
ビー玉といえば、子供の頃に遊んだ懐かしいおもちゃやラムネを思い出す人も多いのではないでしょうか。ラムネびんの製造本数は10年で4倍になっている一方で、ビー玉が危機的状況だというのです。国内唯一の“ビー玉製造メーカー”である松野工業の担当者を取材しました。
ラムネ人気は上昇するも… “まんまるのビー玉”が不足全国ラムネ協会によると、ラムネびんの生産実績は
▼2014年 約3500万本
▼2024年 約1億3972万本
と10年間で4倍以上、増加しているといいます。(※1)
|
|
特に、海外での人気が急上昇していて、9割が海外への輸出用となっていますが、“まん丸のビー玉”が不足し、新規の海外案件を断ることもあるといいます。
「ビー玉の用途は多岐にわたる」あなたの周りにも隠れているかも――現在、ビー玉が危機的な状況であると聞きました。現状を教えてください。
戦争直後は大阪を中心に17社ありましたが、価格競争の影響などで減少し、現在では1社のみとなっています。
ビー玉といっても、子どもが遊ぶ「おもちゃ」「インテリア商材」「ラムネ」「工業用」に分けられ、この4つ全てを作っているビー玉製造工場は、日本で唯一、ここ(宮崎県門川町の)門川工場しかありません。
――ビー玉って、そんなに種類があるんですね。
|
|
意外と私たちの身の回りにいっぱいありますよ。
例えば、日焼け止めスプレーの中に入っているカラカラと音がする玉は、液体撹拌用の工業用ビー玉です。あとはカラースプレーに入っているものもそうです。日常生活の中で、知らないうちに重要な役割を果たしているんですよ。
――中でも、とりわけ、ラムネ用のビー玉というのは製造が難しいのでしょうか。
もちろん、どのビー玉も高いクオリティで製造していますが、特にラムネに使うビー玉は炭酸飲料に栓をするため、一番、真球度(球の真円度)が要求されます。さらに、ビー玉の中に気泡があると、製造過程でビー玉同士がぶつかって割れてしまったり、お客様に届くまでに割れてしまったりして、それらが口に入るということはあってはならないので、1番シビアな部分であるといえます。
――“まんまる”に仕上げるには、具体的にどんな技術が必要なのですか?
企業秘密なのであまり詳しくはお伝えできませんが、特に難しいのは、ガラスの溶け具合です。溶かしきれていないと、不純物が混ざってしまうし、生地は硬くなる。けれど、溶かしすぎたら上手く成形できない。硬くもやわらかくもない、そのちょうどいい硬さにするところが難しい点です。
|
|
また、気温や気圧の変化も製造に大きな影響を与えます。例えば、冬場に荷物を搬送して、シャッターをいつまでも開けっぱなしにしておくと、気圧の変化で、せっかく均一に出始めてきた、安定したビー玉のサイズが変わってしまうということもあります。それでも、計測して初めて出るぐらいの誤差なのですが、細心の注意を払って製造しています。
国内産と海外産 クオリティの差は…?――海外産のビー玉と異なる点を教えてください。
やはり、私たちは「工業用」や「ラムネ」のビー玉という高品質が求められるものを作っていて、海外のおもちゃ向けで作っているビー玉とは、大きな違いがあると思います。
ということで、市販で手に入る「国産」のビー玉と「海外産」のビー玉を比べてみました。
松野工業が手がける“ビー玉”を手にとってみると、見た目では、大きさも均一。奥が透き通っているのが分かります。
一方、海外産のビー玉には楕円形のものが混ざっていたり、凹凸があったりもしました。
残された企業として…今度の展望は――最後に、残された企業、そして高い技術力をもつ企業として伝えたいことはありますか?
これは一個人の見解ですが、ビー玉は私たちの身近に潜んでいて、その存在を知られることもなく役目を終えたら、ひっそりといなくなってしまう、ちょっとかわいそうな子たちなんです。
ビー玉は軽視されがちですけども、戦後の日本技術の結晶なんですよね。やはり、日本の工業製品として高い技術を持っているということが1番の誇りです。
今後は、国内唯一のビー玉を専門で製造している会社として生産の火を消さず、技術を継承していくこと、新たなビー玉の魅力や活用方法を見出していくことが必要だと考えています。
そろそろ、暑くなってくる季節。
綺麗なビー玉に目を向けてみてはいかがでしょうか。
小さなガラス玉の中に、日本の技術力と製造者の想いが詰まっています。
(※1)一般社団法人全国ラムネ協会調べ
取材:TBSテレビ デジタル編集部・小林愛