ニューヨーク市警の警察官が減少 勤務厳しく離職相次ぎ業務に支障

1

2025年04月28日 12:01  サイゾーオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーオンライン

イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 米国最大の警察組織であるニューヨーク市警察本部(NYPD)の警察官の人数が減少している。勤務の厳しさなどから離職者が後を絶たず、応募者も減っているからだ。本部長自ら「採用危機」に陥っていることを認め、応募条件の緩和などを実施することを明らかにした。米国では、白人警察官による有色人種への不当な捜査が相次ぎ、警察組織への市民の信頼が揺らいでおり、市民の目が厳しくなっていることも、離職者増加の一因になっている。

簡単に地下鉄「盗む」ニューヨークの若者たち 走行中の屋根での「サーフィン」急増

児童・生徒の8人に1人がホームレス 観光客やビジネスマンが絶対に目にしないニューヨークの真実

ピーク時は4万人、現在は3万3475人に

 ニューヨーク市予算局などによると、NYPDの警察官の人数は2月現在で3万3475人。ピークだった2000年には約4万人が所属していたが、25年で約6500人減少した。

 特に2024年以降の減少は著しい。2024年の離職者は1カ月あたり平均で250人にのぼる。2025年に入ってもこの傾向は続き、2024年12月から2025年4月までの離職者は1400人にのぼっている。

 離職の最大の要因は、勤務の多忙さだといわれる。警察官の人数が減る中で、通常業務に加えて地下鉄構内や車内での警備やパトロールなど新しい仕事が増えた。
地下鉄のパトロールは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、地下鉄内での重大犯罪が増加したことから、多くの警察官の日常の仕事となった。最近は大規模な駅以外でも警察官の姿がある。

 このため警察官1人あたりの負担が大幅に増加した。人口の多いマンハッタンのある警察署では、パトロールの警察官は以前より半分の6人ですべての業務をこなさないとならず、休暇も思うように取得できない状態になっているという。

 一方で警察官を志す人材も減少している。2017年には年間1万8400人がNYPDの警察官採用試験を受験したが、2024年はわずか8177人にとどまった。その結果、新人警察官は以前より大幅に減少し、離職者をカバーすることができない。

本部長「採用危機」訴える 基準緩和し採用しやすく

 2025年1月、ジェシカ・ティッシュ本部長は警察財団の集まりで幹部や関係者を前に窮状を訴えた。

「甘言をろうするつもりはない。NYPDは採用の危機にひんしている。予算の問題ではない。応募者が集まらないことが問題だ。かつてNYPDの志願者は警察学校に入るまで何年も待たねばならなかったが、今は試験を受けてくれるよう、ほとんど懇願しているようなものだ」

 ティッシュ本部長は人材獲得のため、採用にあたっての大学での取得単位数を見直す考えを示した。これまでは少なくとも大学で60単位を取得していなければならなかったが、これを24単位まで減らす。2023年にはこの規定があったために、応募者の29%にあたる2275人が不合格になったという。ティッシュ本部長は「これ以上、このような状況を続ける余裕はない」と危機感を募らせる。警察官の「質」を落とさないために、警察学校に入学後に取得しなければならない単位を増やす方針だ。

 ただ採用条件を緩和しても、採用危機は簡単には解決しない。警察官を志す若者が減っている背景には全国的な「警察不信」があるからだ。

 2020年、ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警察官に路上で押さえつけられて死亡した事件は、抵抗運動「ブラック・ライブズ・マター」に火を付けた。警察組織内にはいまだに人種差別が存在していると多くの国民は感じた。
全米で警察は批判の矢面に立たされ、警察の予算を見直すところまで話は発展した。

 2期目のトランプ政権の誕生で、警察批判に対抗する動きが強まったものの、警察不信は根強く、いまだに採用に響くレベルにある。

 これに加えてNYPDでは、警察官による残業代の不正受給が問題となった。警察官の数が減少し、警察官1人あたりの残業代は増加した。ニューヨーク市の警察予算は残業代を払うために増加した。残業代は大きなカネになる。働いていないのに残業代を請求するケースがNYPD内で横行した。

 制服警官のトップで幹部警察官が、残業代をネタに部下の女性警察官に性的な行為を迫る事件が起き、NYPDの腐敗体質が明るみになった。若者にとってNYPDが魅力的な職場に思えないのは当然である。

多い他都市からの「ラブコール」 転職ボーナスは巨額

 NYPDの警察官に採用されても、長続きしないのは勤務の厳しさだけからではない。より良い職場への「切符」が比較的、簡単に得られるからだ。

 NYPDは全米最大の警察組織であるため、他の自治体の警察機関から一目も二目も置かれている。NYPDでの警察官経験は本人のキャリアとしてはかなり大きいものとなる。他の警察本部がNYPD経験者を引き抜こうとして、好条件を提示してくる。転職ボーナスとして10万ドル(約1430万円)を支給する警察さえある。

 NYPDで数年経験を積めば、別の都市の警察に転職することは容易で、余裕のある生活ができるチャンスを得ることができる。

 NYPDのパトカーには、車体に「Courtesy (礼儀正しさ)、Professionalism(プロ意識)、Respect(敬意)」という3文字がスローガンとして記されている。1996年以降、市民に尊敬され、親しまれる警察を目指して掲げていた。ニューヨークではこの取り組みを賞賛する市民がいる一方で、「自分たちが持ち合わせていないことを書いているだけ」と鼻で笑う市民も多くいる。

 2024年夏以降、新しく導入されたパトカーには、この3文字を記さないことが決まった。パトカーが入れ替わるごとに、スローガンは街から消えてゆくが、警察官の心の中からもこの3文字が消えてしまえば、人材はさらに遠のくだろう。

(文=言問通)

ラインダンスの「ザ・ロケッツ」誕生100年 一糸乱れぬ演技生む努力と苦悩

 

 

このニュースに関するつぶやき

  • 警視庁の4万より少ないのは驚き���ä���
    • イイネ!2
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定