
『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(田中渓著/徳間書店)では、元ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクターの田中渓氏が熟知する「富裕層マインド」を余すところなくお伝えしています。
今回は本書から一部を抜粋し、豊かに生きるヒントが詰まった「億を超える人」の不動産についての考え方を紹介します。
不動産は「一生に一度の買い物」ではない
「不動産は一生に一度の大きな買い物」というメンタルブロックのある富裕層に、僕は会ったことがありません。それは、富裕層が家のひとつや2つ平気で買えるお金持ちだからではありません。多くの富裕層は、金融リテラシーがきちんと身についているため、不動産は流動性のあるものとして買ったり、そのための借金をしたりといったことに不安感や抵抗感を抱く必要がないのです。よくある「不動産は分譲と賃貸、どちらがお得ですか?」という質問に対しても、富裕層の答えは「分譲か賃貸かは問題ではなく、物件次第で決める」というケースが多いでしょう。自分が住みたいと思うことが最優先で、住みたいと思った家が分譲しかなければ買うし、賃貸しかなければ借りる。分譲で買ってしまっても、ライフステージの変化や転勤等の理由で引っ越しが必要になるなら、「貸せばいい」「売ればいい」と不動産について極めてカジュアルにとらえています。
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分譲・賃貸それぞれにメリットがある
それ以外にも分譲の投資性や貸しやすさ、売りやすさについての分析はしますし、会社の制度によっては賃貸の場合の税務メリットを享受できるケースもありますので、「分譲対賃貸」みたいな極論で考える必要はないと思います。もちろん、コベナンツ違反には気をつけなければいけません。コベナンツとは、融資契約をするときに契約書に記載される債務者側の義務や制限などの特約事項のこと。たとえば、住宅ローンの場合、「自分が住むことを前提にお金を借りたのに、自分で住まずに誰かに貸すのは契約違反だ」と制限されるケースもあるので、不動産投資をするときには注意が必要です。
富裕層だけが知ることができる物件
「富裕層の間でしか出回らない不動産物件って、本当にあるの?」と聞かれることがあります。これに対しては、「たしかにあります」とお答えしています。富裕層だけが知ることができる不動産物件のパターンは2つあります。
ひとつは、セレブ感溢れる豪奢な物件で、住んでいることがステータスになるようなものです。このパターンは、ハイブランドのお店の常連客だけが通される部屋でプレミアムのついた商品をおすすめされるようなもの。「安く買って貸したり売ったりして儲けよう」という主旨のものではありません。
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意思決定の速さ
なぜ、富裕層の間でしか出回らない物件が存在しているのか? それは、不動産物件を売る側の立場で考えるとわかりやすいでしょう。たとえば、富裕層は意思決定が速いことに加え、不動産の取引に慣れている人が多く、物件を紹介するとその場ですぐに「じゃあ、買いましょう」となるケースも少なくありません。しかも、ローンの審査が下りないリスクはほとんどないので、確実に売れます。こうして優良案件は市場に出回る前に富裕層が押さえてしまいます。
富裕層を担当する営業マンとしても「手っ取り早く、ものすごい額の手数料が確実に手に入る」ということになります。一般の人に5000万円の物件を10戸販売するのは時間と手間がかかりますが、今すぐ富裕層が5億の物件を1戸買ってくれるなら、迅速に儲けることができます。浮いた時間でまた別の富裕層に優良案件を紹介して、一般の人を担当する営業マンよりも大きく儲けることができます。
営業マンとのつながり
富裕層の多くは気に入ったひとりの営業マンに絞ってお付き合いをすることが多いのも特徴です。大きな金額の取引を継続的にできる富裕層は不動産会社にはメリットが多い分、大切に扱われるもの。いい物件を富裕層に紹介することで、不動産会社のリターンも大きくなるのです。
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田中渓 プロフィール
1982年横浜出身。上智大学理工学部物理学科卒業。同大学院中退後53回の面接を経て、ゴールドマン・サックス証券株式会社に2007年に新卒入社。同社でマネージング・ディレクターに就任し、投資部門の日本共同統括を務め、2024年に同社を退社。在籍17年間で20カ国以上の社内外300人を超える「億円」資産家、「兆円」資産家、産油国の王族など超富豪などと協業・交流をする中で、富裕層の哲学や思考、習慣などに触れ、その生態系を学ぶ。(文:田中 渓)