コーティング前の横顔の色しかわからないし。
燃 僕の中では、鉄人28号っぽい色が合うような気がするけど。青いのが似合いそう。
爪 そして第486話は、ウォーズマンのメッセージの回でしたよね。
燃 パロ・スペシャルをコーティングで固められながらも語るうちに、"ユウジョウ"パワーが急上昇して、遂にはペシミマンを"トモダチ"と呼ぶ。
爪 だから、ここでふたりはほぼわかり合えているのに、ペシミマンは「だったらその力で一緒に世界を壊してくれよ」と返す。このシーン、ペシミマンのほうがいじけた雰囲気に見えてきた(笑)。
燃 そうだね。
爪 で、ウォーズマンの全身のコーティングが完了して、あと一歩のところで動きを完全に止められてしまったコマ、これ、名シーンですよね。
燃 うん、これはスゴいと思った。パロ・スペシャル、画になるよねえ。
爪 中井先生の気合いを見た気がしました。
燃 確かに。あ、そうだ、ペシミマンもウォーズマンみたいに、覆面の下は機械の醜(みにく)い顔なのかな?
爪 そうか、ロボ超人同士ですもんね。
燃 そのあたりのことも、今後描かれるのかな。すでにいろいろな課題があるのに、また先生の仕事がひとつ増えた......。
爪 ペシミマン、第485話の独白で、いろいろわかったじゃないですか。他の五大刻とは違って、"刻の神"に忠誠を誓っているわけではないことや、「どうせなら気に入ったヤツのオモチャになって、この世の終わりを見届けてやる」という、自虐的な考えで動いていることが。
燃 うん。もしかしたら今後、"刻の神"を裏切って超人たちの側に付くかも、と思った。
爪 そうそう、仲間になるんじゃないかと期待しちゃいますね。
燃 いろいろな展開が予想できる超人になったよね、ペシミマンが。
爪 今後何かがないと、"トモダチ"とまで呼んだウォーズマンの気持ちがね。ベタだけど、どこかでペシミマンとウォーズマンのタッグを観れたらうれしいな、と思っちゃいます。
燃 ロボ超人同士のね。
爪 というのがあるとすれば、ウォーズマン、この試合が最後じゃないな、と思いました。
燃 あ、確かに。この試合でウォーズマンがどれだけダメージを受けたかというと、エクストリームバトルモードによる鎧(よろい)は全部剥がれたけど、元の身体は、ヘルメットのヒビ以外はキレイなままだしね。この試合が始まった時は、最後なんだろうなと思ったけど。ロボ超人タッグができるかもしれない。
爪 そういえば、SNSとかを見ると、「なぜウォーズマンを負けさせたんだ!」という声もいくつかあって、意外でした。
燃 あ、そうなんだ? だって負けるでしょ、これは。
爪 僕もそう思ったけど、超人側が2連敗、というのがイヤだ、というファンもいるんでしょうね。
燃 そうか。逆に、このあと時間超人に勝てるのは誰? というほうに興味が向くけどね。
爪 僕らの以前の予想では、キン肉マン&グレートとテリーマンは、勝ちか最悪引き分けじゃないかと。ウォーズマンは負けるだろう、じゃあネプチューンマンは......って考えた時、燃え殻さん、負けるって言ってましたよね。
燃 うん。
爪 確かに次、ネプチューンマンも負けたらすごいな。まさかの3連敗。そうするとパピヨンマン、2連勝なんだよな。
燃 ああ、ほんとだよね。
爪 余計、楽しみになりましたけどね。テリーマンの試合も楽しみだし。テリーマンの義足が新しくなってから、性格も明るくなったような。「オレは役立たずだ」とか言ってたのに。
燃 うん、テリーマンは勝ちそうだけど、ネプチューンマンは読めないなあ。
爪 負けてもいいから、せめてマスク超人であることがわかった、パピヨンマンの覆面を剥いでほしい。でも、負けたら剥げないか......。
燃 でも、ネプチューンマンといえば覆面狩りだから。このカードを組んだということは、何かあるんじゃないかな......あ! 覆面狩りをやってきたネプチューンマンのマスクが、パピヨンマンに狩られる、というのは?
爪 ああ! なるほど、完全敗北。
燃 パピヨンマン、二体になれるじゃない? クロス・ボンバーができるよね。それで、ネプチューンマンのマスクが狩られる。
爪 で、マスクを狩られた超人の悲しみを、ネプチューンマンが身を持って思い知る。
燃 というのが、この試合のテーマ。ということで、いかがでしょう?
爪 ありかも。というか、ここまできたら、テリーマンも負けていいような気がしてきた。
燃 ああ、なるほどね(笑)。
爪 勝ち残ったのはキン肉マンと素性のわからないグレートのタッグだけ、っていうのも、「ここまで追い込まれた」という状況として、いいのかな、と。そうすると、ロビンマスクやアシュラマンの出番も活きるし。キン肉マンとグレート、勝ったとしてもボロボロになって、「でもまだ闘うぞ!」という時に、ロビンやアシュラマンが登場して「引っこんでろ、オレたちの出番だ」という展開になる。胸熱じゃないですか?
燃 ああ、いいねえ。年末くらいにはたどり着いてるかなあ。それを読みながら、年越しできるといいな。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、エッセイ集『それでも日々は続くから』(新潮社、1月29日文庫版発売)『これはただの夏』(新潮社、文庫版発売中)、『ブルー ハワイ』(新潮社)『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『この味もまたいつか恋しくなる』(主婦と生活社)。『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00〜27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。最新著は、集英社発のWebサイト『よみタイ』で好評を博した、美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』が好評発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら 〜爪 切男の助手席ドライブ漂流〜』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社