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東京23区の中古ワンルームマンション中心に不動産投資を展開。現在、38戸の物件を所有し、資産額10億円、年間家賃収入4000万円の個人投資家・村野博基氏。高齢者夫婦がリタイアをして老後に30年間を過ごす場合、年金だけでは足りず約2000万円の金融資産が不足する可能性があると指摘する「老後2000万円問題」。村野氏は「大切なのはいくら貯めるかではない」と指摘します。老後に必要な資金の考え方について掘り下げます。
◆「老後資金2000万円問題」から考える、老後に必要なお金の考え方
数年前から「老後2000万円問題」が話題になっています。これは、夫が65歳以上、妻が60歳以上で無職の高齢夫婦世帯が平均寿命まで生きた場合、毎月5万円の不足が生じ、リタイア後に30年間生きると約2000万円が必要になるというものです。政府も年金だけでは老後の生活が足りないと明言しており、若いうちから老後のために資金計画を立て、資産を準備しておくことが推奨されています。
60歳時点で2000万円の資産を目指してコツコツと貯金をしたり、新NISAで資産運用を行っている人も多いと思います。しかし、私は老後に2000万円あれば安心だとは思いませんし、そもそも2000万円を目指して貯金をするのもあまり意味がないと思っています。大切なことは老後資金としていくら貯めるかではなく、リタイア後でも生活していける仕組みを作ることだと考えています。
◆お米を毎月10kgもらうのと、一度に2000kgもらうのどっちがいい?
お金の場合「運用して増やして……」と考えてしまうので、もう少しシンプルにするために「お金」を「お米」に変えてみましょう。これから「お米を毎月10kgもらえる」という選択肢Aと「お米を一度に2000kgもらえる」選択肢Bがあった場合、みなさんはどちらを選ぶでしょうか?
「毎月10kgなら1年あたり120kgもらえる。他方で2000kgを120kgで割れば16.666。だから、17年以上生きるなら毎月10kgの選択肢A、それより早く死んでしまうなら一度にもらう選択肢Bの方が有利じゃないか?」と考える方も多いのでしょう。実際に年金を「何歳からもらうのが有利か?」などのシミュレーションをする際には、「何歳まで生きるか」を軸にするケースが多いようです。
しかし、よく考えて欲しいのです。本当に大事なことは「どちらが幸せか」ではないでしょうか。毎月10kgのお米をもらう選択肢Aと、一度に2000kgもらった選択肢Bでの未来の幸福度合いを想像してみて欲しいのです。
一度に2000kgもらうBの場合、保管コストがかかり、劣化する可能性や盗まれる心配があります。このお米の劣化リスクはお金の場合、インフレリスクと読み替えても問題ありません。また、自分の寿命と照らし合わせてみてください。最初はたくさん食べられて嬉しい反面、後半になると毎月食べる量をコントロールし、死ぬまでの残量を気にする必要があります。お米の残量は右肩下がりで減るため、幸福度も減る一方ではないでしょうか。
一方、毎月10kgもらうAの場合、日々の生活で「食べること」に対する心配はなくなります。一人あたりの年間のお米消費量は約50kgと言われています。毎月10kgもらえれば夫婦2人世帯では十分です。もし多く食べて無くなってしまったとしても、数日我慢すれば翌月また入ってきます。少し余ったお米はストックに回したり、誰かにお裾分けもできます。お米の残量は少しずつ積み上がる「右肩上がり」のイメージです。
つまり、「老後2000万円問題」は2000万円貯めれば解決するものではありません。人生の終盤では貯蓄の残高とにらめっこしながら、長生きすること自体がリスクになります。それよりもリタイア後でも年金以外にインカムゲインとして月10万円稼げる仕組みを作っておけば、長生きするほど安心になります。そんな人生の方が幸せではないでしょうか。
◆資産形成の方程式で一番大事なのは何?
資産を作るための方程式として、私はこの数式を大事にしています。
Z=a(X-Y)+b
Zは「資産」、Xは「収入」、Yは「支出」。aは「時間」でbは「貯蓄」です。ではこのなかでもっとも大事なのはどのパーツでしょうか?
多くの方が目を向けているのはbの「貯蓄」です。老後2000万円問題が取り沙汰されるのもまさにこの関心が高いからでしょう。そして、貯蓄を増やすために運用に躍起になり、昨今は新NISAでオルカン(全世界株式投信)やS&P500の投資信託が人気のようです。宝くじを買い求める方も1等の数億円が当たれば資産形成は一発クリアだと思うからこそでしょう。
しかし、私がこの方程式で最も重要視するのは「貯蓄」ではありません。大事なのはaの「時間」と、「X – Y(収入 – 支出)がプラスであるか?」です。例えば、宝くじが当たって数億円持っていても、支出が多い状態ではいつかなくなります。一方で支出以上の収入があれば、時間の経過とともに資産は増えていきます。リタイア後でも何らかの手段で安定して支出を上回る収入があれば、仮に貯蓄がゼロであったとしてもお金の心配をする必要がなくなります。「老後2000万円問題」すら気にする必要がない世界線で生き続けられるのです。
そしてこの数式からも、資産形成とは「収入を増やし支出を減らす。それを長期間行うこと」と考えています。ですので、もちろん労働などの自分自身を活用した収入(x1)を増やしていくことも大事ですが、他にも配当や不動産といった資を産みだすものからの収入(x2)を増やしたり、支出を減らす仕組みを作ることも同様に大事であることを是非覚えておいて頂けたらと思います。
資産からの収入が支出を越えていれば労働から解放される。それが「FI(Financial Independence)」、つまり経済的な自由です。この状態であれば老後2000万円問題をまったく心配する必要がないと思っています。
<構成/上野 智(まてい社)>
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【村野博基】
1976年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手通信会社に勤務。社会人になると同時期に投資に目覚め、外国債・新規上場株式など金融投資を始める。その投資の担保として不動産に着目し、やがて不動産が投資商品として有効であることに気づき、以後、積極的に不動産投資を始める。東京23区のワンルーム中古市場で不動産投資を展開し、2019年に20年間勤めた会社をアーリーリタイア。現在、自身の所有する会社を経営しつつ、東京23区のうち16区に計38戸の物件を所有。さらにマンション管理組合事業など不動産投資に関連して多方面で活躍する。著書に『43歳で「FIRE」を実現したボクの“無敵"不動産投資法』(アーク出版)