
「本っ当に気持ち悪い」
40代の小学校教諭ユキコさん(仮名)は、軽蔑(けいべつ)混じりの口調で悩みを吐露する。教室で男子児童から受ける卑猥(ひわい)な言動の数々。男性器や女性器について笑いながら声に出し、女性教員や女子児童の反応を横目でうかがう。そんな振る舞いにセクハラ被害と変わらない不快感を抱きながらも、教諭という立場上、平静を保ち対処するしかないのが実情だ。兵庫県の公立小学校で教壇に立つユキコさんに話を聞いた。
【前編】「『入れる』『感じる』性的発言で盛り上がる男子小学生『本っ当に気持ち悪い』苦悩する女性教員」から続く
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問題行動の中心にいるのは「性的な発言してもクラスで立場が揺るがない、存在感がある男の子たち」。中には家庭や習い事では極めて「良い子」という児童もいる。そんなスクールカースト上位の男子児童たちの影響で、ほかの子どもたちにも性的な言葉で面白がる雰囲気が広がりつつあるとユキコさんは感じている。「気持ち悪いのは、男子の集団的な雰囲気です。セクハラ的な言動を注意するどころか、クスクス笑って同調する同級生たち。『ここは笑っておかないとあかんよな』というあの感じです」
子どもたちの手前、あくまで教師として対応するが、心の中では「キモいとしか言いようがない」と不快感がわだかまっている。立場上、自分をセクハラの被害者とみなす気にはなれず、「そもそも先生になる人というのは、このくらいではめげないのかな」と話す。同僚の若い女性教諭たちも職員室で「あのキモいのどないかならんのかな」と漏らしながら、感情を抑えて指導に当たっているという。
男児の言動そのもの以上にユキコさんの心に重くのしかかっているのは、周りで沈黙を強いられる女子児童たちの姿。自分だけでなく、教え子の女子児童も不快な言動にさらされていることに、女性教諭の二重の苦悩がある。そこに日本の先生たちの多忙で過酷な労働環境という要素が加わり、身動きを取るのが難しい状況に陥っている。
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「騒いでいる男の子たちの陰で、うつむいて我慢している女の子たちがいる。教師が男の子の性的言動にどう対処するか。見本を示すことがすごく大事だと思っているけど、(性的言動が)あまりに日常茶飯事でいちいち指摘すると、反論されて余計に(授業進行が)ややこしくなる。最近は授業時間に余裕がないので、どうしても進行を優先してしまいがち。そんな時、『自分は彼女たちの期待を裏切っているのでは』と考えてしまう」
「女の子たちに、あの嫌そうな表情をさせたくないです」とユキコさん。教員間で問題意識を共有し、当事者の男児や保護者に働きかけてもいるが、「いろんな課題が絡んでいて、これをすればすぐに解決するような答えがない気がします」とも語る。
スマートフォンやパソコンが普及した現代の子どもたちは、親世代と比べてはるかに性的な情報に触れやすい環境にいる。こども家庭庁の2023年度の調査によれば、小学生の98%がインターネットを利用。今日ではネットと断たれた状態で生活する小学生はほとんどいない。
ユキコさんの学校で不適切な性的言動をする子どもたちも、どうやらスマートフォンから性に関する中途半端な情報を得ている様子だという。フィルタリング機能には限界もあり、アダルト向けでないサイトであっても、例えば性的な表現の広告が突然現れることがある。教諭たちだけでなく、保護者も悩んでいるというのがユキコさんの受け止めだ。
「私は決して性的なコンテンツが全部だめと思っている人間ではありません。それでも、小学校の時に間違った振る舞いや知識を身に着けた子どもはどんな大人になるんやろうと心配になります」。同僚たちとも職員室でそんな話をしているという。
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(神戸新聞 那谷享平)