
『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(51)
NECレッドロケッツ川崎 廣田あい
「自分のよさであるオフェンス力を、自信をもって見せられるように」
女王NECレッドロケッツ川崎のアウトサイドヒッター、廣田あい(21歳)は言う。全身をしならせて打つスパイクが彼女の代名詞だ。
長身で、肩や太ももにしっかりと筋肉がついているが、顔は小動物のようで、白いTシャツにはカワイイ熊がプリントされていた。バレーボール選手の威風と、21歳の女性のかわいらしさのギャップが、今の彼女の姿か。
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「(今後に向けて)ひとつ殻を破らないと、ですね。"自分なんか"って思う自分もいましたけど、そう思っていても、それ以上の選手にはなれない。まずはコートに立ち続けて、チームのエースにならないと。今までは『代表を目指して』とも言わなかったですが、目指すところが変われば言葉も変わると感じています」
変貌を遂げつつある廣田の、バレー人生の始まりは微笑ましかった――。
廣田は千葉県柏市で生まれ育ち、多くのバレー選手を輩出した名門、東金町ビーバーズに5歳で入団した。
「最初は何も考えずに兄と姉の練習についていって。バレー以外にもフラフープやマット運動とかをやって、それでお菓子をもらえたので、『じゃあ、入る』って(笑)。お菓子は、チョコ棒が好きでした」
彼女は照れたように笑うが、入団後の練習は厳しかったという。
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「下級生、上級生に分かれた練習では、4年生以下のほうの最上級生になった時がめちゃしんどくて。すぐワンマン(ひとりでコートを守り、ボールに食らいつく練習)になるし、自分は怒られる役でした。きつくて帯状疱疹ができて、『小学生でできることなの⁉』って思いましたよ(苦笑)」
合宿では朝食前からダッシュ、ワンマン、宿舎から体育館まで走る猛練習。夏は食欲が湧かなかったが、無理矢理でも食べた。
「それが当たり前と思っていたんですけど、今思うとすごいですね」
廣田は苦笑を浮かべるが、中高一貫の文京学院大学女子中学では身長が一気に伸び、日本一になった。中学3年では無敗。JOC杯も優勝した。
「やるぞ、ビーバーズ日本一!」
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みんなで唱和していた思いが結実した。
「ビーバーズは技術的なものよりも、挨拶や礼儀作法とか、"人間性を教える"ことを重視していて。中学に入り、他チームの人と一緒になった時、『ビーバーズでよかった』と思いました。例えば、声を出す、仲間を大切に思う、人のためにプレーする、といったことを叩き込まれたので」
ただ、高校時代はコロナ禍に翻弄された。夏の練習はマスクが必要で、顔に張り付き、絞ると汗がポタポタとこぼれた。
高校2年時は半年間以上、休部状態だった。個人的に開放されている体育館を探し、兄と船橋の施設に行ったりした。また、同じ東京の八王子実践高校の選手とは親しく、泊りがけで練習しに行ったこともあった。
「でも、春高バレーはいい思い出がなくて......。当時は"春高"の文字を見るだけで嫌でした。高1では予選1位でしたが、本番前に大きな捻挫をしてしまって。高2では出場できましたが、1回戦で敗退。高3では予選で、あと一歩のところで負けてしまいましたし」
ただ、才能自体は関係者の間で高く評価されていた。高3に上がった時点で、複数のチームからオファーが来ていたという。そのひとつがNECだった。サイドとしての跳躍力や打点の高さ、将来性が高く買われた。
そして、日本代表でも絶対的エースだった古賀紗理那というスーパースターとチームメイトになっている。
「紗理那さんはオーラが違いましたね。トップの選手とやれる機会はなかなかないし、一緒にいるうちに学ぼうと思いました。私が人見知りで、半年以上ほとんど喋れなかったんですけどね(笑)。でも、聞いたら絶対に答えてくれるし、アドバイスももらえて、『すごくバレーについて考えているんだな』と思いました」
1年目に、一緒にコートに立ったことを覚えている。ルーキーの廣田は、目の前のことで精いっぱいで、試合中に声をかけられても反応できなかった。その日のミーティング終了後、古賀に「一個、聞いていい? 試合中、なんで返事しないの?」と言われてドキっとした。口ごもりながら、「周り見えなくなっちゃって」と説明したが......。
「『聞こえているなら返事をしてほしい』と言われました。最初は怖かったです。でも、"自分はコートで視野が狭くなりやすい"という大事な気づきになりました。それは今も覚えています」
そう振り返った廣田は、進むべき道が見えている。
「自分の持ち味は爆発的オフェンス。一本のスパイクで勢いをもたらす、流れを変えられる選手になりたいです。地道に細かいプレーでチームを支えるタイプではないので、"この一本を絶対決める"というところを見せられるように」
苦難を乗り越えてきた彼女の覚悟だ。
【廣田あいが語る『ハイキュー!!』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力とは?
「試合までの過程、お互いの会話の感じとかも、『こういうことあるな。わかるな』って思いますね」
――共感、学んだことは?
「(春高の烏野vs稲荷崎で)田中(龍之介)がなかなか決められず、『下を向いている暇はあるのか』というシーン。自分もレフトで、苦しい場面でもトスが上がってくるし、百発百中決められる選手はいないんですけど、『ここは決めたい』って時に決まらないと、すごいストレスになる。"決まらずに苦しんでいる"って周りが感じているのも嫌なんですよ。いつも明るい田中でもそうなんだって思いました」
――印象に残った名言は?
「音駒の猫又(育史)監督は名言が多いですね。『強さを手に入れる為に求めるのは安定か ――それとも進化か』とか。猫又監督が烏野の小さな変化に気づくのが好きです」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「1位は音駒の黒尾(鉄朗)ですね。チャラそうに見えて、仲間のひとりひとりを理解して、(孤爪)研磨に対しても『ゲームで敵を倒した時と同じ表情していた』とか、そういう変化に気づけるのがいいなって。2位は音駒の夜久(衛輔)さん。プレーが好きで、目立たないけど"そこにいる"のが格好いい。3位は猫又監督で、さっきの言葉や、『強いスパイクを打てる方が勝つんじゃあないんだ ボールを落とした方が負けるんだ』とか、静かに腑に落ちることを言うのがいいですね」
――ベストゲームは?
「音駒が好きで、『――俺達は血液だ 滞り無く流れろ 酸素を回せ "脳"が 正常に働くために』って声懸けもいいですね。飛び抜けたエースはいなくてもチームでつなぐ感じで......やっぱり烏野との"ゴミ捨て場の決戦"が最高です! 映画も感動しました。昔からの因縁で熱くなるし、練習試合などでお互いのことを知っているのも。私も高校時代は、共栄学園と毎週のように試合をしていたので、"戦友"っていうか、いい関係でした」
(連載52:東レ静岡の山口拓海は烏野の武田一鉄の言葉に「奮い立つ」 リベロとして目指すのは「陰の立役者」>>)
【プロフィール】
廣田あい(ひろた・あい)
NECレッドロケッツ川崎
2003年8月23日生まれ、千葉県出身。175cm・アウトサイドヒッター。兄と姉の影響で、5歳で東金町ビーバーズに入団。中高一貫の文京学院大学女子中学校に進学し、3年時には無敗という快挙を達成。東京都代表としてJOC杯も制した。高校ではコロナ禍のなか、春高バレーにも出場するなど活躍。U18世界選手権大会にも出場している。2022年、NECレッドロケッツ川崎に入団した。