<柔道:全日本選手権>◇29日◇東京・日本武道館◇体重無差別
男子60キロ級のパリ五輪(オリンピック)銅メダリスト永山竜樹(29=パーク24)が「104秒」のロマンで沸かせ、初戦の1回戦で押しつぶされた。
日本一を決める体重無差別の大会に、最も軽い階級から唯一の出場。最も重い100キロ超級で最大差6階級上の筑波大4年、入来巨助(おおすけ)と対戦して開始1分44秒、払い腰で一本負けした。
「もうちょっと、やりたかったんですけど…重すぎました。もっと足技で崩れるかと思ったんですけど、足が重たすぎて、動かなくて。全然、崩れないな…と思ったので、担ぎ技とか自分の持ち味を出して全力で投げにいこうと思って戦いました」
言葉通り、序盤は攻め倒した。背負い投げを仕掛けて、ともえ投げでは一瞬、巨体を浮かせた。相手に最初の指導が出てリードするほど畳みかけたが、これまた本人の言葉通り「重すぎた」。ともえ投げ2発目は完全に止められ、自身の体を軽々と浮かせられて、場内がどよめいた。
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登録体重は、減量なしの永山が今大会最軽量の66キロで入来は最重量の160キロ。94キロもの差があった。身長も156センチに対して、相手は182センチで26センチ差。その逆境下で1度は相手の払い腰を耐えたものの、腰が折れそうな勢い。しっかり持たれた次の払い腰では、さすがに耐え切れず、畳にたたきつけられて一本負けした。
「本当に夢中で(大歓声も)ちょっとしか聞こえなかったですね。ちょっとでも失敗したら殺されると思って(笑い)。投げられた時は大丈夫だったんですけど、その前に耐えた時は衝撃が大きすぎて、本当に死を覚悟しました」
それでも「柔よく剛を制す」に期待するファンの声援を背に、盛り上げた。小柄な選手には選択肢が増える足取りも解禁されたが「持っても浮かないんで」と笑い「もう向かい合った時点で、かなりデカくて。密着して腰を持って防ごうとしたら、手が回らなかったし(笑い)。東海大(母校)の重量級の選手とも練習はしてきましたけど、けがさせないように、って気をつかってくれただろうし。でも今日は全日本という舞台で、特に指導を先に取った後にスイッチ入った相手から必死さも伝わってきましたし、怖かったっす」
今大会は5年ぶり2度目の出場。前回の20年大会では1回戦で90キロ級の相手に、延長で小外掛けで有効を奪って勝利していた。最小兵の2大会連続初戦突破という快挙はならなかったが「重量級と練習しまくって、かなり体は鍛えられたと思うし、人として、柔道家として成長させてもらった。やっぱ60キロが160キロに挑むのは、けがのリスクもありますし、恐怖心も、ものすごくありました。無謀な挑戦、だったと思いますけど、それを経験できたことで成長できたのかな」
自身の登場前には、同じパリ五輪代表勢で所属も同じ2人が勝っていた。66キロ級の阿部一二三と73キロ級の橋本壮市(ともにパーク24)が初戦突破。「一二三が勝ったんで続きたかったんですけどね」と悔しがったが、条件が悪すぎた。阿部の相手は16キロ差で、橋本は32キロ差をはね返したが、自身は95キロ差。「ちょっと、さすがに…(笑い)。次も機会があれば出たいし、その時は100キロ超級でもいいんですけど、いやー160キロは。次は100とか105とか110キロくらいの選手と当ててほしい」と笑わせた。
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「腰だけじゃなく首も痛いな」とも苦笑いしながら「でも大丈夫っす」と切り替えた。次戦は6月。ハンガリーの首都ブダペストで行われる世界選手権で、初の優勝を目指す。五輪も含めて悲願の世界一へ「まだ世界チャンピオンになれていないので、まずはオリンピックの前に自分が1番強いことを証明したい。(28年)ロサンゼルス五輪に向けて、次は自分の階級でしっかり勝ちにいきたいと思います」。珠玉の経験を、小さな体に大きく詰め込んだ。【木下淳】
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