花王「前髪マスカラ」が10代女子に人気! なぜ彼女たちの心をつかんだのか

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2025年05月01日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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学生からアイドルまで愛用! ケープが仕掛けた“前髪特化”

 2023年11月に、花王が発売した「ケープ FOR ACTIVE(フォーアクティブ) 前髪ホールドマスカラ」(以下、前髪マスカラ)参考価格:1320円)が売れている。前髪のキープに特化したヘアスタイリング剤で、若い女性アイドルや女子中高生を中心に愛用者が広がっているという。


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 ヘアスプレーブランド「ケープ」の新製品で、ケープ史上最強のキープ力を誇る「FOR ACTIVE(フォーアクティブ)」シリーズに分類される。長時間スタイルをキープする独自処方のロックジェルを採用し、薄い前髪にも均一にジェルが付着するようブラシの形状にもこだわったという。


 発売前からSNSで話題を集め、店頭に並ぶと一時は供給が追いつかないほどの売れ行きに。発売後1年間の出荷数量は当初計画比で1.7倍となり、累計出荷数は162万本以上(2025年4月下旬時点)とヒット商品になっている。


 前髪マスカラの販売戦略と反響について、花王 HLBC 商品事業開発C HC商品開発部 開発リーダーの藤井晶子氏、HLBC ヘアケア事業部 ヘアコスメ シニアマーケターの松宮聡子氏に聞いた。


●なぜ「前髪特化型マスカラ」を開発したのか


 花王が前髪マスカラの開発に着手したのは、多くの人がまだマスクを着用していた2022年。当時からヘアマスカラの市場は伸びており、すでに競合から多くの製品が発売されていた。


 ヘアマスカラとは、マスカラのようなスティック型のヘアケア製品で、白髪を隠せる色付きのものと、アホ毛(髪の表面から飛び出してしまう短い毛)や前髪の乱れを整えるものがある。


 「前髪をキープしたいというニーズが高まったのは、コロナ禍がきっかけです。マスクを付けると目元から上しか見えないので、目元と前髪で自分らしさを表現したいと考える若い女性が増えました。さらに、マスクによって湿気が発生して前髪が崩れやすくなるため、キープ力の高いスタイリング剤のニーズが高まりました」(藤井氏)


 そうした背景からヘアマスカラ市場が拡大しており、ケープは後発組だった。「成長しているヘアマスカラ市場にどう食い込むか」と思考を凝らし、急ピッチで開発を進めた。


 「他社の製品は前髪にも使えるのですが、アホ毛を抑える点を訴求した商品が目立っていました。そうしたなかで、“ケープらしさ”を生かした商品にしたいと考え、前髪特化型として差別化を図りました」(藤井氏)


 ケープは「今日も自分らしさをキープする」をコンセプトにしており、キープ力を追求してきた歴史がある。2019年にはケープ市場最強のキープ力を誇る「フォーアクティブ」シリーズを発売し、缶が黒いことから「黒ケープ」の愛称で若年層を中心にファンを拡大してきた。


 「黒ケープは『前髪がキープできる』として、指原莉乃さんなどタレントやアイドルの方にSNSで紹介され反響を得ていました。『黒ケープ=前髪キープ』という認識が高まっていたこと、若年層に前髪をキープしたいニーズがあること、ヘアマスカラ市場が成長していることの3点を踏まえ、前髪マスカラの開発にいたりました」(藤井氏)


●こだわりは「独自ジェル」と「小ぶりブラシ」


 前髪特化型マスカラを開発するにあたり、メインターゲットを10〜20代の若い女性に定め、こだわりを盛り込んだ。


 「開発当時、前髪全体を薄くして、おでこが透けて見える『シースルー前髪』が流行っていたんです。そうした薄い前髪でもベタッと付かず、長時間キープできることを重視して開発しました。とはいえ、厚めや斜め、立ち上がった前髪を好む方もいるため、オールマイティーに使えるようにも工夫しました」(藤井氏)


 前髪の厚さや形にかかわらず高い効果を発揮するよう、花王独自のポリマーを使った独自処方のロックジェルを採用。ブラシは毛束の細い前髪でも捉えやすいよう小ぶりの形状に。さらに、ブラシの毛の間に適度な隙間を設けて、ジェルを入り込みやすくし、細い毛束にもムラなく塗れるよう工夫した。


