【MLB】大谷翔平を擁するドジャースは高年俸だから強いわけではない 倹約球団パイレーツの実況アナウンサーが語る球団格差の本質

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2025年05月03日 18:20  webスポルティーバ

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前編:メジャーリーグ球団の実力格差の本質とは?

昨シーズンの王者ロサンゼルス・ドジャースはケガ人が続出するなかでも、4月終了時点で30球団中トップの成績を収めている。確かにドジャースは選手への投資を惜しみなく行ない、総年俸は高額だ。しかし、それが実力差の原因になっているのだろうか。

倹約球団ピッツバーグ・パイレーツの実況アナウンサーは、チームが成功を収めるために必要なことを現実的に指摘する。(文中は1ドル=150円換算)

【ドジャースと対照的な倹約球団パイレーツとマーリンズ】

 ロサンゼルス・ドジャースがまた勝った。4月25日(日本時間26日)から5月1日(同2日)までホームで行なわれたピッツバーグ・パイレーツとマイアミ・マーリンズとの6連戦で5勝1敗。戦力の差は、スコア以上に明白だった。

 ドジャースは、ぜいたく税(球団の年俸総額が規定額を超えた分に課される課徴金)を含めると今年のチームに4億7600万ドル(714億円)を投じている。一方、パイレーツとマーリンズは極端な倹約主義を貫く球団で、それぞれ9028万ドル(135億4200万円)と6900万ドル(103億5000万円)にとどまっている。

 結果は予想どおりだった。ただ、問題はその「予想どおり」が試合そのものの面白さを奪っているということだ。6試合中2試合は接戦だったが、残る4試合は8対4、9対2、15対2、12対7と、大差がついた。野球がプロスポーツである以上、ファンが求めるのは一方的な試合展開ではなく、緊張感と高揚感に満ちた拮抗したゲームであるはずだ。

 パイレーツの地元ファンは、ボブ・ナッティングオーナーに対し「チームを売れ」と迫っている。ナッティングがオーナーとなってからの19年間で、開幕時の年俸総額が30球団中26位以下だった年は実に17回に上る。とくに今年は、ポール・スキーンズら若く優れた投手が台頭しており、打線を強化すれば勝つチャンスは広がるはずだった。まさに「勝ちにいくべきタイミング」だったが、球団が契約を結んだのは峠を越えたベテラン野手との1年契約のみ。そんな姿勢に、ファンの不満は敵意へと変わりつつある。

 マーリンズも深刻だ。MLBには収益分配制度があり、スモールマーケットの球団はビッグマーケットの球団が稼いだ収益を分配してもらえる。ただし労使協定(CBA)では、球団が受け取った収益分配金をチームのフィールド上のパフォーマンス向上に使用することが義務づけられている。また球団のぜいたく税換算の年俸総額(通常の年俸総額とは計算方法が異なる)は、収益分配金の1.5倍以上でなければならない。

 しかしマーリンズはその協定を無視しようとしている。同球団は7000万ドル(105億円)以上の収益分配金を受け取ると見られており、それであれば年俸総額は1億500万ドル(157億5000万円)以上でなければならないはずだが、現時点では8546万ドル(128億1900万円)と2000万ドル以上も下回っている。

 さらにチームは、シーズン中に必要な補強を行なうどころか、エースのサンディ・アルカンタラを他球団にトレードし、若手有望株と交換すると予想されている。彼の年俸1730万ドル(25億9500万円)はチーム内で群を抜いて高額で、ほかの選手は全員500万ドル(7億5000万円)以下。ロースター40人のうち、メジャーリーグ経験が3年以上ある選手は、わずか4人しかいないのが現状だ。

【打者として役割を果たし二刀流復活を目指す大谷】

 MLBの構造的課題を象徴するようなシリーズのなかで、ひときわ輝いていたのが、父親になったばかりの大谷翔平だった。4月29日のマーリンズ戦では、父親になって初めての本塁打となる"パパ1号"を放ち、試合後には「無事に生まれてきてくれて感謝していますし、寝不足気味でしたけど、心地よい寝不足というか、幸せな寝不足だったので、球場でも動けていたかなと思います」と笑顔を見せた。初めて子どもを抱いた瞬間については、「温かかったですね。予想より大きく生まれてきてくれて、まずは安堵というか、健康な状態で生まれてきてくれてよかったです」と振り返っている。

