トランプ政権下の半導体覇権競争 同調圧力避けられない日本 対中輸出に歯止め掛ければ報復受けるジレンマも

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2025年04月29日 19:10  まいどなニュース

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回路基板上に設置されたアメリカと中国の国旗が描かれた2つのコンピュータチップ※画像はAIが作成したイメージです(Танюша Коновал/stock.adobe.com)

トランプの再登板により、米中の半導体を巡る競争は新たな局面を迎えている。バイデン政権下の2022年に導入された対中輸出管理規則は、半導体製造装置や先端技術の中国への移転を厳しく制限し、米国の技術覇権を守る姿勢を明確にした。

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トランプ政権は、対中強硬姿勢を継承しつつ、独自の予測不可能性を加味したアプローチを取ると予想される。特に、同盟国に対し、米国の対中政策への同調を強く求めるだろう。この圧力は、日本にとって経済的・地政学的ジレンマを一層深刻化させる。

安全保障にはプラスだが…

日本が米国の要求に従う場合、中国による軍事転用可能な先端半導体の開発が抑制されることは、日本の安全保障にとってプラスである。中国人民解放軍のハイテク化は、東シナ海や南シナ海での軍事バランスに直接影響を及ぼし、日本の領土や海上交通路の安全を脅かす。尖閣諸島周辺での中国海警局の活動が2024年に日本の領海に30回以上侵入した事実を踏まえれば、日本が米国の規制に同調することは地政学的に合理的と言える。

米国の圧力を拒否する選択肢は現実的ではない。トランプ大統領はバイデン氏以上に同盟国の「忠誠」を重視し、従わない国に対して関税や経済的制裁をちらつかせる可能性が高い。日本が米国の要求を無視した場合、鉄鋼や自動車に対する追加関税が課されるリスクは無視できない。日本は、米国との同盟関係を維持しつつ、経済的損失を最小限に抑えるための微妙なバランスを迫られている。

中国市場に依存する企業に逆風?

米国との足並みを揃える選択は、日中経済関係に大きな打撃を与える可能性が高い。中国は日本の最大の貿易相手国であり、2023年の貿易統計によれば、対中輸出は約17兆円、輸入は約13兆円に達する。この経済的相互依存は、半導体サプライチェーンの規制強化によって大きく揺さぶられる。

日本の半導体製造装置企業は、中国市場に大きく依存している。中国の大手半導体メーカーSMICは、日本製の精密装置に頼って生産を拡大してきたが、輸出制限が強化されれば、SMICの生産能力が低下し、日本企業の受注が減少するリスクがある。これにより、価格競争力の低下やサプライチェーンの混乱が予想される。

中国による報復措置も現実的な脅威である。2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件では、中国がレアアースの対日輸出を制限し、日本の自動車や電機産業に深刻な影響を及ぼした。2023年時点で、中国は世界のレアアース供給の約70%を握る。仮に中国が再び輸出制限を実施すれば、日本のハイテク産業は部品調達の混乱に直面し、経済的損失は計り知れない。また、2023年の福島第一原発処理水放出に対する中国の日本産水産物輸入禁止措置は、中国が経済的報復を躊躇しないことを示している。半導体規制への対抗措置として、中国が日本製品の輸入制限や市場アクセス制限を課す可能性は十分に考えられる。

政治的緊張の増幅も

経済的影響にとどまらず、米中半導体覇権争いは日中の政治的緊張を増幅させる。日本が米国の規制に同調すれば、中国はこれを「反中的行動」と捉える可能性が高い。一部では、経済的相互依存が中国の報復を抑制すると主張するが、過去の事例はそうした見方が過度に楽観的であることを示している。中国は、国内のナショナリズムを背景に、日本への強硬姿勢を正当化する傾向があり、外交的対立がエスカレートするリスクは無視できない。

このような状況下で、日本は経済的損失と外交関係悪化の二重のリスクに直面している。米国との同盟を維持しつつ、中国との関係を可能な限り安定させるためには、戦略的かつ柔軟な対応が求められる。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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  • インスタントコーヒー製造機の輸出でさえ武器輸出で逮捕される日本ですからね、滅多なものは輸出できないでしょう。
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