●愛用者の声を生かす「SNSマーケティング」


 発売にあたっては、すでに黒ケープシリーズが高い人気を誇っていたため、その認知度を生かしてPRを展開。すると発売前から話題を呼び、一時は供給が追いつかないほどの反響を呼んだ。発売からわずか3週間で、目標の2倍を超える販売数に達したという。


 「発売後は、主にSNSを使ってプロモーションを実施しました。施策の軸は大きく2つあり、1つは愛用者の声を生かしたPRです。黒ケープは愛用者のタレントやインフルエンサーによる発信によって人気を獲得した経緯があり、前髪マスカラでも愛用者の声を大事にしようと考えました。


 もう1つは、SNS上に投稿された製品への疑問や質問を拾い上げて、公式アカウントで回答していくこと。例えば、『髪に付けたら白くなった』『落としにくい』といった声に対して、適量の使い方や、落としやすい方法などを紹介しています」(松宮氏)


 SNSのうち、最も活発なのはTikTokで、「【ケープ公式】前髪部」のアカウントで積極的に運用。女子高生やアイドルが出演する投稿も多い。2025年2月にはケープの愛用者である人気アイドル「超ときめき▼宣伝部」(▼=白ハート)を起用したネット広告を公開し、反響を呼んでいる。


 「10〜20代はSNSでの拡散力が高く、若年層へのアプローチが30代以上の認知獲得にもつながります。最も購入しているのは10代女性ですが、その上の年代にも売れています」(松宮氏)


 そうした施策が功を奏し、発売後1年間の出荷数量は当初計画比で1.7倍、累計出荷数は162万本以上(2025年4月下旬時点)とヒット商品に。


 コスメなどの総合情報サイト「アットコスメ」の「@cosmeベストコスメアワード2024」では、「ベストヘアスタイリング部門」第3位、「ヘアジェルランキング」2位を獲得。「日経POSセレクション2024」では、「女性用ヘアスタイリングジェル」部門で1位を獲得した。


●利用者の声を拾って「マスカラ下地」も発売


 精力的に製品を開発しているケープでは、4月12日に「ケープ フォーアクティブ カールロックマスカラ下地」(参考価格:1320円)を発売。まつ毛のカールをキープするための製品で、これも若い女性のニーズに沿って開発している。


 「当社では全く推奨していないのですが、黒ケープをまつ毛のキープに使っているお客さまがいることをSNSで知り、マスカラ下地を開発することに。そうしたニーズがあるなら、期待に応えたいと考えたからです」(藤井氏)


 何よりこだわったのは、キープ力だ。競合のマスカラ下地の多くは、濃い黒色を加えたり、ロング効果やボリュームアップといった付加価値を持たせたりしているが、同製品ではカールキープを阻害する要因となるボリューム感や色素をあえて排除した。


 「薄いグレーの色は付いているのですが、重さに影響しない程度に抑えています。3月8日からプラザやハンズなど一部店舗で先行発売していて、その時点で計画比約3倍の売れ行きです」(藤井氏)


 濃い色を使用しないのは、「女子中高生が普段使いしやすいように」との配慮でもある。校則で濃い色のマスカラを禁止する学校もあり、スクールメーク向けとしても好調だという。


 プロモーションには、アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」の元メンバーで、現在は女優として活躍する齊藤なぎささんを起用。黒ケープのヘビーユーザーであり、黒ケープを人気に導いた第一人者のような存在だという。


●ヘアマスカラ市場は「戦国時代」に


 ケープの前髪マスカラの発売以降、市場には類似商品があふれ、香り付きやデザイン性に凝った企画商品なども登場。「ヘアマスカラ戦国時代」とも言えるほど市場が拡大している。そんななか、どのように売り上げを伸ばしていくのか。


 「前髪マスカラをはじめ、『黒ケープ』シリーズは汗や湿気に強い特徴があります。そこで、『汗をかきやすい体育の日は黒ケープ』『梅雨の時期は黒ケープ』など消費者の具体的な悩みに対して、黒ケープの強みを訴求したいと考えています」(松宮氏)


 ケープは2026年に発売50周年を迎える。昔からある商品なので、利用者の年齢層が高いと思われがちだが、新規購入者の多くは10代だ。近年は、子どもの利用がきっかけで保護者も購入するようになる「親子消費」の動きも見られるという。


 引き続き、「こんな商品があったらいいのに」という声に真摯(しんし)に応えていくことで、愛用者との絆を深めるブランドを目指す方針だ。


 花王のロングセラー・ケープの快進撃は続いていくか。


(小林香織、フリーランスライター)



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