 昨季「50-50」を達成した際は、4月終了時点で7本塁打、5盗塁だったが、今季は同じ7本塁打ながら、盗塁は9と上回るペース。特筆すべきは、メジャー全体でトップの32得点で、1番打者としてしっかり塁に出て、得点を重ねる役割を果たしている。

「50-50」といえば、昨年までのドジャースの一塁ベースコーチで、出塁した大谷とヘッドバンプを交わす姿で知られるようになったクレイトン・マッカラーは今年からマーリンズの監督に就任している。ふたりの絆は深く、大谷が父親になったと知ると「すぐにメッセージを送りました。自分も父親なので、その喜びがどれほどすばらしいか、よくわかります。子どもはあっという間に大きくなってしまうので、たくさん抱きしめてあげてとアドバイスしました」と明かした。

 しかし、このシリーズで大谷に圧倒されると、さすがに指揮官としては笑ってばかりもいられない。「ショー(大谷)は本当に特別な才能の持ち主で、今やその才能を"超一流"のレベルへと引き上げている。相手チームの立場から彼のプレーを見るのは、以前のように楽しいものではない」と悔しさをにじませた。

 大谷は打者として活躍を続ける一方で、4月26日にはブルペンで投球練習を行ない、二刀流復活への準備も着々と進めている。GMや投手コーチらが見守るなか、ノーワインドアップからしっかり腕を振り、直球、ツーシーム、スプリットを織り交ぜて28球を投げ込んだ。首脳陣は慎重な方針を貫いており、公式戦での登板は後半戦以降になる見通しだが、二刀流としての復帰に向けて着実に歩を進めている。9月、10月、激しい優勝争いのなかで二刀流の大谷が躍動する姿----それは多くの野球ファンが長年待ち望んできた光景だ。そして今、ドジャースのユニフォームを着ることで、メジャー8年目にしてようやくその姿が現実になろうとしている。

【成績の差は年俸の多少が原因ではない】

 それにしても、と思う。ドジャースはオーナーの強力なバックアップのもと、補強に惜しみなく資金を投じ、ケガ人が相次ぐなかでも5月1日(日本時間2日)終了時点で21勝10敗(勝率.677)とナ・リーグ西地区首位、全30球団でもトップに立っている。一方で、パイレーツ(12勝20敗/ナ・リーグ中地区5位)やマーリンズ(12勝18敗/同東地区5位)のように財布のひもが固く、限られた戦力で戦わざるを得ない球団は、常に下位に沈んでいる。現行のMLBにはサラリーキャップ制度が存在せず、球団間の戦力格差は年々広がる一方だ。

 そうしたなか、いまや名門ニューヨーク・ヤンキースのオーナーでさえ、サラリーキャップの導入を求めるようになっている。

 ただし、すべてを資金力の問題として片付けてしまうのは短絡的だ。パイレーツの実況アナウンサーとして31年目を迎えたベテラン、グレッグ・ブラウンは筆者にこう語った。

「競争の公平性を保つためにサラリーキャップが必要だという考え方は理解できます。ただ、実際に導入されるかといえば、今のところは無理でしょう。選手組合のトニー・クラーク専務理事が、"論外"と明言していますから。

 とはいえ、サラリーキャップがあれば成功が保証されるわけでもありません。たとえばNFL(プロフットボールリーグ)のクリーブランド・ブラウンズは、長年サラリーキャップの下でプレーしていますが、それが役に立っているとは言えません。シカゴ・ベアーズも同様に苦戦しています。結局は、球団の組織運営がしっかりしているかどうかです。トップからボトムまで、優れた組織運営が必要なのです。

 サラリーキャップがあれば助けにはなるでしょうが、それがすべてではありません」

 ピッツバーグではファンが「チームを売れ」と怒っているそうですね、と尋ねると、ブラウンはこう答えた。

「面白いことに、最近パイレーツがアナハイムで(ロサンゼルス・)エンゼルスと試合をしたとき、エンゼルスファンも『オーナーはチームを売れ』と合唱していました。オークランド・アスレチックスのファンも、数年前から同じことを叫び続けています。昨オフには、カブスのファンも『オーナーはもっと金を使え』と怒っていましたし、ヤンキースファンもフアン・ソトと再契約できなかったことに不満を露わにしていました。

 要するに、どの都市でも、勝てなければ『金を使え』『チームを売れ』と批判される。勝てば文句は出ない。それが現実だと思いますよ」

 結局のところ、必要なのは"お金"だけではなく、"組織力"なのだ。

つづく

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