スーパーホテル支配人「2人で年収4000万円」の“秘密”とは? 夫婦・カップルで1店舗を運営、住み込みだから貯金も効率的に

5

2025年04月28日 16:01  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

ベンチャー支配人制度(Super Dream Project)を通じて、スーパーホテルの支配人になる2人1組のペアは、明確な夢を持って入ってくる。それが原動力となり、顧客満足度や売上・利益に大きく影響してくるそうだ
“ホテルを超えるホテル”を目指し、既存のホテルの枠を超えた取り組みを行う「スーパーホテル」。
フロントでの鍵の受け渡しや返却が不要の「ノーキー・ノーチェックアウトシステム」や、“快眠”をサポートする8種類の枕の貸し出し、客室の蛇口から出る「健康イオン水」など、他のホテルにはない独自の付加価値を追求してきた。

なかでもユニークなのが「ベンチャー支配人制度(Super Dream Project)」だ。夫婦やカップル、友人といったペアでホテル運営に携わり、経営ノウハウの習得と資金の貯蓄を両立させ、将来の起業を応援するプロジェクトになっている。

この制度にチャレンジする2人1組のペアは、1年契約の業務委託契約書を締結し、4年で2,000万円近くの貯金も可能になるという(報酬や貯蓄金額には個人差あり)。

今回は、株式会社スーパーホテル 代表取締役社長の山本健策さんに、既成概念にとらわれないスーパーホテルの独自性を貫いた戦略について話を伺った。

◆省人化と理念浸透でホテル改革を推進

スーパーホテルは、1996年に1号店を福岡に開業して以来、約30年間にわたってホテル事業を展開。現在は全国に173店舗(2025年4月時点)を構える規模に成長した。

事業の立ち上げ当初、ビジネスホテルの相場は1泊7,000〜8,000円ほどだったのに対し、スーパーホテルは1泊4,980円で朝食付きという“価格破壊”のプランを打ち出し、シェアを獲得していく。

しかし、店舗数が20店舗規模にまで拡大したタイミングで、稼働率が80%前後で頭打ちになり、伸び悩んでいたという。

そんななかで、創業当時から導入していた「自動チェックイン機」による省人化のメリットを活かし、顧客満足度の向上を図るための“おもてなし”を重視する戦略へシフトさせたと山本さんは話す。

「顧客満足度を高めるために、単にホテル運営や人材育成の仕組みを作るのではなく、それがしっかりと現場で運用され、スタッフたちの業務が成果につながっているかどうかを“見える化”することを意識していました。

組織において『仕組みの浸透』と『理念の浸透』を並行して実施していきながら、スタッフのモチベーション向上へと繋げ、結果として顧客満足度の向上へとつながるというサイクルを生み出せるように取り組んできたのです」(山本さん、以下同)

◆日常の癒やしや安らぎを届ける“21世紀型のホテル”を目指す

また、「ホテルを超えるホテル」を目指すスーパーホテルの名前にある“スーパー”には、「どこよりもぐっすり眠れるホテルを目指す」という想いも込められているそうだ。

シャンデリアのある空間や特別なディナーなど、非日常のラグジュアリーを追求する「20世紀型のホテル」は、見た目の華やかさや豪華さを演出するものだった。

一方、スーパーホテルの考える「21世紀型のホテル」は、“日常の中で感じるラグジュアリー”を掲げているという。

「省資源・省エネルギーの取り組みを通じて環境に配慮した空間づくりを意識しているほか、オーガニックな食事や天然温泉を提供し、五感を通して“心地よさ”や“癒し”を届けることを心がけています。お客様がぐっすりと眠れ、心身ともにリフレッシュして『また来たい』と思ってもらえる、そんなホテルづくりを進めてきました」

さらに、コロナ禍を機に「ビジネスホテル」から「ライフスタイルホテル」へとブランドの転換を図り、多様なライフスタイルやニーズに対応した宿泊体験を提供する体制を構築してきたと山本さんは述べる。

以前は出張を中心としたビジネスユーザーが主なターゲット層だったが、コロナによるリモートワークの進展によって、出張需要が大きく減少した。その代わりに、ファミリー層やインバウンド、女性同士の旅行といった新しい客層が増えているという。

「コロナによる外出自粛の影響で、外食を控える方が増えていたため、当社では朝食で使用していたスペースを夕方限定で「ウェルカムバー」として無料開放しました。アルコールやカクテル、ソフトドリンクを自由に楽しめる場を提供することで、ファミリー層や地域住民にもご利用いただけるようになり、新たな顧客層の獲得にもつながりました。

