楽天モバイルの衛星通信が“ブロードバンド”を実現できる理由 Starlinkとの違いを「技術」「ビジネス」面から解説

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2025年05月03日 06:11  ITmedia Mobile

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楽天モバイルは、ASTの衛星を使ったRakuten最強衛星サービスを26年第4四半期に開始する予定を明かした。写真は発表会に登壇した三木谷氏

 低軌道衛星(LEO)を活用し、エリアを国土全体に広げる取り組みがいよいよ本格化している。KDDIは、4月に「au Starlink Direct」をスタート。auユーザー限定で、まずはRCSを含むメッセージサービスを開始した。夏以降には、衛星の拡充などに合わせてメッセージ以外のデータ通信も開放していく構えだ。現時点では、サブブランドには対応していないが、auユーザーであれば無料で利用できる。


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 Starlinkとの提携でサービスの早期導入に踏み切ったKDDIに対し、楽天モバイルは、創業時から出資していたAST SpaceMobileの衛星を使い、2026年第4四半期(10月から12月)に「Rakuten最強衛星サービス」を開始する予定を明かした。以前から導入は表明していたが、4月の発表会では日本での実験結果を披露するとともに、サービス名も公開した格好だ。では、楽天モバイルのサービスはKDDIとどう違うのか。技術面やビジネスモデルから、その差を解説していく。


●巨大衛星で電波を増幅、衛星でもブロードバンドを


 「ブロードバンドで面積カバー率100%を実現する」――こう語ったのは、楽天グループの代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏だ。直接名前こそ挙げなかったものの、これは競合のStarlinkを意識した発言。Rakuten最強衛星サービスが使うASTの低軌道衛星「BlueBird」なら、メッセージや低速のデータ通信ではなく、動画やビデオ通話もできるブロードバンドで国土全体をカバーできるという。


 三木谷氏も、「ブロードバンドなのでYouTubeの動画視聴やビデオ通話ができる」とそのメリットを語っている。これが可能なのは、「衛星が非常に大きい」(同)からだ。BlueBirdの面積は、展開すると約223平方メートルと巨大で、小型のStarlinkと比べるとスマホや携帯電話から発信された電波をキャッチしやすい。下りはもちろん、上りの電波もキャッチしやすいということだ。


 三木谷氏も、「ここが競合企業との抜本的な違い」と語る。実際、発表会では福島県で市販のスマホをBlueBird経由でネットワークにつなぎ、東京都の会場にいた三木谷氏とビデオ通話をつなげたが、映像や音声が途切れることはなかった。現時点では、打ち上げられている衛星が5基と少ないため、接続できる時間は限定されるものの、ASTではサービスインに向けてこれを50基に拡大していく方針。この数でも、1時間に4分程度は切断されるというが、ほぼ常時接続に近い状態になる。


 Starlinkの直接通信では、端末が接続する衛星が次々と切り替わり、その都度ハンドオーバーする必要があり、品質が低下しやすい。これに対し、Rakuten最強衛星サービスでは「ハンドオーバーも極めてスムーズ、あるいはハンドオーバーはほとんどしない」だという。これは、ASTのBlueBirdが、基地局ではなく、電波を中継するレピーターとして「電波を鏡のように反射させている」(同)からだという。そのため、端末側からは、1つの基地局に常につながっているように見える。


 衛星は常時移動しているが、電波を発射する角度をリアルタイムに変えていき、エリアを固定。これが届かなくなったら、次の衛星でエリアを作るという具合だ。Starlinkは衛星1つ1つに基地局の装置を乗せ、上空で信号の処理も行っているのに対し、ASTは受け取った信号をいったん地上に送る。信号を処理するベースバンドに相当する機能や衛星経由の信号を補正する機能は、全て地上局に備えられるという。


●既存の周波数をそのまま活用、本命はプラチナバンドか?


 レピーター型のメリットは、衛星用に周波数を分けるのではなく、「既存の周波数帯域をそのまま使用でき、ほぼ全てのスマホが利用可能になる」(同)ところにもあるという。実証実験は楽天モバイルのプラチナバンドである700MHz帯を活用。地上に設置された700MHz帯の基地局がまだまだ少ないこともあり、エリアが重なって干渉が起こるリスクを抑えられる。


 ただし、700MHzを使うかどうかは、「まだ決めていない」(楽天モバイル代表取締役共同CEO シャラッド・スリオアストーア氏)。「商用目的で1.7GHz帯と700MHz帯のどちらを使用するのかは、来年(2026年)決めることになる」(同)という。一方で、1.7GHz帯は楽天モバイルの既存の基地局が多く、広い範囲をまとめてカバーしづらい。


