2021年「ガールズグランプリ」で優勝した元競輪選手の高木真備さん 昭和の時代から競輪を愛し、地元の競輪場に通い詰めている生粋の競輪ファンからすると、最近の競輪場は治安が大幅に良くなったと感じているようだ。“野次は鉄火場の華”とも言われていたようだが、「最近は野次よりも声援の方が多い」と感じている競輪選手も多いのだとか。
競輪場が“健全化している”ということは、
今年2月に公開した記事でも紹介して反響を呼んだが、そういったイメージを持つ人が多くなっている要因は、野次の減少だけでなく、競輪場で行われているイベントにもあるかもしれない。
◆元ガールズ選手が主催の保護犬イベントも
ここ数年、競輪場のイベントはヒーローショーやゲームコーナーなど、子供向けイベントが増加。ビッグレースの際はお笑いライブも開催している競輪場も多く、クールポコ。やテツandトモ、小島よしおといった、子供人気のあるお笑い芸人の需要が高い。競輪場に足を踏み入れたことのない人からすると、特に休日は想像以上に子供が多いことに驚かされるだろう。
こうした競輪場のイベントのなかで「子供も大人も楽しめるイベント」として注目を集めているのが、元ガールズケイリン選手の高木真備さんが主催する『わんにゃんフェスティバル』だ。犬や猫の譲渡会、ふれあいコーナー、保護犬猫クイズコーナーなど、保護犬にまつわるイベントを開催している。
高木真備さんといえば、2021年の「ガールズグランプリ」で優勝し年間賞金女王を獲得した、ガールズケイリン界の元トップ選手。「グランプリ優勝」という目標を達成したことで翌2022年に引退し、その後は保護犬・保護猫活動、および競輪番組の出演や競輪場でのトークショーなど、多方面で活動を行っている。
そんな高木さんが主催している『わんにゃんフェスティバル』は、2022年9月に川崎競輪場で初開催。このイベントは高木さんが競輪場に話を持ち込んだことで開催することになったようだ。
川崎競輪場は、犬や猫を競輪場に入れることはできない決まりがあり、もちろん当時は競輪場における犬猫のイベントの前例がなかったという。そんな厳しいルールのなかで、なぜ開催することが決まったのだろうか。その経緯を高木さんに聞いてみた。
「川崎競輪場に限らず、どこの競輪場でも基本的にペット入場禁止なので、前例がないイベントを提案することはとても難しかったです。万が一飼い主の手を離れてレース中のバンクに入ってしまった場合、何億という損害が出てしまう……といったことなどの理由により、競輪場にはペット入場禁止のルールがあります。なので、譲渡会ふれあいコーナーに参加する犬の移動動線は重点的に話し合いました。他にも既存の競輪ファンへの配慮、アレルギー対策など、さまざまな点で議論を重ねまして……。最終的に開催の決断をしていただきました」
◆「動物の入場禁止」の競輪場で“前例なき改革”も
そして川崎競輪場での初開催はトラブルもなく見事に大盛況。この成功を受けて他の競輪場にもこのイベントの輪が広がり始めた。
2022年12月に開催された平塚競輪場でも「動物の入場は一切禁止」というルールがあったものの、わんにゃんフェスティバルを開催するために規則が変更されたという。
「平塚競輪場では、動物の入場は絶対にダメという決まりがあったのに、『やるならルールを変えましょう』と決断してくださった方がいらっしゃいました。他の競輪場も原則的に動物禁止のところが多いですが、こうしてイベントの話が広がり、今では24会場で40回以上もイベントを開催することができています」
犬猫のふれあいコーナーは子供に大人気。また、社会問題になっている「保護犬・保護猫の殺処分問題」などを知る“教育の場”にもなっている。このイベントに参加するために「初めて競輪場に訪れた」という家族も多いという。
また「保護犬・保護猫クイズコーナー」の解説は、競輪界の元トップ選手である高木さんが直接行っていることで、競輪ファンからも高い人気を集め、イベント開始から2年半で一気に需要の高いイベントとなった。
◆競輪場のクリーン化と女性ファン獲得の重要性
こういったイベントにより競輪場のイメージは徐々に変わりつつあるが、客層としては男性ファン中心のイメージが強いだろう。しかし、高木さんによると「競輪場は家族連れや女性も安心して楽しめる場所に変わってきています」と話す。
「以前、京王閣競輪場では、子供が遊ぶプレイルームと女性用トイレを綺麗に改修していました。こういうことってすごく大事なことだと思うんです。もともと男性ファンが圧倒的に多いとはいえ、競輪場によってはお客さんのための女性用トイレがないところもありまして……。以前、女性の方が競輪場に女性用トイレがなかったことをSNSで投稿して、ようやく見つけた従業員用の女性トイレも汚く、『もう二度と行きたくない』と発信されたことがあったんです。ただ、そういったことも全体的に改善されつつあり、選手に対する声援を聞いていても女性ファンが増えている実感があります」
◆競輪場と地域社会の連携による相乗効果も
もともとのイメージもあってか、競輪場はこれまで地域から孤立しがちだったが、高木さんは「開催期間以外も地域の人々に活用してもらえる場所になったら嬉しい」と話す。
「地域の人たちが競輪場をもっと身近に感じられるよう、譲渡会をはじめとしたイベントを定期的に開催できれば、競輪場にとっても地域にとっても良い影響があると思います。例えば、『毎月第3日曜日は譲渡会』『春と秋には動物関連のお祭りを開催』といった形で、地域貢献を意識した運営ができれば理想的ですよね」
保護犬・保護猫団体にとって、譲渡会の開催には場所の確保や費用の問題がつきものだが、競輪場が無償でスペースを提供することで、保護団体にとっても大きな支援となる。
「場所がなくて譲渡会が開けない団体さんも多いので、競輪場を活用することでその負担を軽減できるはずです。競輪のイメージを変えることは簡単ではありませんが、動物愛護活動と結びつけることで、新たな価値を生み出せると信じています。これからも競輪場と地域、そして社会全体の架け橋となる活動を続けていきたいです」
地元の保護団体の参加によって地域社会との連携し、競輪場の新たな価値を生み出している『わんにゃんフェスティバル』は、まさに競輪業界のイメージ向上に繋がっているイベントといえるだろう。高木真備さんの挑戦は、競輪業界の未来にとって大きな変革の第一歩となっている。
取材・文/セールス森田
―[高木真備のガールズケイリントーク]―
【セールス森田】
Web編集者兼ライター。フリーライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント