5月4日、東京ドームで開催される格闘技イベント「RIZIN男祭り」を前に、同イベントを主催するドリームファクトリーワールドワイド(東京都港区)の榊原信行CEO(榊は正確にはきへんに神)が、ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。
今大会においてビジネス観点で注目されるのが、ペイ・パー・ビュー(PPV、有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム)の売り上げが、どの程度のものになるかだ。大会の模様はABEMA、U-NEXT、スカパー!、RIZIN 100 CLUB、RIZIN LIVEといった各プラットフォームが生中継する。
格闘技ビジネスでは、今大会と同様に東京ドームで5万6399人を動員し、那須川天心選手と武尊選手が闘った2022年6月の「Yogibo presents THE MATCH 2022」でABEMA PPVの売り上げが50万件を突破したことが大きな話題となった。PPVチケットの価格5500円×50万件で単純に計算してもPPVだけで25億円以上の売り上げがあったことになり、日本の興行史に残る記録となっている。
榊原CEOはインタビューで「PPV視聴数は今大会でも30万件は行くと思う」と言及しながらも、「PPV一本足的な商売では、コンテンツの継続的な安定は図れない」と言及。今後の事業成長について「より海外の配信プラットフォームとのパートナーシップを検討すべき時に来ている」など展望を明かした。
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また今回は当初「平本蓮 vs. 朝倉未来」という業界で人気のある選手のメインカードが平本選手の怪我によって消滅。最終的に「朝倉未来 vs.鈴木千裕」という対戦カードになり、マッチアップの組み直しにもプロモーターとしての苦悩があったという。その舞台裏を前後編で、お届けする。
●旗上げ10周年の節目で考えたこと
――4月26日の会見では「平本蓮 vs. 朝倉未来」という集客力のあるカードが消滅したことで、プロモーターとしての試練を迎えた」と話していました。動揺した部分もあったと思いますが、どうピンチを乗り切ってきましたか?
平本蓮選手が重篤な怪我をして出られないという状況が見えてきたときに、プロモーターとしては、2つの選択肢がありました。新たな対戦カードを用意して実施するか、大会自体を延期するかです。そこはもう、すごく迷いましたね。
2025年は、RIZINを旗揚げしてから10周年という節目の年です。この間、プロモーターとして、常にファンと向き合ってきました。どんなビジネスでも、信頼を守ることが全てだと考えています。もしこの大会を中止したら、恐らく「あんなに楽しみにさせておいて」という非難の声もたくさん出ていたと思います。
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エンターテインメントビジネスでは常に、何かあった時に、ファンの期待を超えるようなサプライズを求められます。そういうことを、私はこれまでのプロモーター人生の中でも常にやってきたつもりです。
東京ドームとの信頼を守る責任も大きいと考えました。延期して8月や10月に再び東京ドームという日本一の大箱をおさえられるわけがありません。紆余曲折がありましたが、最終的には、このタイミングで一番ファンがドラマチックに感じる、いい対戦カードが組めたと考えています。
――今大会ではどれぐらいのPPVの視聴数を目指していますか?