 発表会では、三木谷氏がプラチナバンドで建物内にも浸透することなどを強調していた点からも、この周波数帯でエリアを稼ぎたい思惑が透けて見えた。サービスインのタイミングも、KDDIのローミングが終了する予定の26年9月とぴったり合致する。ローミングが終了し、抜けてしまったエリアはASTの衛星でプラチナバンドを使ってカバーするというシナリオもありえそうだ。


 あとは衛星を打ち上げていき、国内の法整備が済めば、晴れて2026年の第4四半期にサービスインが実現する。まだ1年半近い時間が残されているが、早めにサービス開始を宣言したのは、ユーザーの期待感を醸成するとともに、衛星とスマホのダイレクト通信を商用化したKDDIやStarlinkをけん制する狙いも見え隠れする。


 一足先にサービス名称まで決まったRakuten最強衛星サービスだが、そのコストをどう回収していくかはまだ明かされていない。au Starlink Directのように、無料提供されるかどうかも未知数だ。三木谷氏も、「まだ悩んでいるのが正直なところ」だと打ち明ける。


 一方で、「サービスも単純なSMSだけができるものから、ある程度帯域を保証するサービスなど、いろいろな形が考えられる。Rakuten最強衛星サービスは第1弾、第2弾、第3弾と始めていくので、そのときにはさらに高速化することもできる」(同)というように、通信速度や利用可能なサービスによって、複数の選択肢を設ける可能性も示唆された。また、「災害時などには、楽天モバイルの契約者以外の方もつながるようにしたらいいと思っている」(同)として、他社のユーザーに開放する構想も明かされている。


●先行投資とシンフォニーでも収益を得る楽天、実現までの課題は?


 ただ、楽天モバイルの場合、衛星通信事業者と提携してサービスを使う一般的なキャリアとは違い、ある程度コストを回収しやすい側面もある。衛星の開発、運用を行うASTに創業時から出資しているからだ。楽天グループは、創業資金として300億円を提供しており、その出資比率は20%にも上っていた。その後、議決権比率は低下し、重要な影響力は失ったとしているが、金融資産としてASTの株を会計処理したことにより、2024年度第4四半期には1000億円の評価益を計上している。


 この時点でASTは持ち分法適用会社ではなくなっているため、売り上げや利益を直接楽天グループで計上できないものの、グローバルでサービスを始めるキャリアが増え、収益を上げられるようになれば、資産価値が向上する可能性はある。グローバルでは、米国のAT&TやVerizon、英国のVodafone、カナダのBellといった大手キャリアが戦略的パートナーとして参画しており、サービスが開始されれば、複数国での利用が始まる見通しも立っている。


 また、三木谷氏は「楽天(グループ)はファウンディング・インベスター(創業時の投資家)というステータスで、細かい契約は申し上げられないが、かなり優位性のある契約になっている」と語る。創業時から資金面だけでなく、技術面でもASTをバックアップしてきたことで、他社よりも有利な条件で衛星を使えるというわけだ。三木谷氏は、「それぐらい最初にリスクを取った」と自信をのぞかせる。


 もう1つの収益源といえそうなのが、楽天シンフォニーだ。楽天モバイルが「ゲートウェイ地球局」と呼ぶ地上側の設備には、楽天シンフォニーのソフトウェアが活用されている。通常の地上に設置した基地局とは異なり、衛星特有のドップラーシフト(移動の速度によってサイレンの音などの波長が変化して観測される現象で、電波にも当てはまる)や遅延の補正などを行う処理も入っているという。この設備を他のキャリアに提供することでも、収益を得られる。


 他のベンダーでも実現は可能だが、三木谷氏によると、「彼ら(海外キャリア)の地上局のOpen RANのソフトウェアは、できれば楽天シンフォニーにしてくださいというお願いをしている」という。ASTのサービスが商用化されたのを機に、楽天シンフォニーのビジネスを加速させることも「狙っていきたい」(同)という。ユーザーにサービスを提供しつつ、ASTから投資のリターンも得られたうえに、楽天シンフォニーの成長にもつながる――楽天グループは、1粒で3度おいしいビジネスモデルを描いているといえる。


 もっとも、実際にサービスインできなければ、こうしたビジネスモデルも絵に描いた餅になってしまう。まずは、現在5基の衛星をいかに増やしていくかが急務といえそうだ。また、スムーズなハンドオーバーなどの特徴も、現状では衛星の数が少なく、商用環境で実証されたわけではない点にも留意が必要だ。仮にプラチナバンドを使った場合、帯域幅が狭いため、三木谷氏が語っていたような動画視聴などができるのかも未知数といえる。約1年半後というとかなり先のことのようにも聞こえるが、残された時間は少ない。



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