また、ユニークな取り組みとして話題になったのが、『ビジホ飲み』の施策です。当時、都内で一人暮らしをしている女性の間で、『仕事終わりにビジネスホテルでゆっくりお酒を楽しむ』という過ごし方がSNSで注目を集めていました。そこに着目し、スーパーホテルで『ビジホ飲み』を発信してもらうためにインフルエンサーを起用したプロモーションを実施したところ、多くの反響が生まれ、全国的な広がりを見せたのです」

◆独立志向の強い人材は目標達成のモチベーションが高い

こうしたなか、スーパーホテルが特に注力しているのが人材の採用と育成だ。なかでも、「ベンチャー支配人制度」を通じて、“夢を持つ人材”の採用を積極的に行っている。

たとえば、将来は飲食店を開きたい。夫婦でペンションを運営したいなど、具体的なビジョンを持っている人材をターゲットに据えている。

なぜ夢を持った人が重要かというと、「日々の業務に対する高いモチベーションと継続力に直結するから」だと山本さんは説明する。

「もともと、当社のホテル運営はすべて本社スタッフが管理していた時期もありました。しかし、売り上げ目標の達成のために最後の1室を埋めきる“ラストワンマイル”のひと押しに限界を感じていました。その一方で、ベンチャー支配人制度を通じて活躍している方々は、自身の夢や目標を実現するためにスーパーホテルで働くことを選んでいます。

だからこそ、『あと1室をどう埋めるか』『どうやって売り上げ110%を目指すか』というのを自ら考え、工夫し、自然と行動に移していくわけですね。なので、私たちは『夢を持ち、独立志向のある人材』を積極的に迎え入れ、ともに成長していける環境を整えているのです」

◆1年間の報酬が2人1組で4000万円近くなる事例も。“住み込みホテル経営”という新たな働き方

このベンチャー支配人制度、実は1998年から始まったそうで、20年以上も継続しているものとなっている。

これまで26年間で、約500組(1,000名)のベンチャー支配人・副支配人が誕生し、夢の実現や起業・独立を数多く支援してきたという。

ベンチャー支配人制度への応募は夫婦、カップル、友人など同居可能な二人一組のペアが条件。基本的には1年更新の業務委託契約を締結し、4年契約を継続された場合には、約2000万円程度の資金を貯蓄することも可能である。なかには顧客満足度や稼働率向上に対するインセンティブを含めて、1年間の報酬が2人1組で4000万円近くなる事例もあるとか。

これは、一般的なサラリーマンではなかなか到達できない金額感ではなかろうか。

◆賃貸マンションの「住み込み管理人」から着想を得た

なぜこれほどのお金が貯金できるかというと、“住み込み”でホテル内の居住スペースで生活するため、家賃や水道光熱費の負担がかからずに生活費を抑えながら効率的に貯蓄できるからである。

また、ペアで住み込みが基本ということから、税制面のメリットもあり、結果的に手取りが一般のサラリーマンより多くなるケースも。

このような常識にとらわれないユニークな取り組みが生まれたのは、「私たちが『ホテル屋』ではなく『賃貸・分譲マンションの運営』からスタートしたことに由来している」と山本さんは語る。

「たとえば、100室規模の賃貸マンションであれば、夫婦2人の住み込み管理人で十分に運営が可能です。ですが、ホテルになるとチェックイン・チェックアウトの業務があるのでそうもいきません。

そこで、住み込み管理人でも回せるホテルを理想として、人手に頼らずに運営できる仕組みを構築するために、自動チェックイン機の設置や客室の固定電話の撤去を行ったわけです。無理に“ホテルらしさ”を追わないという発想の転換こそ、現在のスーパーホテルの礎になっていて、それが未経験のペアでも支配人が務まる体制を支えていると言えるでしょう」

全国に展開するスーパーホテルのほとんどの店舗が業務委託の支配人で運営されているというから驚きだ。今後は、各支配人の現場からのアイデアを積極的に取り入れ、新たな価値の創出にも取り組んでいくと山本さんは展望を話す。

「具体的な内容はまだ多くをお話しできませんが、ひとつの方向性として、地域に眠る魅力的なコンテンツの発掘と発信があります。地域にはまだあまり知られていない観光資源や文化などがある一方で、自治体ではマーケティングや営業のノウハウが不足しているために、それらが埋もれてしまっているという課題があります。

そこで私たちは、民間企業としてのマーケティング力や営業力を活かし、自治体と連携した形で、DXやAIといった最新テクノロジーを駆使しながら、地域資源を国内外へ広く発信していき、ひいては交流人口の拡大を見据えています」

従来のホテル業界の常識を打ち破る「ホテルを超えるホテル」として、独自の進化を続けるスーパーホテル。

夢を持つ人の背中を押し、地域と人を繋いでいくその歩みは、これからも新たなホテルのあり方を示してくれるだろう。

<取材・文・撮影(インタビュー)/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

このニュースに関するつぶやき

  • 自ら毎日泊まって顧客へアピール。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(4件)

ニュース設定