焼肉店の倒産が過去最高。「牛角」「安楽亭」「焼肉ライク」が苦しむ中、“一人勝ち”するチェーン店が。明暗が分かれたワケ

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2025年05月01日 09:20  日刊SPA!

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焼肉きんぐ
 帝国データバンクによると、2024年度の焼肉店の倒産件数は55件。過去最高を更新しました。出店ラッシュと食材価格の高騰で経営環境は厳しく、大手チェーンの閉店も目立つようになっています。
 本記事では中小企業コンサルタントの不破聡が、明暗が分かれる焼肉店の現状をレポートします。

◆なぜ牛肉価格は高騰したのか

 焼肉店は原価率が40%程度と、居酒屋などほかの飲食店と比べて割高なのが特徴。輸入牛肉の高騰は痛手でした。2024年度の輸入牛肉の人気部位は2020年度比で1.8倍程度にまで上がっています。人気のタンは一時2倍近く上昇するなど、焼肉店の頭を悩ませてきました。

 牛はもともと鶏や豚などと比べて育成期間が長く、価格は高くなりがちでした。そこに、世界最大の生産地の一つであるアメリカで干ばつが頻発。牧草が慢性的に不足し、畜産農家が生産頭数を減らしたのです。そして日本ではインバウンドも相まって、牛肉の需要が急増しました。特に希少部位であるタンは日本だけでなく中国でも人気となり、取り合いとも言える状況になりました。さらに円安による購買力の低下も価格高騰に拍車をかける結果となったのです。

 野菜の価格高騰も深刻な影響でした。キャベツは一時、平年の3倍程度まで上昇。猛暑と少雨が影響したと見られています。人件費、水道光熱費、どれもこれもが上昇する中で、これらの負担が収益性を圧迫した結果、閉店を余儀なくされる焼肉店が続出しました。

 集客においては、ひと段落した印象です。日本フードサービス協会によると、2024年の焼肉店の客数は前年比3.4%の増加でした。しかし、2025年3月の客数は1.7%減少しています。

◆顧客至上主義をやり切った「焼肉きんぐ」が一人勝ち

 人気焼肉チェーンが急拡大するきっかけを作ったのは、コロナ禍かもしれません。“一人焼肉”という新たな業態で勝負をしかけた「焼肉ライク」、各テーブルにレモンサワーのサーバーを設置した斬新なスタイルの「ときわ亭」が、短期間で100店舗を突破。

 コロナで居酒屋は大苦戦を強いられた一方、焼肉店は好調が続きました。しかし、居酒屋の需要が回復するに伴い、焼肉店が勢いを失ったのは皮肉なものです。

 データ提供サービスを行う日本ソフト販売は、焼肉チェーンの店舗状況を調査しています(「【2024年版】焼肉チェーンの店舗数ランキング」)。それによると、「焼肉ライク」は94店舗から84店舗に減少、「ときわ亭」は109店舗から98店舗まで減りました。2つともに100店舗を下回っています。

◆大手チェーンでは「焼肉きんぐ」が独り勝ち

 大手チェーンも苦戦しています。国内トップの「牛角」は571店舗から520店舗、「安楽亭」は153店舗から141店舗。いずれも1割近い減少です。大手の勝ち組は「焼肉きんぐ」だけと言ってよく、306店舗から325店舗へと唯一増加に持ち込みました。

 大手焼肉チェーンの多くは、低価格化が進む中で店舗オペレーションを効率化する方向へと舵を切りました。しかし、「焼肉きんぐ」は顧客満足度を高めることに注力します。各テーブルの焼き加減を見るスタッフ「焼肉ポリス」は、その典型的な例と言えるでしょう。

 顧客満足度を突き詰めた「焼肉きんぐ」の戦略勝ちでした。そして、人手不足という世の流れの中でそれをやり切ったことが、成功の一番のポイントだと言えます。

◆「牛角」の栄枯盛衰

 倒産や店舗の大量閉鎖は事業者にとっては負担の重いものですが、消費者にとっては業界の新陳代謝が進んで美味しいものが食べられる、よりよいサービスが受けられる、手頃な価格になるなどのメリットが得られます。

「牛角」が渋谷でフランチャイズ1号店をオープンしたのが1997年。当時、焼肉店は高級なものというイメージがあったはず。「牛角」は食材の下処理や仕込みを外注化し、アルバイトでも店舗運営ができる体制を整えます。効率化を図って安く提供することに徹したのです。人件費を抑えて質の高い肉を安く提供したことが大躍進を支えました。

 しかし、2001年にBSE問題が顕在化。牛の脳組織が損傷し、異常行動を引き起こすという症状は国民を不安にさせました。これによって焼肉店に逆風が吹き荒れました。焼肉店などの安心・安全への取り組みが奏功して騒動が収まったのも束の間、2003年にアメリカでBSEが発生するという最悪の事態に見舞われます。これにより、アメリカ産の牛肉が輸入できなくなったのです。「牛角」は2004年に800店というピークを迎えましたが、緩やかに数を減らすこととなります。

◆安さ以上の“付加価値”を求めるからこそ…

 BSEをきっかけとして、消費者は安さ以上の付加価値を求める傾向が強まりました。「焼肉きんぐ」が1号店をオープンしたのが2007年。当時の焼肉食べ放題は顧客が食材を取りに行く方式が一般的でしたが、スタッフが飲み物も含めてすべて運ぶサービス力も支持を得た理由の一つでしょう。

 小さな子供を連れている場合、頻繁な移動は手間がかかります。女性(母親)が肉を取りに行くことも多く、ゆっくり食事を楽しめません。「焼肉きんぐ」のサービスはファミリー層に喜ばれました。

 2011年には焼肉チェーン「焼肉酒家えびす」で集団食中毒が発生。運営会社は破産し、生レバーの提供は禁止されるという大問題に発展したことは焼肉業界にとって大きな転機に。

 これを境に焼肉店の衛生管理の徹底化が図られることになります。不衛生な店舗は淘汰されることとなったのです。そして今、かつてないほど食材や人件費、エネルギー価格が高騰しています。その時代に最適化した、新たな焼肉チェーンが誕生するかもしれません。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • 女性客を対象に全品半額とか下らんキャンペーンなんかやってりゃ当然苦境に立つことになるよね 商売は誠実にやるべきだ
    • イイネ!1
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