限定公開( 1 )
子どもが亡くなった事故では、男児のほうが女児より賠償金の算定が高くなる傾向がある。だが、憲法14条は性別や身分による差別を禁じている。東日本大震災で犠牲になった子どもの「命の値段」を巡り、憲法の理念に沿った判断が示された裁判があった。
2階建ての校舎の壁や柱は破壊され、コンクリートからはひしゃげた鉄筋がむき出しになっている。
宮城県石巻市立大川小は今も「あの日」のままだ。
14年前の3月11日、ここで児童74人、教職員10人が東日本大震災の津波で犠牲になった。
「100億、200億円であっても娘の命には代えられません」。3年生だった長女未捺さん(当時9歳)を亡くした只野英昭さん(53)はつぶやいた。
|
|
只野さんら児童23人の遺族は、避難を巡る責任を問い、県と市に賠償を求めて2019年10月に勝訴判決が確定した。教育現場の防災のあり方が本格的に問われた裁判には隠れた論点があった。
「命の値段」の格差だ。
子どもが命を落とした事故では、国の統計を基にした平均年収推計に基づき賠償額が算定される。女性の社会進出が進んだとはいえ、平均年収は男性が女性より4割程度高い。生きていれば必要だった生活費を差し引く調整を経ても、男児のほうが100万円以上多くなることも少なくない。
大川小訴訟で審理の対象となったのは男児14人、女児9人。「慣例」に基づけば性別で命の値段に差がつくはずだった。
しかし、16年10月の仙台地裁判決は違った。「男女の雇用機会や賃金の格差は解消されることを前提とするのが相当」。大川小の被害児童たちが生き続けた将来を想像したのだ。
|
|
この裁判では、最高裁まで命の値段は男女で平等との考え方が取られた。戦後からの女性の地位向上を映すだけでなく、未来の社会変化を考えたこれまでにない判断だった。
只野さんは今後、「慣例」が変わることに期待する。「男の子と女の子で算定方法が一律に違うなんておかしいと思います。機械が壊れたわけじゃない。一人一人の人間なんです」 【巽賢司】
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 THE MAINICHI NEWSPAPERS. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。