国立競技場、ドコモなど出資の企業が運営へ…「稼げるスタジアム」へ転換の戦略

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2025年04月28日 11:50  Business Journal

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国立競技場

●この記事のポイント
・国立競技場の運営事業、JSCからNTTドコモなどが出資するジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメントに移管
・JNSEは「グローバル型のビジネスモデル」を導入して“稼げるスタジアム”に転換
・パートナーシップ事業とホスピタリティサービス事業によって、貸館事業以外の柱を設けて収益機会をつくっていく


 国立競技場の運営事業が、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)から、NTTドコモなどが出資するジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント(JNSE・東京都新宿区)に4月1日、移管された。JNSEはJSCから運営事業を委託されるかたちで、契約期間は31年間、運営権対価528億円である。これまで国立競技場は赤字を公費で補てんしていたが、JNSEは「グローバル型のビジネスモデル」を導入して“稼げるスタジアム”に転換し、自立を図っていく。具体的にどのような戦略・計画を描いているのか。JNSEに取材した。


●目次



JNSEとJSCの契約期間は31年間、運営権対価528億円
ホスピタリティサービス事業とパートナーシップ事業
スポーツの発展にも貢献して世界に誇れるナショナルスタジアムにする

JNSEとJSCの契約期間は31年間、運営権対価528億円

 さる4月1日、東京・千駄ヶ谷の国立競技場で入社式が開かれた。開いたのはNTTドコモグループで、約1500名の新入社員に加えて、コロナ禍でオンラインでの入社式を余儀なくされた2020〜23年度入社の社員が参加した。この日は出席した社員だけでなく、NTTドコモにとっても特別な1日だった。同社が出資するジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント(JNSE・東京都新宿区)が、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)から受託した国立競技場の運営事業を開始する初日である。


 JNSEは国立競技場の運営事業を担う特別目的会社として、NTTドコモのほかに、前田建設工業、SMFLみらいパートナーズ、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が出資。代表取締役社長には4月1日付けで、西武ホールディングス広報部ジェネラルマネジャーなどを歴任し、横浜アリーナ常務取締役でもある竹内晃治氏(59)が就任した。JNSEとJSCの契約期間は31年間。運営権対価528億円である。


 竹内氏は「国立競技場は、歴史と伝統を誇り、スポーツファン、アスリート、アーティストにとって特別な存在。民間視点のノウハウを活かし、革新的な取り組みとさらなる効率化を図り、世界トップレベルのナショナルスタジアムへとスタッフ全員で進化させていく」と抱負を述べる。


 JNSEはスポーツイベントや音楽ライブを中心に年間最大130日のイベント開催と、延べ約 260万人の来場を目標に掲げているが、この目標数に対して開催件数が少ないのではないかという見方もあるようだ。


 国立競技場のホームページには今年11月までイベント開催予定がアップされている。4月は「JAPAN FOOTBALL LIVE2025 デフサッカー男子」「明治安田J1リーグ」「Snow Man 1st Stadium Live〜Snow World」など5件(7日)、5月は「明治安田J1リーグ」「セイコーゴールデングランプリ陸上2025東京」など6件(5日)、6月は「NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25」が1件(1日)、7月は「日本陸上競技選手権大会」が1件(3日)、9月は「世界陸上」が1件(9日)、11月は「キリンチャレンジカップ」など2件(2日)。8月と10月は開催予定が入っていない(2025年3月末時点)。


 開示されているイベント開催日数は計27日で、JNSEの田中洋市ビジネスデザイン部部長によると「日程調整が進んでいるイベントを含めると25年度の開催日数は50日程度」という。最大130日の目標数に比べて少ないが、これには事情がある。JNSEは24年9月に設立されたばかりで、JSCと実施契約を締結したのは11月である。通常運営に入るのは26年度からで、平均約120日を計画し、JSCが運営していた時代の約100日を上回るという。


「例えば国内チームと海外チームとの対戦など世界水準のイベントに質を上げて、開催日数を引き上げたい計画である。利用料金は、プロスポーツは据え置き、アマチュアスポーツはより利用しやすい料金に下げた。さらに、これまでの開催イベントはスポーツが主体だったが、我々は音楽やエンターテインメントの開催割合を増やして、20日ぐらいに引き上げたい」(田中氏)


ホスピタリティサービス事業とパートナーシップ事業

 国立競技場にはスポーツの聖地という歴史があるが、JNSEは音楽イベントでも国立競技場を聖地にする方針だ。「アーティストのなかには、コンサートで全国各地のアリーナを巡回した後に、最後は国立競技場で開催したいという方もいる」(田中氏)という意向を汲み取って聖地へのブランディングを進める計画で、その手段のひとつが「グローバル型のビジネスモデル」の導入である。


 従来は「貸館」と呼ばれるイベント利用の料金が大半を占め、これに飲食事業が付随していたが、JNSEは貸館と飲食に加えて、ネーミングライツなどパートナーシップ事業や15室だったVIP席を約70室に拡大する、ホスピタリティサービス事業も強化する。パートナーシップ事業は、例えばネーミングライツ、飲料の独占販売権、クレジットカードのサービスを案内するラウンジ開設など事業機会を付与する。ホスピタリティエリアでは知名度の高い一流の料理人が手がける料理を提供する。


 売り上げ構成比は、一般来場者の飲食を含む貸館事業、パートナーシップ事業、ホスピタリティサービス事業を各30%、その他を10%と計画している。これまで国立競技場は赤字を公費で補てんしていたが、JNSEは、いわば“稼げるスタジアム”に転換して経済的自立を図っていく。


 ベンチマークしているのは例えば米国カリフォルニア州イングルウッド市の「SoFiスタジアム」である。このスタジアムはNFLのロサンゼルス・チャージャーズとロサンゼルス・ラムズの本拠地で、屋根中央に「Infinity Screen」と呼ばれる帯状の360度4K大型ビジョンが吊り下げられている。28年開催のロサンゼルス五輪の開会式会場にも予定されている。


スポーツの発展にも貢献して世界に誇れるナショナルスタジアムにする

 田中氏はこう抱負を語る。


「欧米のスタジアムはパートナーシップ事業とホスピタリティサービス事業によって、貸館事業以外の柱を設けて収益機会をつくっている。我々もチャレンジしてゆくという意図でグローバル型のビジネスモデルの導入を掲げ、設備投資のみならず、スポーツ界にも還元し、スポーツの発展にも貢献して世界に誇れるナショナルスタジアムにしたいという思いを持っている」


 収支計画は未公開だが、増改築など大規模な修繕費用はJSCが負担し、芝の張り替えなど小規模な修繕費用はJNSEが負担する。30年間の運営権528億円は年換算で17億6000万円。スポーツ庁と経済産業省が作成した「スタジアム・アリーナ改革の実現に活用可能な施設一覧」によると、SoFiスタジアムが2019〜39年に結んだネーミングライツ契約額は年平均24億円(1ドル=120円で計算)である。


 JNSEがこの水準に近づけば、ネーミングライツだけで運営権をペイできるだろうが、まずは26年度以降の通常運営に目を向けたい。


(文=BUSINESS JOURNAL編集部)



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