ETC障害で大渋滞、それでも「通行料は払って」 高速道路会社の“謎理論”

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2025年05月02日 09:40  ITmedia ビジネスオンライン

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いつものドライブが一転、思わぬトラブルに

 4月6日、NEXCO中日本管内の高速道路料金所でETCのシステム障害が起こり、94万人のドライバーが足止めを食らう大渋滞が発生した。まったく車列が動かない状態が続いたことで、ドライバーや乗員は空腹や喉の渇き、トイレに行けない不便さ、疲労の蓄積、足止めによる損失など、さまざまな被害を受けた。


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 事の始まりはETCのシステム障害(しかも原因は深夜割引の改悪のためだとか)ではあるが、考えてみれば今の高速道路行政のゆがみが、さまざまな面で浮き彫りになっている。


 今年のゴールデンウイークはいわゆる“飛び石連休”だが、企業によっては11連休にしているところも珍しくない。この間、たくさんの人の移動が予想される。さまざまな観光名所を誇る地域では、インバウンドだけでなく、国内旅行を楽しむ日本人も多いだろう。


 高速道路各社は、利用者を増やそうとさまざまなドライブプランを提案している。例えば、サービスエリアやパーキングエリアで利用できる買い物券付きのドライブプランや、観光施設や宿泊施設の利用クーポン付きのドライブプラン、特定エリアの高速道路が乗り放題となる周遊プランなどを展開している。


 だが、休日に高速道路を利用してもらうためにドライブプランを提案しながら、大型連休や3連休は休日割引を適用外とするような方策を採っているのは、いささか矛盾しているとも思えるのだ。


 帰省の時期や大型連休に長い渋滞の発生を抑えよう、という意図は理解できる。だが高速道路とは、そもそも時間と燃料を節約するための移動手段であるはず。利用者を抑制するために値上げするのは、ある程度は効果があるだろうが、高速道路の割引が利かないからといって帰省や行楽を諦めるドライバーがどれほどいるだろうか。


 そう思ってしまうくらい、高速道路各社の提案や施策は稚拙だと感じてしまう。やはり、道路公団時代の“親方日の丸”的な体質が今もなお残っているのでは、と思わされるのだ。


●有料期間ははるか先の2115年まで


 高速道路は当初、建設費を通行料金で償還していく方法が採られていたが、それでは需要の高い路線しか建設されなくなってしまう。過疎地でも、高速道路建設によって生まれる新たな需要や観光資源が見込まれることから、全国の建設費を通行料でまとめて償還する「料金プール制」が導入された。


 高速道路料金については償還期限を何度も延ばし、現在は2115年というはるか未来まで延長されている。「いつかは無料になる」と言われて通行料金を支払い続けてきたドライバーを愚弄(ぐろう)するようなものではないだろうか。


 こうして償還期限が先延ばしにされれば、実質的には、永遠に無料にならないのと同じではないだろうか。


 日本の有料道路でETCが導入されたのは2001年のことだ。大型連休や帰省のシーズンは料金所を起点に長い渋滞が発生することから、海外ではすでに導入されていたノンストップ料金収受システムの導入が長年検討されていたが、なかなか実現しなかった。


 ちなみに日本でETCの導入に時間がかかったのは、クレジットカードとチケットによる支払いが定着していたことと、偽造紙幣などの問題が少なかったという背景があった。また、見方を変えると、欧州では区間ごとではなく、全区間あるいは年間で固定の料金設定が一般的だったことから、日本のETCほど高度化する必要がなかったのだ。


 しかしプリペイド式のハイウェイカードに偽造問題が発生したこともあり、渋滞解消を目的にETCは導入された。


●ETC障害に伴う「料金支払い要求」は残念


 2005年に日本道路公団が分社化、民営化されても、その体質はなかなか変わらないようだ。冒頭のETCシステム障害においても、94万人ものドライバーが迷惑を被ったのに、形だけの謝罪の後に、料金の支払いを求める方針を示すのは、極めて不適切な対応である。


 高速道路の目的は、通行料金を徴収して建設費を償還していくことではなく、ドライバーに安全で快適な移動を提供することであるはず。であれば、ETCがシステム障害を起こしたら、即座に入口を通行止めにし、出口を無料開放して渋滞を解消させるべきだが、こうした不具合発生時の対応マニュアルが存在しなかった。


 件のETCシステム障害による大渋滞で、実質通行止めの最中に路上に寝そべった、中国人女性のSNS投稿は褒められたものではない。だが、それを余裕で行えるほど、動かない渋滞を作ったNEXCO中日本にも責任はあるのではないか。


 そうなると、引き続き料金の支払いを呼びかけていくというNEXCO中日本の対応ぶりが、本当に残念でならない。たとえ数万件の回収ができたとしても、かえって企業イメージを損なう結果となる。


 渋滞は交通集中や交通事故によっても起こるが、それらは利用者側が原因であり、途中のインターチェンジで一般道へとルートを変更することもできる。しかし今回、ETCレーンが動作不能に陥ったのは、NEXCO側が原因であり利用者に落ち度はない。しかも、渋滞が解消しない中、目的地ではない途中のインターチェンジでもETCレーンが開かず、出られない状態が続いたのだ。


 これは完全にNEXCO中日本側の瑕疵(かし)であり、ドライバー側は損害を被っているだけだ。仮に、経営陣の素早い決断と連絡によりETCゲートを開放していれば、94万人のドライバーは同社に感謝して、好意的な印象を与える機会にもなり得たのではないか。


●「利用者最優先」の姿勢を示すべき


 高速道路で課題を抱えているのはETCだけではない。つい先日もインターチェンジからの誤進入による逆走によって、悲惨な衝突事故が発生した。


 標識や看板による注意喚起だけでは逆走防止には限界があることは、以前から指摘されているのだから、ガードレールやポールによる物理的な障害を設けるなど、構造的に誤進入を防ぐ対策を講じるべきだろう。高齢ドライバーの認知機能低下だけでなく、クルマの運転や免許取得がより容易になってしまった弊害が出ているような印象だ。


 レベル2の自動運転(運転支援システム)が普及しており、高速道路で利用するドライバーも増えているが、肝心の道路は車線表示のペイントが薄れている箇所も多く、ステアリングアシストの動作が不安定になるケースもある。


 今回はETCのシステム障害が原因であったが、スマホの通信障害やアクセス集中によるサーバのダウンなど、通信技術を利用した大規模なサービスはその仕組み上、こうした障害やトラブルが起こり得る。だから、対応マニュアルを作成し、利用者を最優先とする姿勢を示すことが、本来あるべき姿ではないか。


 とりわけ高速道路は物理的に人を運ぶことから、安全性が問われるだけでなく、年々変化していく利用環境やドライバーの年齢層分布などに合わせた対策を進めていってほしいものだ。


(高根英幸)



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