(格闘技業界で最も人気のある)朝倉未来選手の復活の試合で、(元王者の)鈴木千裕選手と対戦しますから、話題性があります。だから30万件くらいは普通に行くと思います。歴史的な興行となったTHE MATCH 2022が50万件でしたから、そこに迫れたらいいなと考えています。
――以前インタビューした際に、RIZINの通常の大会で平均PPVが10万件を超える規模になってきているとのことでしたので、30万件は的確なところかなと思います。THE MATCH 2022以降、PPVビジネスが定着してきたことによって、RIZINとしては興行をやりやすくなってきたのではないですか。
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私はPRIDEを開催していた時代から、お金を払ってメディアで格闘技を見てもらうことに軸足を置きながらPPVビジネスに取り組んできました。地上波はだんだん力を落としてはいるものの、いまだにプロモーション媒体としては訴求力があります。地上波で放送することによる放映権料は、当社事業の柱の一つではありました。
PRIDEの時代には、CS放送のパーフェクTV!(現在のスカパー!)さんで、PPVで試合を配信していました。ただ、視聴者は電話線をつながないと見られなかったですし、そもそも視聴環境を持っている人たちが30万人しかいなかったんですよ。だからPPVの視聴数も30万件以上になることはなかったわけです。
ところが時代は変わりました。インターネットによる視聴環境が整い、ABEMAやU-NEXTやRIZIN 100 CLUB、RIZIN TVなどの各プラットフォームに加え、海外向けのPPVビジネスも手掛けています。世界中のファンが「お金を払ってでも見たい」と思うコンテンツさえ作れれば、極論はPPVで100万人、いや1000万人に届けられるようになりました。だから市場環境としては、さまざまな国の人に青天井でリーチできる状況にはあります。
一方でビジネスを拡大していく経営者の立場で考えると、半年後や1年後を見据えた上で安定的な収入を得ることも大事になってきます。PPVは会場チケットを売るのと一緒で、興行ですから蓋を開けてみないと実際に30万件売れるのか、5万件しか売れないのかが分かりません。当日実施してみて初めて売り上げが分かるわけです。
もちろんわれわれがこれまで作ってきた実績やデータ、培ってきたファンのベースはありますから、おおよそのトップとボトムの売り上げは計算できます。ですが事業としては、ある部分すごく“しびれる商売”なんですよ。
つまりPPVに頼る「PPV一本足的な商売」では、コンテンツの恒久的、継続的な安定は図れないということです。
●世界的プラットフォームとの提携も視野に
――地上波テレビの支配力が強すぎた時代を過ぎて、PPVビジネスの定着が見えてきた今、また新たな課題が出てきているということですね。
われわれは2015年にRIZINを立ち上げ、最初の6年ほどは地上波のフジテレビと組んで、しっかりブームを作ってきました。その甲斐もありYouTubeやX、TikTokも含めたSNSでの発信力は、RIZINの選手だけでなく、プロモーション団体であるわれわれも持つことができました。
だから、いい形で(地上波の放映権料ビジネスからインターネットのPPVビジネスに)乗り換えられた感じではあるものの、ここから先のビジネスを考えた時には、配信プラットフォームなどとタッグを組んだサブスクリプションモデルなども模索する時期に来たと考えています。例えばPPVを売る大会と、PPVで勝負をせずに、配信プラットフォームと契約をして、サブスクなどできちんと配信権料を保証してもらう方法もあります。そうすると結果、当日に蓋を開けてみなくても、収入が保証されます。
もちろん結果的に、PPVで配信しておけば、配信権料で1億円の収入を得るよりも結果的に多くなることもあるかもしれません。ただ事前に、売り上げの見込みは確実に立つわけです。だから今後はPPVでの大会と、PPV以外の大会とをすみ分ける可能性もあると考えています。
もちろんPPVを30万件売ることは、すごいことです。しかしこれは裏を返せば、まだまだ30万件しか見られていないということでもあります。もっと多くの人に、広くRIZINに触れてもらうための施策を、今後は検討すべきと思っています。
――それは例えばABEMAやU-NEXTといった配信プラットフォームと、より緊密に連携するということですね?
今のRIZINのナンバーシリーズやランドマークシリーズといった通常の大会以外に、第3のシリーズをスタートすることも一案かもしれません。ただ配信プラットフォームとパートナーを組むという意味では、われわれコンテンツ側には今、追い風が強く吹いている状況です。Amazonプライム・ビデオは那須川天心選手のボクシングの試合を配信してきましたし、直近の5月5日には井上尚弥選手の試合も独占配信します。Netflixも今、スポーツコンテンツに力を入れています。多くの配信プラットフォームが、PPVのシステムを持つようになってきました。
今後われわれにも、そういうワールドワイドのプラットフォームと、PPVのビジネスパートナーとしてタッグを組む可能性が見え始めています。
(アイティメディア今野大一)
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