政府・金融庁が検討を進める「プラチナNISA」、すなわち高齢者向けNISAの導入構想が注目を集めている。
【画像】金融庁による、20年間積み立てした場合の「シミュレーション」
高齢者層が保有する金融資産は、全体の半分以上に相当する1000兆円超とされているが、その多くがいまだに預貯金として眠っている。この「動かない資産」を市場に呼び込むことで、企業が資金調達を円滑に行う土壌をつくりたいというのが、政府の基本的な狙いだろう。
年金に上乗せする収入源としての活用も視野に入れたこの制度は、一見すると高齢者の生活支援として合理的にも思われる。
しかし、その設計にはNISA制度本来の理念との齟齬(そご)もある。
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●「毎月分配型投信」は長期投資に不向き?
NISA制度本来の理念との齟齬、それは、「毎月分配型の投資信託」を「長期・積み立て・分散」投資を基本としていたNISAの対象に含めようとしている点だ。
実際、金融庁は同庁作成の資料「早わかりNISAガイドブック」の中で、長期投資は「20年以上の積立で安定した運用益が期待できる」という旨のシミュレーション結果を出している。
しかし20年以上という長期の運用は、高齢者にとっては現実的でないケースもある。運用期間が短くなれば、それだけ元本割れリスクも増えることになる。
そこで、売却益を軸にした資産形成ではない手段として、毎月分配型投信の解禁が模索されているというわけだ。
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●「非課税の箔」で社会問題が再燃する恐れも
しかし、毎月分配型投信には根本的な問題がある。それは、運用益以上に分配金を払うことによって元本を切り崩す「タコ足配当」が起きる可能性があることだ。
毎月分配型の投資信託は見かけの配当利回りは高いが、それに惑わされ、資産が実質的に減少してしまったら長期的な生活設計をあやうくしてしまう。
またこうした投資信託は往々にして信託報酬が高く、販売サイドの収益確保の観点から「販売に都合の良い商品」として扱われてきた。こうした批判もあってか、旧NISA制度下では対象から除外されていたのだ。新NISA制度においてはさらに厳しく、成長投資枠においても毎月分配型の投資信託が除外されるほどであった。
そんな「長期投資に向かない」として排除されてきた毎月分配型投信。それが、あえて高齢者向けのプラチナNISAで復活するのはいかがなものか。
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高齢者の場合、若年層と違って将来の収入で損失を挽回するチャンスは乏しい。その資金が毎月分配型の投信に向けられることは危険ではないか。
毎月分配型の投信に「非課税の箔」がつくことで、過去に繰り返された証券会社による高齢者への押し売り問題も再燃する懸念もある。
●「商品ありき」の制度設計では失敗する
制度設計に当たっては、単に年齢などの属性に応じて商品を振り分けるのではなく、資産運用の本質を踏まえたアプローチが求められる。
例えば、高齢者であってもリスク許容度の高い層は一定数存在する一方で、現役世代であっても生活資金の大半を投資に充てることは望ましくない。
必要なのは、年齢や所得といった属性ではなく「どのような目的で・どのくらいの期間・どの程度のリスクを許容できるか」という三軸から投資設計を支援する仕組みの整備ではないだろうか。
プラチナNISAを成功させる対案としては「商品」ありきの制度設計ではなく、「取り崩し」という仕組みをベースとした制度設計である。
既にSBI証券や楽天証券などが実装しているように、「あらかじめ定めた比率や金額に基づいて資産を徐々に取り崩しながら運用する」という自動取り崩しを制度設計に含めたり、一定額を定期的に債券などの低リスクファンドにリバランスするようなシステムをプラチナNISA口座の仕組みとして標準化したりする方がはるかに理にかなっているのではないだろうか。
NISA制度は本来、国民一人一人の資産形成を支援する公的インフラであったはずだ。制度が複雑化するほど、その空白をついて不適切な商品や営業行為が忍び込む余地が生まれる。政府に求められているのは「信頼できる金融商品を責任をもって選定し、長期的な資産形成ニーズを満たす環境づくり」ではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。
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